第三十六話 勇者と暗殺者
パラスの拳を剣で受け流す。
続く蹴りをかわしながら、少し後ろへ下がった。
「また逃げるのかヨ!」
火球が三つ飛んでくる。
二つを避け、最後の一つだけ《反衝手甲》で受けた。
「ぐっ……!」
衝撃で足が滑る。
その勢いを殺さず、また少し下がった。
パラスは気づいていない。
さっきから僕は、ただ逃げ回っているわけじゃない。
視界の端では、ナディアとリナリアがゴブリンキングと戦っている。
リナリアが正面から剣を合わせ、ナディアが側面を取る。配下が割り込めば先に削り、キングを少しずつこちら側へ動かしていた。
ナディアが右へ回る。
僕も位置をずらす。
キングが追う。
僕も下がる。
「何なんだヨ、お前」
パラスが苛立った声を上げた。
「受けて、避けて、逃げてばっかり。何を待ってる?」
「さあね」
「……ムカつくな」
姿が消える。
右。
拳を剣で流す。
次は左から蹴り。
避ける。
さっきまでより攻撃が荒くなっている。
でも、まだだ。
ナディアがキングの背後へ回った。
もう少し。
「どこ見てんだヨ!」
パラスが踏み込んだ。
今度の拳は避けられる。
でも、避けない。
剣と《反衝手甲》を重ねた。
「――っ!」
まともに受ける。
凄まじい衝撃で身体が浮いた。
「勇者様!」
リナリアの声が聞こえる。
そのまま吹き飛ばされた。
狙った方向へ。
◇
僕が大きく吹き飛んだのとほぼ同時に、ナディアが動いた。
《影渡》。
ゴブリンキングの背後へ現れ、短剣を脇腹へ突き立てる。
「グオオオッ!」
キングが振り返った。
「リナリア、足を!」
「? ……! ええ!」
何を狙っているのかは分かっていない。
それでもリナリアは迷わず剣を振った。
キングの脚へ刃が入る。
巨体が傾いた。
ナディアが横へ抜け、キングがそちらへ身体を捻る。
首が空いた。
「勇者様、今です!」
地面へ着く。
そのまま足を滑らせ、振り向いた。
キングが見える。
パラスに吹き飛ばされた勢いまで使って走る。
「おい!」
後ろから声が飛んだ。
構わない。
ゴブリンキングはまだ体勢を戻せていない。
首へ剣を振り抜く。
刃が通った。
巨大な頭が地面へ落ち、その後から身体が崩れる。
リナリアが目を見開いた。
「今の……連携だったの!?」
打ち合わせなんてしていない。
僕がナディアの動きに合わせた。
ナディアも僕の狙いを読んだ。
この二年間、何度も一緒に戦ってきた。
今のナディアなら、ここまで合わせられる。
◇
身体の奥が熱くなった。
来た。
僕の位階は、この二年間で十九から二十一まで上がっていた。
でも、その間に得た祝福点は使っていない。
有事に備えて、取っておいた。
そして、今がその時だ。
位階が上がる。
二十二。
二十三。
二十四。
「……ああ」
パラスの表情が変わった。
「そういうことか」
僕と、倒れたゴブリンキングを交互に見る。
「僕の攻撃を受けながら、あくまでもキングを仕留める機会だけを待ってたんだネ」
「そういうこと」
祝福点は五つ。
まず《身体覚醒》を第三段階まで上げる。
これで、今まで捉えきれなかった相手の動きに対応できる。
新たに現れた祝福、《鷹の目》を取得。
視野が格段に広がった。
そして、《体術》第三段階。
身体に力が漲る。
今までより一段、武の高みに足を踏み入れた感覚があった。
そこまで上げたところで、新しい祝福が現れる。
これを待っていた。
《一撃必殺》。
明確な隙を晒した相手の急所へ正拳を叩き込むことで、その威力を倍化する。
最後の一点で《近接連携》を取得する。
剣と体術。複数の近接戦闘技能を一定以上まで高めたことで現れた祝福で、異なる攻撃手段へ移る際の継ぎ目を短くする。
「……?」
パラスの目が細くなった。
何を取ったかは分からないはずだ。
でも、何かが変わったことには気づいたらしい。
「ナディア」
「はい」
「後片付けを頼む」
キングを失った配下たちは、まだかなり残っている。
ナディアが周囲を確認した。
「かしこまりました。ですが、数が多いので時間がかかりそうです」
「こっちは一人でもいけるさ」
「……一人だと?」
パラスの顔が歪んだ。
「たかがキングを仕留めたくらいで、いい気になるなヨ!」
魔力が膨れ上がる。
「いくつ上がったか知らないが、たかが知れてるだロ! それで僕に勝てるとでも?」
紫色の魔力が洞穴の中を吹き荒れた。
「本気を見せてやるヨ!」
「こっちも」
僕は息を吐いた。
「ここだな」
《獅子奮迅》。
発動。
身体が軽い。
視界も、さっきまでとはまるで違った。
《鷹の目》で広がった視野の中に、ナディアとリナリア、残ったゴブリンたちまで入ってくる。
その中心にパラス。
動いた。
さっきまでなら、消えたように見えていた速度。
今は違う。
踏み込む足。
沈む腰。
振り出される拳。
全部見える。
剣を合わせた。
「――なっ!」
重い。
でも、追える。
パラスの拳を剣で外へ流し、そのまま一歩踏み込む。
向こうが距離を取った。
僕は剣を構え直した。
「さあ、第二ラウンドをはじめよう」
────────────────────
【ステータス】
【称号】
勇者
剣雄
年齢:十三歳
位階:19 → 21 → 24
祝福点:0
【祝福】
《剣術 第四段階》
《身体覚醒 第三段階》 UP
肉体・反射・感覚をさらに高い領域へ引き上げる。
これまで捉えきれなかった高速の動きにも対応できる。
《第六感》
《鷹の目》 NEW
視野を大きく拡張する。
戦闘中でも周囲の状況を広く捉えることができる。
《獅子の子》
《後の牙》
《魔力増幅 第三段階》
《魔法剣 第二段階》
《勇者の威徳》
《獅子奮迅》
《急所攻撃 第一段階》
《体術 第三段階》 UP
徒手による戦闘能力と身体操作をさらに高める。
第三段階への到達により、《一撃必殺》が出現。
《一撃必殺》 NEW
相手が明確な隙を晒した瞬間、その急所へ正拳を叩き込むことで威力を倍化する。
《近接連携》 NEW
複数の近接戦闘技能を一定以上まで高めた者に現れる祝福。
異なる攻撃手段へ移る際の継ぎ目を短くする。
【装備】
バスタードソード
《空白の剣》
《反衝手甲》
銀鋼の胸当て
格闘靴
《初禍の環》
《盲夜の仮面》
魔法袋
────────────────────




