↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/64

第三十四話 勇者は、魔人と対峙する

「魔王様がサ」


 パラスは、こちらの緊張など気にも留めずに肩をすくめた。


「勇者はしばらく放っておけ、なんて言うもんだから」


「……魔王が?」


「そうそう。理由までは知らないよ。だからこっちも手出しせず、東に置いてた戦力を引き上げてたんだけど」


 やっぱり。


 王都周辺に大した戦力がいなかったのは、偶然じゃなかった。


 魔王の命令。


 僕を放っておけ。


 なぜ。


 契約が関係しているのか。


 聞きたいことはいくらでもある。


 でも、パラスは答えを知っているようには見えなかった。


「ところが、このところ君の国――グランヴェルだったかな。妙に動きが活発になったろ?」


 パラスが指を折る。


「人が動く。金が動く。うちの小さな拠点も次々潰される。何かあると思って来てみたら」


 足元に跪くゴブリンキングを、軽く蹴った。


 位階二十五。


 本来なら、こいつだけでも十分な脅威だ。


「人間どもが軍を率いてここに来るじゃないか。しかも勇者もいる」


 パラスの顔に笑みが広がる。


「せっかくだから、相手してあげようと思ってサ」


 立ち上る魔力が揺れた。


 圧だけで空気が重くなる。


「……勇者様」


 リナリアが剣を握り直した。


「この者は」


「うん」


 予定変更だ。


 判断に時間はかからなかった。


「こいつは僕が相手する」


「勇者様?」


 リナリアが振り向く。


 僕はゴブリンキングを見る。


「すまないけど、キングの相手を頼む」


「お待ちください!」


 予想通り、すぐに反対された。


「危険です、勇者様。ここは一度退いて、騎士団と合流を――」


「無理だと思う」


「ですが」


「逃げるのを許しちゃくれないみたいだよ」


 パラスを見る。


 笑っている。


 何もしていない。


 それなのに分かる。


 背中を向けた瞬間に来る。


 いや。


 僕たちだけならまだいい。


 こいつを外へ出せば、騎士団と冒険者たちがいる。


「勇者様」


 今度はナディアだった。


「お一人で相手をなさるのは、危険かと」


 その声には、いつもの軽さがない。


 ナディアは僕の腕を知っている。


 この二年。


 何度も戦った。


 剣も。


 体術も。


 多対一も。


 僕がどの程度動けるのか、リナリアよりずっとよく知っている。


 だからこそ止めようとした。


 目の前の魔人は、それほど異常だった。


「分かってる」


 剣を抜く。


「でも、やるしかない」


 ナディアが何か言いかけて。


 止まった。


     ◇


 妙だ。


 ナディアは、勇者を見ていた。


 いつもと同じ少年だ。


 十三歳。


 自分たちと訓練すれば何度も転がされる。


 失敗すれば普通に悔しがるし、痛ければ痛いと言う。


 剣の腕だって知っている。


 それなのに。


(……全然違う)


 実戦に入った途端。


 別人のように見える。


 構えが変わったわけではない。


 魔力が増えたわけでもない。


 ただ。


 迷いが消えている。


 勝てるのか。


 逃げるべきか。


 そんなことを考えている顔ではなかった。


 もう。


 どう戦うかだけを考えている。


 目の前にいるのは、自分より二つも年下の少年。


 そのはずなのに。


 そうは見えなかった。


     ◇


「ですが、おひとりであのような相手を!」


 リナリアはまだ納得していない。


 当然だ。


「リナリア」


 名前を呼ぶ。


「はい」


「キングを頼む」


「ですが――」


「頼む」


 声を荒げたわけじゃない。


 それでも。


 リナリアは口を閉じた。


 僕はパラスから目を離さない。


「そっちは二人で片付けて。終わったら騎士団と合流してほしい」


「勇者様は?」


「僕はこいつを倒す」


 できるかは分からない。


 でも。


 やらなきゃならない。


 ナディアが僕を見ていた。


 しばらくして、小さく息を吐く。


「……やるしかないわ」


 敬語が抜けた。


 リナリアが驚いてナディアを見る。


「ナディアさん?」


「キングは私たちで倒します」


 すぐにいつもの口調へ戻った。


「ですが、勇者様がお一人では」


「分かっています」


 ナディアは僕を見る。


「ですから、こちらを早く終わらせます」


 リナリアも迷っていたが、やがて剣を握り直した。


「……そのようですね」


「お願い」


「すぐにお助けします」


「うん」


 パラスが、ぱちぱちと手を叩いた。


「いいねえ」


「何が?」


「勇者って、もっとこうさ。正義だの仲間だの言って、みんなで僕に掛かってくるもんだと思ってた」


「期待に添えなくて悪いね」


「いやいや」


 パラスが笑う。


「そっちの方が面白い」


 その瞬間。


 ゴブリンキングが立ち上がった。


「グオオオオオッ!」


 洞穴が揺れる。


 配下のゴブリンたちも一斉に武器を構えた。


「行きます!」


 リナリアが前へ出る。


「待ってください」


 ナディアが腕を掴んだ。


「正面から突っ込まない」


「しかし」


「キングだけ見ないでください。取り巻きから崩します」


 ナディアの姿が消える。


 次の瞬間には、配下のゴブリンの背後にいた。


「――っ!」


 一体の喉を掻き切る。


「今です」


「はい!」


 リナリアも走った。


 ゴブリンキングが吠え、巨大な棍棒を振り上げる。


 二人がそちらへ向かう。


 これでいい。


 僕は正面を見る。


「へえ」


 パラスが僕を見ていた。


「仲間の方、見なくていいの?」


「必要ない」


「信頼してる?」


「それもあるけど」


 剣を構える。


「今は、あんたから目を離す方が危ない」


 一瞬。


 パラスの笑顔が消えた。


 すぐに。


 さらに楽しそうな顔になる。


「いいね」


 魔力が膨れ上がった。


 さっきまでとは比べものにならない。


 紫色の身体を覆うように、巨大な魔力が立ち上る。


 床の小石が震え始めた。


 壁に掛かっていた松明の炎が大きく揺れる。


「やっぱり来てよかったよ」


 パラスが腰を落とした。


 武器は持っていない。


 素手。


「じゃあ、勇者」


 姿が消えた。


「遊ぼうか」


「――っ!」


 剣を上げる。


 次の瞬間。


 凄まじい衝撃が、剣ごと僕の身体を吹き飛ばした。

明日より、通常通り毎日18時更新となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。