営業マンは異世界で初めて人と戦いそれを撃退するのだが仲良くしてる受付嬢がなんだか気持ちに変化を催したり
また1万文字超えてしまった。
長いですがどうぞ。
さて、ギルドに到着した俺は現在受けられる仕事の受注と、先ほど起きた時に確認した疑問を解消するべく身近な人物を探していた。
受ける仕事自体はすでに決まっている。
依頼は掲示板から依頼書を剥がし、カウンターに持っていくことで手続きに進める。
本日こなす仕事の候補となる依頼書は既にこの手にある。
あとは、カウンターで応対しているギルド職員にこれを持って行き、ついでに先の疑問も尋ねれば良い。
「ということで、本日も少しだけご教授頂けるとありがたいです」
「最近は私のところにいつも来られますね。まぁ、良いですけど」
「最初にお世話になった方の方がある程度気心が知れているといいますか、街での暮らしに慣れたとはいえ知り合いに頼れるのなら頼りたくなりますよ。ですのでリサさん、よろしくお願いします」
「分かりました。それじゃ、少し待っててください。今さっさと手続きの方終わらせちゃいましょう」
リサさん本人も言っていたが、ここのところリサさんが仕事をしている時は彼女に頼むことが多い。
特に他意があるわけでは全くなく、俺の彼女への感情はある程度交流のある知人といったところだ。
異世界という環境で暮らす以上は、無くせる不安はなるだけ無くしたい。
ましてや俺のスキルというのは、使い道を誤ると非常に危険な物と化す。
俺自身の身体能力についても同様のことが言える。
俺のことを何も知らない職員と知っている職員とでは、どっちの方が話しやすいかということだ。
気心知れていると言ったのはそういう要素が大きい。
あとは、俺のスペックを見ても少し驚くだけでその後は特に変わらず接してくれている、というのもある。
このような人物はおそらく貴重な存在だろうから、くれぐれも機嫌を損ねないようにしよう。
「では、本日受けていただく依頼は『リグル道具店』の臨時店員のお仕事ですね。今回は全日拘束の賄い付きとなりますけど、よろしいですよね?」
「問題ありません。お願いします」
「では、こちらが依頼の受注証明書と先方にお渡しする書類となります。地図はもう流石に要らないですよね?」
「はい。だいぶ街の構造も覚えてきましたから」
流石に滞在して2週間も経っているし、メインストリートと主だった商店の場所くらいは頭に入ってきている。
「ならば良いでしょう。本日の依頼は日給銅貨13枚となります。頑張ってくださいね。……と、ここまでが本来の仕事なんですが、タカヒトさんのお聞きしたいこととは何ですか?」
「今朝改めて自分のスキルを確認していたのですが、見慣れない単語がありまして。『三種属性』と『回復属性』って具体的になんのことを表しているか、分かりますか?」
「大雑把な説明か、ちょっと込み入った説明とどちらが良いですか? 込み入った方だと、魔法専門の職員にバトンタッチになるんですけど」
「とりあえず今は大雑把な方で。依頼の方もありますし」
「はーい。それじゃあサクッと説明しますね」
数分のリサさんによる講義が始まった。
簡単に言うと『三種属性』っていうのは、攻撃系の『炎』『雷』『氷』の三種類の属性の魔法を表すらしい。
某最後の幻想にもある、最初に使える魔法の鉄板属性というやつだな。
それぞれ基礎魔法は『ファイア』『サンダー』『フリーズ』というそうだ。
どうせ他の二種類が某最後の現像と同じ名前の魔法なら、フリーズもブリザドにしちゃえば……あれ、なんか警告音が頭の中に響き渡ったぞ。
とにかく、その三種類の属性をまとめて『三種属性』と括っているとのこと。
他には『風』『土』『水』『聖』『闇』という属性もあるらしいが、その辺は今は俺は使えないのでまた今度となった。
次に『回復属性』だが、これは見たとおり『ヒール』といった回復系の魔法を別枠で括っているとのこと。
それなりに成長すれば、解毒や状態異常の回復といった事も出来るそうな。
基礎魔法はヒールと、その一つ上の魔法の『ハイヒール』だけらしいが。
他の魔法は中級クラスの魔法に分類されるようで、『初』のスキルでは習得できないのだそう。
欲しかったらスキル横の漢字が『中』にならなきゃダメそうとも。
ただ、どの魔法も共通して言えることがある。
ステータスの『魔力』と『知力』の二つが、魔法の出力に大きく影響するらしい。
人によっては、初級の魔法でも結構な威力になる可能性も孕んでるようで、基礎魔法だからと侮らずしっかり修練を積んで感覚をつかむ事が大事だそう。
スキルのレベルと獲得できる能力の一覧にわざわざ(要修練)と書いてたのはそれが理由か。
ていうか、魔力って魔法使うと減るんじゃ?
と思ってギルドカードを見てみる。
ステータス一覧の一番下のところにこんな表記があった。
HP:14320
MP:9752
魔力と魔法を使うのに必要なエネルギーは別なんかい!!Σr(‘Д‘n)
てっきり『体力』=HPで、『魔力』=MPだと思っていた。
ステータス的には別なのかい。
というか、なんでこんな下に書いてるのよ。
普通この二つの数値ってステータスの一番上に載っけねえか?
幸い分かったから別に構わないけどよ。
この(多分)不具合を直すために、カードの修復費用として金貨を請求されたら嫌だし。
いや、この間のラパーヌの素材を売っぱらったことで、実を言うと現在合計にして金貨43枚ほど貯蓄はある。
いやはや、ラパーヌの肉が特に高く売れたのなんのって。
おかげさまでそれなりの額を稼がせていただきました。
だが、このギルドカードは本来1枚をワンオフで作ると金貨5枚は掛かるとされている。
どういう仕様かは知らないが、なんとなくこういう不具合は直そうとせずに再発行という形を取りそうな気がするのだ。
これが絶対に偽造が出来ないっていうことは裏を返せば、修正も容易じゃないってことだからな。
そんなのを払うことになるのは嫌だ。
貧乏性というかお金は大事にしようという感覚は大事なのだ。
と、話がずれたな。閑話休題。
「それでは、行ってまいります」
「いってらっしゃいタカヒトさん」
話を切り上げて、本日の依頼人のもとへと急ぐ。
そんな俺のことを陰でジッと見ている奴がいたが、特に何かしてくる訳でもないのでスルーしておこう。
何かされたら、その時に対応すればいいだけのことだ。
ジッと見続けるくらいなら堂々と話しかけてくればいいのに。
俺に表立って話しかけてこないってことは、何か頭に良からぬことを考えてるかもしれないが。
一応、スキルで『マーク』はしておこう……。
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「それじゃあ兄ちゃん!また人が足りなくなった時は頼むぜ!」
「その時はまたよろしくお願いします」
以前、高級薬品であるポーションの大安売りにヘルプで仕事をしたリグル道具店。
今回は『諸般の事情により、売り子と会計をする店員に欠員が出たためそのヘルプが必要』という依頼だった。
店主のリグルさんとはポーション祭り(大安売りを勝手に俺が呼んでる)以来、何かと仲良く交流させて頂いている。
普段の人としての振る舞いにがさつな所はあるものの、商品管理や売り込み方といった『商人』としての振る舞いは客に合わせて細かな所まで気配りされていて、客の目線で商売を考えられる素晴らしい商人の一人である。
店員に対しても時々厳しく接することはあるが、基本はフレンドリーで頼りになるおやっさんという感じで好感も持てる。
そんな彼のお店のヘルプ店員を一日中こなし、賄い飯を頂いた所で別れを告げギルドへと向かう。
その道中、裏道の方から朝感じた者と同じ気配を感じたので足を止める。
人違いの可能性もあるので、念のため『マーク』したあの男の居場所を探してみる。
結果、俺の近くの裏道に反応があった。
間違いなく、こんな時間でこんな場所に俺を待ち伏せてるってのは、ロクでもねえ事考えてるな。
「……なにか? 朝からずっとこちらを見てましたけど、言いたい事があるなら堂々とされては?」
「……気付いてたのなら話は早い。お前には死んでもらう」
「なに?」
聞き返した直後、剣を抜いたかと思えばいきなり俺に斬りかかってきやがった!
なんだ? なにがしたいんだコイツは!
「いきなり斬りかかるってどういうつもりだ!」
「うるさい! 死ね!」
ダメだちくしょう。
相手が完全に興奮していて話にならない。
本来は街中で鎌の刃を出すと不味いが、やむを得ずカバーを抜いてこちらも応戦する。
相手の男はひたすらこちらに斬りかかってくる。
しかもどれもが首や胸といった急所を狙ったものなので色々おっかない。
本格的に命の危機にあると判断し、『鷹の目』を発動する。
思考がクリアになり、相手の一挙一動がはっきり知覚できるようになる。
相手からなおも振り下ろされ続ける剣を、鎌をぶん回して威嚇しながら防ぐ。
「何の理由もなしに斬りかかられるとは! どういうおつもりなのか聞かせて頂きたいんですけどね!」
「黙れ! いいから死ね! お前は俺が殺してやる!」
その言葉を最後に、相手からの攻撃がますます苛烈になってゆく。
(チッ……、このままじゃ対人戦の心得がほとんど無い俺の方が不利だな。あまりやりたくはないが、こうでもして諦めてもらうしかないか……)
俺は鎌を片手に持ったまま、ギルドの方へと疾走した。
「なっ! クソッタレ! 待ちやがれぇ!!』
「悔しかったら付いてこいよ! このサイコ野郎!!」
「んだとぉッッ!?!?」
やつが本当にブチ切れたのが分かった。
やはりどこの国や世界でも、精神的にイカれてるという蔑称で使われる『サイコ野郎』は結構頭にくるようだな。
地球じゃこうやって武器持った相手を煽るのは自殺行為も甚だしいが、あいにくこの世界では見た目と実際のスペックが必ずしも一致するわけではない。
まあ、わけを話す事もなくいきなり殺しにかかってきてる以上、欧米じゃ本当にサイコ野郎と呼ばれても仕方ないんだがな。
「どうしたサイコ野郎! 目の前のおまんま食いっぱぐれていいのか?」
「テンメェぇぇぇぇぇぇぇっっっっ!!!!!!」
適度に煽り、追い付かせず見失わない適度な距離を維持してギルドに向かう。
やがて、ギルドの正面玄関まで来たところで再び鎌を構える。
追いついてきた男は、相当血が上っているのかここがどこなのか分かっていないようだ。
この程度の煽りに乗せられて我を忘れるとは、結構短気な性格なのかね。
「逃がさねえぜ! てめえは必ず俺がぶっ殺してやる!」
周囲は突然の男の行動に驚き、慌てて離れる。
奴はそのまま剣をこちらに振り下ろしてくるが、今度は俺も容赦をする気はない。
先の戦いでレベルアップした『鎌使い』の能力、鎌の刃に力を纏わせ威力を高める能力を使ってみる。
すると鎌の刃がなにやら紅く光り始める。
これが、魔力を宿した状態というわけか。
振り下ろされた剣に対し、鎌をさらにその上から叩きつけるように振るう。
鎌がそのまま剣を叩きつけるだろうと思ったのだが、経験不足による見込みの甘さが出た。
剣は構造上、横からの力にはあまり強くない。
加えて当たったのは、鎌の刃の先っちょという細い部分。
おまけに強度という面では鎌の方が上。
結果。
鎌が触れた所に力が一極集中し、剣がポキンと折れた。
「なっ!? クソ! だったら次はこいつでお前を……
「いい加減にしなさい! あなたを往来での無許可決闘の罪で拘束します!」
「黙れェっ!!」
騒ぎに気がついたリサさんと他の冒険者や職員たちが出てきて男を捉えようとするが、それよりも早く懐からナイフを取り出した男は、なんと俺ではなくリサさんに向かって一心不乱に突っ込んだ。
「っ!?」
「こうなったら!! こうしてやる!!」
刹那、『鷹の目』のスキルが発動し、周りの動きがスローになる。
周囲が到底追いつけないほどのスピードで思考が回り出したのだ。
だが唯一俺の体は、もはや神速レベルの思考のスピードにもある程度付いていける。
最悪俺が盾になるくらいの気持ちで、男に向かって必死に駆ける。
スローになった男のナイフがリサさんの胸、心臓を捉える一歩手前のタイミングで、なんとか俺は男にタックルを食らわせる。
攻撃が成功した瞬間時間の流れが元に戻り、男は「ぐはっ!」という情けない声とともにぶっ飛ばされる。
無論その隙を逃す連中ではない。
冒険者と職員たちは慣れた手つきで男を瞬く間に拘束し、後からやってきた街所属の衛兵団に身柄を引き渡された。
「大丈夫ですか!? タカヒトさん!」
「ええ……。朝からずっとこちらを見ていて怪しかったので、警戒していたのが功を奏したようです」
「お怪我等は?」
「見ての通り、ピンピンしておりますので心配は無用です」
「良かった……」
あからさまにホッとした様子を見せるリサさん。
初めて会った時以来、久々に受付嬢ではなく素の彼女の一面を見た気がするな。
たまには素の一面を見せてくれてもいいのよ?
おじさんはそういうの見るとほっこり和むから。
もっとも、こんな傷害未遂事件に知り合いが巻き込まれた挙句に自分が標的にされたとなれば、こういう反応は当然なんだけれども。
いずれにせよ、彼女に怪我がなくてホッとしたのは俺も同じだ。
「しっかし、あいつはなんで俺に、挙句にはリサさんに仕掛けてきたんだ?」
「タカヒトさんに身に覚えがないんですか?」
「ええ。見られてるって気付いたのも今朝が初めてでしたから」
「そうですか……。なんにせよ、ご無事で良かったです」
そう言ってリサさん、今までで一番可愛い笑顔を浮かべた。
あらあら、いい笑顔じゃないか。
うちの部署にいれば絶対武器になっただろうに。
と、そこへ犯人拘束に関わった女性の職員が歩み寄ってくる。
切れ長の瞳の美女。
これは仕事ができる女ってタイプの女性だな。
しかも眼力からくる威圧という気迫がすごい。
「あんたやウチのリサが狙われた理由、教えてあげよっか?」
「あなたは?」
「アタシ? アタシは職員で受付嬢のルーナよ。で、聞きたい? どのみち事件の詳細と調書取らなきゃなんないから、アンタを返すわけにはいかないんだけど」
「でしたら、そのついでにでも是非教えてください」
「はいよー。んじゃあ、とりあえずはギルドに来て。事件に巻き込まれたことの慰労ってか、とりあえずお茶淹れてあげるからさ」
「それはそれは。どうもありがとうございます」
というわけで、一同調書を取るためにギルドに戻ることに。
そのついでというか元々の目的である依頼達成の報告を終えた上で、今回は人に聞かせる話ではない関係から2階に移動。
通されたのは、庶民に流通しているものと比べると少しだけ質が高い調度品の置かれた部屋。
ルーナさんに着席を促され、俺とリサさんはルーナさんの対面に座る。
ん?
「あの、なぜリサさんがこちらに?」
「何か不都合なことがありますか?」
「調書を取る作業はお二人が隣で座った方がやりやすいと思うのですが?」
「……むぅ」
何故かむくれられる。
が、俺の言うことは的を射ていたのもあって、素直に俺の対面の位置に座り直した。
顔は変わらず少々ご不満のようだが。
その様子を知ってか知らずか、ルーナさんはお茶を淹れると言って席を立って部屋を出てしまった。
おいおいおい、この状況で放置するのかよ。
いや、去り際にニヤリとしてるのが見えた。
何考えてるのか知らないが、とりあえずわざとこのタイミングで席を外したな?
「タカヒトさん」
「はい?」
「さっきは助けてくれてありがとうございました」
「何かとお世話になった恩人の一人ですからね。それに、助けられる力があるのに助けないのはダメだと思って」
「えっ?」
「人を助けられるだけの力があるなら、それを行使して救える命は救いたいと思ったんですよ」
「なんだ……そうですよね」
「お待たせ。お茶が入ったよ」
ちょうどいいタイミングで部屋の扉が開き、香ばしい香りのするお茶を持って入室してきた。
それぞれにお茶の配膳を終えると、ため息を吐いてルーナさんは口を開く。
「じゃあ、あんたリサが襲われた理由だけどね。結論からいうと、あの男はリサのストーカーよ」
「へっ!?」
「え? ウソ? あの男って、アイツだったの?」
どうやらリサさんも男のストーキング自体には気が付いていたようだ。
夜になると月明かりと松明の明かり位しか頼れる光源が無くなるこの世界。
暗くて男の顔まではよく捉えられなかったのだろう。
しかし、ストーカーねぇ。
そんな男が俺にいきなり斬りかかってくるっていうのは……。
「あんたの考えてる通りよ。最近あんたが事あるごとにリサのいるカウンターに顔出すから、それ見て遂に一線越えちゃったんでしょ」
「今朝から俺をジッと見てたのはそういう事か……」
まったく、ストーキングなんてするんじゃないと言いたい所だ。
しかし今回リサさんを巻き込んだのは、俺の配慮の足りなかったせいでもある。
リサさんは受付嬢を仕事にしてるだけあって、容姿はとても整っている。
綺麗というよりは可愛いという方が適切な顔の作りをしている。
アジア系の顔つきではないが、だからと言って鼻はそこまで高くはない。
個人的には鼻の高い顔つきというのはあまり好みじゃないので、この点容姿は俺のタイプに一致してるともいえる。
栗色のボブカットの髪もまた綺麗だし、スタイルもそれなりに整っている。
そして何処にでもいそうな街娘のロングスカートもポイントが高い。
ストーカーを庇うつもりは全く無いが、正直ストーカーが出てくるのは納得出来るレベルの美女だ。
誰がどう思ってたって知ったこっちゃねえが、知り合いがいるならその人に頼ってしまえという俺の行動が、結果的に彼女を危険な目に合わせてしまった事を考えると申し訳が無い。
「すみません、リサさん。俺が頼り過ぎたせいでこんな目に合わせてしまって」
「タカヒトさんが気にする事は無いんです! 私も、タカヒトさんと話してて楽しかったですし、ストーカーされてるって事を忘れられる位には楽しく交流できたんです。……実を言うと、タカヒトさんと会うまではあの男がいつ何処で私を見てるのかって、ずっとビクビクしながら仕事してました。でも、タカヒトさんが来て、タカヒトさんとお話する機会が増えてから、いつもタカヒトさんと話してるときは不思議と不安が無くなって……」
「そうでしたか。知らなかったとはいえ、少しの間だけでもリサさんの心の調子を整えるのに役立っていたのなら嬉しいです。さあ!さっさと嫌な話は終わらせて帰りましょう!ルーナさんも、調書の方よろしくお願いします」
「はいよ。んじゃあ早速だけど……」
そうして、ルーナさん主導による事情聴取は1時間ほどで終わった。
現在時刻は体内時計では夜の11時頃という所か。
今日はもう遅いという事でギルドに泊まる女性の二人と別れ、宿舎の方へと足を運ぶ。
まさか一月も経たない内に襲われるとはな。
もし会社員時代の体力そのままだったらどうなっていたか。
想像するだけでも恐ろしい。
やはり、治安が世界的に見ても凄く良い日本の感覚でいてはダメだな。
夜道や薄暗い裏通りといったところには近付かないように、どうしても必要な場合は最大限の警戒を。
あまり必要は無いと思っていたけど、護身のために暗器は持っていた方が良いかもしれない。
鎌では大きすぎて取り回しの環境に制限がある。
裏道みたいな狭いところでは、性能を完全に引き出して戦えない。
となると、小物で武器としての能力もある暗器は万一のために携行していた方が良いな。
とにかく、今日も色々あって疲れた。
鎌を仕舞い、窓を閉めてベッドにダイブすると途端に眠気が出る。
予想以上に、命がかかっていた状況というのは俺の心に疲労を与えていたようだ。
とりあえず、また明日だ。
おやすみなさい。
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ここはギルド職員用の仮眠室。
受付嬢として勤めている女性二人が、ベッドに腰掛けながら話をしていた。
「どうしたのリサ。さっきはあんな風に本心曝け出しちゃって。普段はアタシら職場の身内以外には、事務的とまではいかないにしても、内心は見せない一線引いた対応をするあんたが、随分と珍しいね」
「本当、なんでなんだろ……」
実のところ、リサという女性は普段は身内以外には一線を引いて接する女性だ。
初めてタカヒトを見かけた時、タカヒトが冒険者の登録をしたいというのを小耳に挟んだ時、普段なら自分が受付しない限りはどうでも良い情報として処理し、自分からは積極的に関わらないように振る舞うはずなのに。
なぜか彼女はタカヒトに対し「登録の受付はもう終わった」という冗談をついていた。
それを聞いて頭からスライディングを決めるという、とてもオーバーなリアクションをしたタカヒトを見て可笑しかった。
でもそれ以上にその時、なぜか心が少しだけ満たされたような感覚を覚えたのだ。
それから登録が済んでからというものの、タカヒトはリサの姿を見つけるとなるだけ積極的にリサのいるカウンターに並んだ。
本人曰く、自分のスキルや身体能力を知っていながら変わらず接してくれる人は話しやすいとの事。
彼自身、冒険者として知っておいた方が良い知識が欠落している所もあり、彼がそれを訪ねようとわざわざリサの元へ訪ねに来てくれるのは嬉しかった。
その時は人の役に立てて嬉しいという感情だけだと思っていた。
しかし、タカヒトと出会う以前から受けていたストーカー被害が、タカヒトと交流する機会が増えてから急に酷くなり始めた。
以前からも恐怖を感じる事は多々あったが、それが度を超えてきたのだ。
それでも仕事に影響させてはならないと、リサは懸命に仕事に打ち込んできた。
そんな中で、タカヒトと話す時間はリサにとっていつしか貴重な心休まる時間になった。
どこか彼と話していると安らぎを感じ、話している時は嫌な事を忘れて純粋に会話を楽しめた。
そして極め付きに、今日のストーカーの自棄になった突発的な行動。
その脅威から、自分の体を使ってリサの身を守ってくれたタカヒト。
本当に、なんで自分はタカヒトの事を思うと心が満たされるのか?
リサは初めての感覚に戸惑っていた。
「戸惑ってるなら、自分から積極的に動いて解決の糸口を探すのもアリだと思うよ」
「ルーナ……」
頼れる同僚の言葉を聞き、一瞬迷いを浮かべるリサ。
しかし、すぐに自分の頬をピシャリと両手で叩き、引き締まった表情を見せる。
「うん。私の気持ちがなんなのか、探してみる」
「そうだね。アタシも手伝える事があれば協力するよ。それじゃあ、あんな事があった夜ではあるけど今日はもう寝よう。お休み、リサ」
「おやすみ、ルーナ」
ルーナが部屋の明かりを消して、暗闇が部屋を支配する。
リサは内心、もしかすると男が襲いかかってきた瞬間を思い出すかもしれないと思ったが、そんなことはなかった。
むしろタカヒトの時たま見せる笑顔ばかりがなぜか頭に浮かんで、たまらず布団の中に顔を埋める。
(アタシもリサと同い歳ではあるけど、若いねぇ)
リサが自分の気持ちの正体を見つけるのは何時になるだろうか。
そんなことを考えながら、悶々としてるリサを横目にルーナは先に眠りについた。
ちなみに、ルーナは良い意味で大人っぽく見られるが、彼女とリサは24歳のまだまだ現役の若いピチピチガールである。
あら?
なんかフラグが立ったような気が。




