第二十一話 新たな戦術
「まずは休め」
僕の言葉に、地下室へ集まった暗殺者たちが顔を上げた。
紅魔将フィヨルドの洗脳から解放された、エスカリテ・アサシンギルド。
全員が生き残ったとはいえ、傷も魔力の消耗も軽くない。
王城へ潜入し、僕と戦い、《影葬》によって封じられた。
その後は解呪の間で、炎極百足に魔力を奪われている。
すぐに働かせられる状態ではなかった。
「傷を治して、必要な物を揃えろ。王都で動く態勢を整えるのが先だ」
「承知しました、勇者様」
ナディアが頭を下げる。
契約を結んでから、彼女は僕をそう呼ぶようになった。
「本格的に動けるようになったら、三つ調べてほしい」
僕は地図を広げ、王都東部にあるダンジョンを指した。
「一つ目。このダンジョンの隠し通路から、王都の地下へ続く脱出路を調べろ」
前回の人生では、数年後に崩落によって発見された古い通路。
今は盗賊団が利用している。
「出口の場所と数。通路を使っている者。途中にある盗賊の拠点もだ。ただし、まだ手は出すな」
「発見されたことを悟らせず、情報のみ持ち帰ります」
「ああ」
僕は次に、王城を中心としたレグリアの地図を示した。
「二つ目。王都の重要人物と、その人間関係を調べてほしい」
国王。
大臣。
有力貴族。
騎士団。
大神殿。
宮廷魔術師団。
肩書きだけなら、僕も知っている。
だが、誰と誰が近いのか。
誰が誰を嫌っているのか。
表向きの役職とは別に、誰が本当の影響力を持っているのか。
前回の僕は、何も知らなかった。
「誰が偉いかではない。誰が、誰を動かせるのかが知りたい」
「承知しました」
「最後に、ある人物の居場所を探ってほしい」
僕は名前を書いた紙を、ナディアへ渡した。
彼女は一度だけ目を通し、紙を折り畳む。
「生死の確認も必要でしょうか」
「できれば。だが、接触はするな」
今の段階では、こちらの存在を知られるべきではない。
「どれも急がなくていい。まずはギルドを立て直せ」
「御意」
ナディアが頭を下げる。
その後ろで、暗殺者たちも一斉に続いた。
これで僕には、王都の裏側を見る目ができた。
彼らが動き始めるまでには、まだ少し時間がかかる。
それまでに、僕も次の準備を進める。
◇
王城の客室へ戻った頃には、夜が明け始めていた。
窓の外では、朝日を受けたレグリアの屋根が淡く輝いている。
扉を閉め、身につけていた装備を外した。
最初に置いたのは、革の胸当てだった。
炎極百足の吐いた酸を浴び、肩から胸にかけて黒く変色している。
指で押す。
革が、乾いた土のように崩れた。
留め具も二つ失われ、内側まで溶けている。
もう、防具としては使えない。
次に、鋼の剣を抜いた。
ゲオルグから、十歳の祝いにもらった剣。何度も僕の命を守ってきた。
刃には黄緑色の酸を浴びた跡が残っていた。
錆。
無数の刃こぼれ。
刀身の半ばには、炎極百足の核へ《後の牙》を叩き込んだ時に入った亀裂が走っている。
軽く振る。
鋼の奥から、鈍い音がした。
次に強く打ち合えば、折れる。
「今まで、ありがとう」
小さく告げ、鞘へ戻した。
革の胸当ては捨てるしかない。
けれど、この剣は残しておこうと思った。
使えなくなったからといって、価値までなくなったわけではない。
残る装備も確認する。
《空白の剣》に破損はない。
《初禍の環》も無事だった。
《盲夜の仮面》にも傷はない。
《狂王の針》はナディアに使用したため、すでに失われている。
水の属性石は使い切った。
火、風、土はまだ残っているが、数は多くない。
新しい防具。
新しい剣。
属性石の補充。
揃えなければならない物は多かった。
僕は寝台へ腰を下ろし、自分の状態を表示させた。
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【称号】
勇者
剣雄
年齢:十一歳
位階:19
祝福点:5
【祝福】
《剣術 第四段階》
剣の扱いを大きく向上させ、型にとらわれず、あらゆる動作を攻撃へつなげられる。
《身体覚醒 第一段階》
筋力、敏捷性、耐久力、反射神経、五感など、肉体が持つ能力を総合的に引き上げる。
《第六感》
視覚や聴覚では捉えられない殺意、危険、死角からの攻撃、罠の存在を感知する。
《獅子の子》
自分より位階の高い敵を倒した際、得られる成長を増大させる。
《後の牙》
自分より強い敵の攻撃を紙一重で回避した直後、最初に放つ反撃の速度と貫く力を高める。
《魔力増幅 第二段階》
体内に蓄えられる魔力量を増加させ、より多くの魔力を扱えるようにする。
《魔法剣 第一段階》
剣へ魔力をまとわせ、斬撃の威力と魔力に対する攻撃力を高める。
《勇者の矜持》
一定数の人々を救い、勇者として認められた者に現れる祝福。剣術、身体、魔力など、勇者が持つ力を総合的に高める。
《獅子奮迅》
発動中、疲労による身体能力と戦闘能力の低下を無効化する。解除後、蓄積した疲労と身体への負担が倍になって現れる。
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位階十四から十九。
一度の戦いで、五つ上がった。
祝福を選ぼうとして、一覧の一部が淡く光っていることに気づいた。
《勇者の矜持》。
触れる。
新たな文字が浮かび上がった。
――《勇者の矜持》が進化条件を満たしました。
――進化条件。
――自らへ向けられた殺意を赦す。
思い浮かんだのは、ナディアたちだった。
彼らは王城へ侵入し、僕を殺そうとした。
毒針を放ち。
刃を向け。
何度も命を狙った。
だが、それはフィヨルドに強制されたものだった。
僕は彼らを殺さなかった。
洗脳を解き。
仲間を救い。
僕の影として迎え入れた。
勇者の祝福は、それを赦しと判断したらしい。
――《勇者の矜持》が進化します。
光が強くなる。
祝福の名前が書き換わった。
《勇者の威徳》
人々から信頼を得やすくなり、話を聞き入れてもらいやすくなる。
説得や交渉を有利にするが、相手の意思を強制することはできない。
自分の発言と行動が一致しているほど、その効果は高まる。
剣を強くする力ではない。
魔力が増えるわけでもない。
それでも、王都で戦うなら必要になる。
王城も。
騎士団も。
大神殿も。
一人で動かすことはできない。
次に、五つの祝福点を確認した。
最初の一つは決まっている。
《魔法剣 第二段階》
炎極百足との戦いでは、《空白の剣》へ込めた水属性の力を何度も使った。
威力は十分だった。
だが、消費する魔力が大きすぎる。
第二段階へ進めば、剣へ魔力を流す際の損失が減り、少ない魔力で威力を維持できるようになる。
一点を使った。
続けて。
《魔力増幅 第三段階》
身体の奥が熱くなる。
体内へ蓄えられる魔力量がさらに増し、一度に流せる魔力も大きくなった。
これで、《魔法剣》をより長く使える。
残り三点。
新たに現れた祝福を確認する。
《急所攻撃 第一段階》
相手の弱点や急所を攻撃した際、攻撃がより深く通る。
炎極百足の口内へ飛び込み、呪いの核を破壊したことで現れたのだろう。
僕の戦い方にも合っている。
《第六感》で敵の攻撃を読み。
《後の牙》で懐へ入り。
急所へ剣を届かせる。
一点を使った。
残り二点。
一覧を眺めながら、壊れた鋼の剣へ目を向けた。
新しい装備を整えなければならない。
その時。
王都近郊にある、別のダンジョンのことを思い出した。
前回の人生で、一度だけ攻略した場所。
その宝物庫には、黒い手甲が残されていた。
敵の攻撃を受けた際、その衝撃の一部を蓄え、次に放つ拳へ上乗せする魔導具。
前回は、誰も使わなかった。
リナリアは剣と盾。
エドとミリアは後衛。
ガルドは弓と短剣を使う。
僕自身も、治癒と補助を中心に戦っていた。
誰一人、体術を主軸にしていなかった。
手甲は盾よりも防御力が低く、扱いを誤れば腕ごと壊される。
わざわざ危険な装備を使う理由がなかった。
だから、置いてきた。
だが、今の僕なら。
利き手には剣。
反対側の拳には手甲。
左で敵の攻撃をさばき、体勢を崩す。
右の剣で急所を斬る。
王城の屋根で暗殺者たちと戦った時も、僕は剣だけを使っていたわけではない。
蹴り。
投げ。
武器を持つ腕への打撃。
身体を入れ替え、相手同士をぶつける動き。
剣だけでは届かなかった場面を、体術で埋めていた。
「これだな」
《体術 第一段階》
一点を使う。
徒手での攻撃。
蹴り。
受け身。
基本的な身体操作が、感覚として刻まれていく。
さらにもう一点。
《体術 第二段階》
投げ。
関節技。
体勢崩し。
剣と徒手の動きを、途切れなくつなげるための技術。
ゲオルグから教わった剣術とは異なる感覚が、身体の中で組み合わさっていく。
これで祝福点はなくなった。
アサシンギルドが本格的に動き始めるまで、まだ少し時間がある。
「よし」
まずは、手甲が眠るダンジョンへ行こう。
新しい装備を手に入れる。
その後で。
王都の地下に潜む者たちが、何を企んでいるのかを確かめる。
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【ステータス】
【称号】
勇者
剣雄
年齢:十一歳
位階:19
祝福点:0
【祝福】
《剣術 第四段階》
《身体覚醒 第一段階》
《第六感》
《獅子の子》
《後の牙》
《魔力増幅 第三段階》
《魔法剣 第二段階》
《勇者の威徳》
《獅子奮迅》
《急所攻撃 第一段階》
《体術 第二段階》
【装備】
《空白の剣》
《初禍の環》
《盲夜の仮面》
魔法袋
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