↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/66

第五十話 勇者は、餌になる

 決戦の日が来た。


 出発前、僕は祝福の一覧を開いた。


 パラスを倒して位階三十になってから、まだ祝福点を使っていない。残っているのは六点。


 これまでは基礎を優先してきた。


 祝福は、身体や精神、魔力の器を広げるものだ。


 《剣術》を高めれば、より高度な剣技を扱える身体と感覚を得る。《身体覚醒》なら、さらに高い身体能力を引き出せるようになる。


 ただし、器が広がっただけでは使いこなせない。


 結局、訓練は必要になる。


 まず《剣術》へ一点。


《剣術》第五段階。


 身体の奥で、何かが馴染んだ。


 表示が切り替わる。


《剣術》――MAX。


《剣王道》


「……剣王道?」


 《剣術》として伸ばせるのはここまでらしい。


 この先は上位祝福《剣王道》へ進む。ただし、今すぐ祝福点を注ぐことはできない。


 対応する称号を得た時にだけ、その先へ進めるようだ。


 次に《魔法剣》へ一点。


《魔法剣》第三段階。


 こちらもMAXになった。


 同時に、新しい称号が追加される。


《魔法剣士》


 敵の魔法攻撃に対して、魔力を纏わせた剣で干渉できるようになった。


 斬る。


 逸らす。


 受け流す。


 威力差が大きければ無理だろうけど、回避以外の選択肢が増えるのは大きい。


 残り四点。


 祝福で器を広げ、条件を満たせば称号を得る。その称号によって、具体的な技――スキルを覚えられる。


 覚えた後は、訓練や実戦で熟練度を高める。それによって、さらに次のスキルが開いていく。


 魔法も同じだ。


 まず祝福によって素養を得て、その先で具体的な魔法攻撃をスキルとして身につける。


 ナディアたちの《暗殺者の教え》も、この仕組みに近い。


 一覧を見る。


《真空回転斬》


 身体を軸に回転し、周囲をまとめて斬り払う剣技。


 必要祝福点は二点。


「二点か」


 少し重い。


 でも、包囲された時だけに使う必要はなさそうだ。前線に穴を開ける。敵をまとめて押し退ける。使い方次第では応用も利きそうだ。


 取得。


 残り二点。


《ワンインチパンチ》


 密着に近い距離から、ごく小さな動作で爆発的な衝撃を叩き込む体術。


 必要祝福点は一点。


 剣を振る余地すらない間合いで使える。


 これも取得した。


 残り、一点。


「さて」


 何に使おう。


 一覧を眺めていると、見覚えのない名前が目に止まった。


《屍山血河》


「……こんなの、あったっけ?」


 一周目で見た記憶がない。


 仲間の中にも、こんな祝福を持っていた奴はいなかった。


 効果を確認する。


 周囲に存在する死体の数に応じて、身体能力と魔力回復速度に補正。


 死体が多いほど効果は高まる。


「変なの」


 名前も効果も妙に物騒だ。


 ただ、今日の相手を考えれば相性はいい。


 アンデッドも条件に含まれるなら、かなり使えるはずだ。


「まあ、便利そうだし」


 最後の一点を使った。


 祝福点、零。


     ◇


 決戦場へ向かう前に、最後の打ち合わせを行った。


 僕とカシウス。


 ナディア。


 アサシンギルドの主だった者たち。


 机の上には、決戦場周辺の地図が広げられている。


「今回の最終目標を確認しておきましょう」


 カシウスが地図の一点を指した。


「アンデッド軍の殲滅でも、前線の奪還でもありません」


 指先が止まる。


「エンブリオ本人を、この地点までおびき寄せることです」


 ナディアが地図へ目を落とした。


「ここまで来させるのですね」


「ええ」


 カシウスは同盟軍の配置へ指を移した。


「先陣は都市同盟軍。それに勇者様です」


「騎士団じゃないんだ」


「対アンデッド戦に関しては、彼らの方が経験があります」


 南方の兵士たちは、ここまで何度もアンデッド軍と戦っている。


 押すべき時。


 退くべき時。


 死体を残せばどうなるのか。


 そうした判断は、騎士団よりずっと身体に染みついている。


「騎士団は左右と後方を固めます。突出した同盟軍が包囲されないよう支え、戦線を維持する役目です」


「僕は前にいればいい?」


「できる限り」


 カシウスが頷いた。


「勇者様が前線にいる。それ自体が、エンブリオを引きつける材料になります」


 同盟軍が押す。


 騎士団が支える。


 僕は前線に居続ける。


「一気に崩す必要はありません」


 カシウスの指が、地図の上をゆっくり進んだ。


「後退する余地を少しずつ奪います。何もしなければ、このまま押し切られる。そう思わせるところまで」


「そこまで行けば、何かしてくる」


「そのはずです」


「何をしてくるかは?」


「分かりません」


 カシウスは即答した。


「ですが、何を出してきても、最終的にはこの地点まで誘導します」


 最初に示した場所を、もう一度指す。


「勝つ場所はここです」


 次にナディアを見る。


「ナディア殿たちは、開戦後も姿を見せないでください」


「旧ギルドが出てくるまで、影に潜みます」


「お願いします」


 エンブリオは、アンデッド化した旧アサシンギルドを斥候として使っている。


 決戦でも投入してくる可能性は高い。


 ハサムの見立てでは、アンデッドになっても、生前に祝福で拡張された身体能力や鍛え上げた技量は残る。


 ただ、祝福そのものは失われているらしい。


 ならば、称号を経て習得したスキルも使えない。


「準備は?」


「できています」


 ナディアが腰のカタールへ手を添えた。


 後ろにいるギルド員たちも頷く。


「このままでは、ハサムに顔向けできませんから」


 カシウスが地図を畳んだ。


「では、参りましょう」


     ◇


 決戦場には、すでに都市同盟軍が展開していた。


 槍兵と盾兵が前に並ぶ。


 その後ろに弓兵。


 同盟軍に参加している冒険者たちも、それぞれの隊へ組み込まれている。


 左右にはグランヴェルの騎士団。


 同盟軍が進めば、それに合わせて動く。


 横からアンデッドが回り込もうとすれば、騎士たちが押し返す。


 僕は同盟軍の最前列へ出た。


 正面には、地面を埋め尽くすアンデッド軍。


 人間。


 獣。


 骨だけになったもの。


 どれだけ集めたのか、奥が見えない。


 号令が響いた。


「前進!」


 都市同盟軍が動く。


 僕も一緒に走った。


 両軍がぶつかる。


 槍が腐った身体を貫き、盾が骨を押し倒す。


 倒れた一体を踏み越えて、次のアンデッドが突っ込んでくる。


 正面の一体を斬る。


 右から来たものを蹴り飛ばす。


 返す剣でもう一体。


 それでも数が減ったようには見えない。


「勇者様、左!」


 振り向く。


 さらに数体が迫っていた。


 気づけば、かなり囲まれている。


 その時、身体の奥に妙な感覚が走った。


「……ん?」


 身体が軽い。


 さっきより踏み込みが速い。


 使った魔力も、普段より早く戻ってくる。


 足元には倒れたアンデッド。


 その向こうには、無数の死体が歩いている。


「これか」


《屍山血河》。


 思っていたより分かりやすい。


 理由を考えるのは後だ。


 迫ってきたアンデッドを引きつける。


 一体。


 二体。


 三体。


「《真空回転斬》!」


 剣を振り抜く。


 回転に合わせて刃が円を描き、周囲のアンデッドをまとめて薙ぎ飛ばした。


「今だ! 前へ!」


 同盟軍が空いた場所へなだれ込む。


 僕も止まらない。


 戦線が、少しずつ前へ動き始めた。


     ◇


 高い岩場の上から、エンブリオはその光景を眺めていた。


 都市同盟軍が前へ出る。


 その中心には勇者。


 左右を騎士団が固め、戦線が簡単には崩れないよう支えている。


「へえ」


 エンブリオが目を細めた。


 兵士。


 冒険者。


 騎士。


 そして勇者。


 視界いっぱいに、生きた身体が並んでいる。


「いやいや」


 笑みが広がった。


「贈り物が大量だ」


────────────────────


【基本情報】


年齢:十三歳

位階:30

祝福点:0


【称号】


勇者

剣雄

魔法剣士 NEW

 《魔法剣》第三段階到達により獲得。


【祝福】


《剣術》第五段階 UP/MAX

 剣を扱うための身体・感覚・技術習得能力を高める祝福。

 第五段階到達により、上位祝福《剣王道》が解放。


《身体覚醒》第三段階

《第六感》

《鷹の目》

《獅子の子》

《後の牙》

《魔力増幅》第三段階


《魔法剣》第三段階 UP/MAX

 剣と魔力を同時に扱うための祝福。

 最大到達により、敵の魔法攻撃へ剣で干渉できるようになった。


《勇者の威徳》

《獅子奮迅》

《急所攻撃》第一段階

《体術》第三段階

《一撃必殺》

《近接連携》


《屍山血河》 NEW

 周囲に存在する死体の数に応じて、身体能力と魔力回復速度に補正。

 死体が多いほど効果が高まる。


【スキル】


《真空回転斬》 NEW

 身体を軸に回転し、周囲をまとめて薙ぎ払う剣技。

 包囲突破や、大群相手に突破口を開く際に有効。


《ワンインチパンチ》 NEW

 密着に近い距離から、ごく短い動作で爆発的な威力を叩き込む体術。

 剣を振る余地のない至近距離での切り札。


【装備・所持品】


バスタードソード

《空白の剣》

《反衝手甲》

銀鋼の胸当て

格闘靴

《初禍の環》

《盲夜の仮面》

《墓泳ぎの鱗》

《死刑囚の鎖》

魔法袋

聖水 ほか


────────────────────

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。