↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/65

第三十七話 魔族の本気

 パラスが大きく後ろへ跳んだ。


「《黒雷》!」


 紫色の雷が三本、時間をずらして飛んでくる。一発目を右へかわし、二発目は身体を沈める。三発目は僕が避けた先へ曲がった。


 剣で軌道を逸らす。雷が洞穴の壁へ突き刺さり、岩を砕いた。


「チッ! 《焔槍》!」


 今度は炎の槍だ。一本目をかわしたところへ二本目、そのさらに外側から三本目が飛んでくる。


 近づけさせる気はないらしい。


「どうしたヨ! 第二ラウンドじゃなかったのか!」


「もう始まってるよ」


 走りながら雷をかわす。


 さっきまでなら、魔法が飛んでくるのを見てから動いていた。


 今は違う。


 右手を大きく開けば雷。左肩が沈めば炎。連続で撃つ時は、僕が逃げそうな方向へ次の一発を置いてくる。


 攻撃は速い。


 でも、癖はある。


 右手が開く。


 雷。


 撃たれる前に進路を変えた。


「なっ」


 紫電が横を通り過ぎる。


 そのまま距離を詰めながら魔法袋へ手を入れ、《空白の剣》を抜いた。


 属性石を嵌める。


 火。


 刀身に炎が走る。


「そんなもの!」


 魔法をかわしながら斬りつけると、パラスは腕で受けた。浅く皮膚が裂けるだけ。


 すぐ石を抜く。


 土。


 重くなった剣を振り下ろす。


「効かないヨ!」


 拳で弾かれ、僕の身体が押し戻される。


 その間に次。


 風。


 刃の周囲に風が巻きつく。


 踏み込んで突く。


 パラスは上体を少しずらしただけで避けた。


「さっきから何してんだヨ!」


「試してる」


「僕で試すな!」


 炎が飛んでくる。


 横へ抜けながら属性石を替える。


 水。


 薄い水の膜が刀身を包んだ。


 斬る。


「――っ」


 パラスが後ろへ跳んだ。


 少し大きい。


 僕は追わない。


 火は受けた。土は弾いた。風も必要な分だけ避けた。


 もう一度。


 火。


 斬る。


 受ける。


 切り返しながら水へ。


「チッ!」


 今度は横へ大きく飛んだ。


「へえ」


「何だヨ」


 パラスが眉を寄せる。


 弱点かどうかまでは分からない。


 ただ、水だけは明らかに嫌がっている。


「お前の嫌がりそうなものが理解ってきたよ」


「……は?」


 パラスの顔が歪んだ。


「調子に乗るなヨ……」


 周囲の魔力が一気に膨れ上がる。


 空気が熱を帯びた。


 来る。


 魔人の全力。


 前の人生でも魔人とは何度か戦った。本気になった時の行動にはいくつか種類がある。肉体を大きく強化する奴もいれば、固有の力を使い始める奴もいた。


 さて、こいつは何をする。


 パラスがにやりと笑った。


「魔族を馬鹿にした屈辱、返してやるヨ!」


 両腕を広げる。


 視線がおかしい。


 僕を見ている。


 いや、僕の後ろまで見ている。


 《鷹の目》の広がった視界には、ゴブリンたちを相手にしているナディアとリナリアも入っていた。


 なるほど。


 僕が……いや、勇者が一番嫌がりそうな手を選んだらしい。


 パラスの全身が白く発光する。


「《灼界》!」


 光が膨れ上がった。


「焼かれろ!」


「リナリア! 《不動陣》を使え!」


「えっ――」


 リナリアが一瞬こちらを見る。


 なぜ僕がその祝福を知っているのか。そんな顔だった。


 それでも、すぐに剣を構える。


「……はい!」


 ナディアも同時に足元の影へ沈んだ。


 次の瞬間、光熱が洞穴一帯を襲った。


「ぐっ……!」


 熱い。


 《空白の剣》へ水属性を通す。


 押し寄せる熱へ刃を振るう。


 水が一瞬で沸騰した。


 大量の蒸気が噴き上がる。


 それでも、全部は消えない。


 熱が頬と腕を焼いた。


 衝撃に押され、足が滑る。


 皮膚がひりつく。


 息を吸うだけで喉も熱い。


 でも、死ぬほどじゃない。


 なら進める。


 水を纏った剣で熱をいなしながら、蒸気の中へ踏み込む。


 何も見えない。


 《第六感》。


 前へ。


「ハハハハハッ!」


 高笑いが聞こえた。


「どうした勇者! 仲間が焼け死ぬゾ!」


 声のする方へ走る。


 身体に熱が刺さる。


 それでも止まらない。


 蒸気を抜ける。


「ハハ……ハ?」


 パラスの目が見開かれた。


 両腕を広げたまま、全身から光熱を放ち続けている。


 やっぱり。


 この攻撃の間は、大きく動けない。


 僕はそのまま懐へ飛び込んだ。


「なっ――」


 水を纏った《空白の剣》を振り抜く。


「ぐあっ!」


 刃がパラスの脇腹を裂いた。


 初めて、はっきりと手応えがあった。


 パラスが大きくよろける。


「この攻撃の最中は、無防備になりそうだと思った」


「甘ちゃんの勇者が……仲間を庇わないだト!?」


「意外か?」


 リナリアなら耐えられる。


 ナディアなら逃げられる。


 だから僕まで戻る必要はない。


 目の前には、こいつを倒せる隙がある。


 僕がやるべきことは決まっている。


「でもな」


 パラスを見る。


「ムカつきはするんだよ、それでも」


「ヒッ」


 顔から余裕が消えた。


 パラスが半歩下がる。


「な、何だヨ……その目……」


 右拳を引いた。


 拳の周囲に熱が集まる。


「舐めるなァ!」


 殴りかかってくる。


 速い。


 《鷹の目》で肩と踏み込みを捉える。


 身体を捻った。


 拳が頬のすぐ横を通る。


 熱で皮膚が焼けた。


 紙一重。


 そのまますれ違いざまに《空白の剣》を返す。


 水。


「ッ!」


 パラスが大きく身体を逸らした。


 やっぱりだ。


 水だけは避ける。


 さらに追う。


 もう一撃。


「くっ!」


 今度は後ろへ大きく跳んだ。


 避けすぎだ。


 足が揃う。


 体勢が崩れる。


 胴が開いた。


 ここだ。


 《近接連携》。


 剣から拳へ。


 《急所攻撃》。


 一歩、踏み込む。


「お前が蓄えてくれたエネルギーを――」


 《反衝手甲》が震えた。


 この戦いで何度も受けてきた、パラス自身の打撃。


 溜め込まれた衝撃が右拳へ集まる。


「返すぞ!」


 腰を落とす。


 真正面から、正拳を撃ち抜く。


 《一撃必殺》。


「――――ッ!?」


 拳がパラスの腹へめり込んだ。


 止まらない。


 そのまま胴体を突き破る。


 一瞬遅れて、《反衝手甲》に蓄えられていた衝撃が解放された。


 パラスの身体全体が跳ねた。


 そのまま後方へ吹っ飛ぶ。


 岩壁へ激突した。


 轟音とともに壁が砕け、土煙が洞穴の中へ広がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。