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光の代償と、優しき狂気

入学して初めての魔法演習。アリーナには全ランクの生徒が詰めかけていた。対峙するのは、すずらんと彼を目の敵にするDランクの選抜生徒だ。

『見ろよ、あいつ。実力なんてあるのか?』

『精神干渉だってな。卑怯だろ』

観客席のざわめきの中、光属性の魔法理論に詳しい上級生が、溜息混じりに周囲へ言い放つ。

「……お前ら、歴史を知らなすぎる。チート級の魔法には必ず等価の代償が伴う。……光属性の精神干渉は、負の感情を消す術じゃない。それは使用者の心へと、毒として肩代わりさせる術だ。太古より、この力は『聖女の呪い』と呼ばれ、扱う者は皆、早々に精神を摩耗させてきたんだよ」

ざわめきが凍りつく。

「……演習、始め!」

合図と同時に炎が放たれる。すずらんが両手を広げると、淡い真珠色の光が花のように咲き乱れた。一切の抵抗もなく、相手の炎は霧散し、闘争心は凪いだ海のように消え失せる。すずらんの勝利だ。

駆け寄り、倒れた相手の手をそっと握る。

「ごめんね……僕の能力は卑怯で、君の闘志を無理やり奪っちゃった。……君の熱い思い、ちゃんと受け取ったよ。」

その瞳に宿る、あまりに聖人じみた慈悲。しかし、それは周囲には「自分の意志を奪われる」という恐怖として映る。その瞬間、すずらんの表情が強張った。相手の中にあった生々しい敵意と憎悪が、すずらんの心という器に流れ込む。彼は唇の端から滲む血を隠すように笑みを貼り付けた。

「……ごめん、ちょっと、お手洗いに行ってくるね」

ふらつく足でアリーナを離れ、駆け込んだトイレの個室で、すずらんは笑顔という仮面を剥がした。

「……っあぁぁ……!」

「っ……相手の感情が濃いほど、こんなにも……はぁっ、はぁっ……」

鏡の中、自分の顔が崩れていく。全身を走る引きつるような感覚。耐え難い汚濁の奔流に、すずらんはただ、個室の冷たい壁に額を押し当てることしかできなかった。

――カツ、カツ、と、迷いのない足音が個室の前で止まる。

「……開けろ。すずらん」

冷たい声。だが、その向こう側には、誰よりも深くこの代償を恐れていたカイルの焦燥があった。鍵が開くと同時にカイルが踏み込み、躊躇なく冷たい手で、苦悶に歪むすずらんの顔を両手で挟み込んだ。

「……っおい、意識を保て。負の感情を俺の方に流し込むことは、できないのか……? お前一人で全部抱えるな」

すずらんは、荒い息の合間に力なく首を振った。

「……無理なんだ、カイル。この毒は、誰かに移すことはできない。……溜まった汚濁は、僕自身が心から……『幸せだ』と実感しない限り、決して消えてくれないんだ」

すずらんは震える手で自身の胸を押さえ、痛みに耐えながら、申し訳なさそうに微笑んだ。

「……偽りの笑顔や、ただの空元気じゃダメなんだよ。本当に、心の底から満たされないと……今の僕には、それが一番難しいことなんだ」

カイルはその言葉を聞き、歯を食いしばった。氷のように冷徹なはずの瞳が、初めて激しく揺れる。

「……俺には、それができない」

カイルは拳を握りしめ、苦渋に満ちた声で吐き捨てた。

「俺は、お前を楽にしてやれない。お前に安らぎを、心からの幸福感を与えることなんて、俺にはできない……!」

それは最強の氷魔法使いである自分にも、すずらんの苦しみを取り除くことができないという、残酷な無力感の告白だった。しかし、すずらんはその悔しげなカイルの表情をじっと見つめ、ふわりと、先ほどまでの苦痛が嘘のような、穏やかな笑みを浮かべた。

「……ううん、そんなことないよ、カイル」

すずらんは、自分を助けようと悩み、苦しんでくれるその姿を慈しむように見つめる。

「君が、そこまで僕のことを考えて、僕のために悩んでくれている。……今この瞬間、君が僕の隣にいてくれること。それだけで、僕にとっての幸福なんだ……僕は、気づいてたよ。出会ったばかりなのに君はずっと僕のことを気にかけてくれていた…不器用でクールで優しい人だなぁって…」

すずらんの瞳が、真珠色から温かい陽だまりのような色へ少しずつ戻っていく。彼がそう口にした瞬間、すずらんを蝕んでいた汚濁の澱みが、目に見えて淡く、消えていく。

「……ほら、わかる? 君が僕を想ってくれたから、僕は、今ものすごく恵まれていて、温かくて、幸せな気持ち…毒が薄れていくんだよ。……だから、謝らないで。君のその優しさが、僕を救ってくれているんだから」

その時、個室の扉がさらに大きく開かれた。

荒い息を吐きながら、レン、リュウ、カイがそこにいた。

個室の中の、張り詰めた空気。氷の冷気に包まれながら、顔色を戻しつつあるすずらんと、彼を支え続けたカイルの姿。

レンは言葉を失い、握りしめた拳を震わせながら、入り口で立ち尽くした。

「……お前、なんでそんな……」

レンは絞り出すように声をかける。その瞳には、怒りにも似た悲しみが浮かんでいた。

「なんでそんな、神様みたいな……聖人みたいなことが言えるんだよ。……そんなに自分の身を削ってまで、お人好しすぎるんだよ、お前は……」

リュウはいつもの軽妙な笑みを消し、青ざめた表情で床を見つめたままだ。カイもまた黙したまま、冷徹なはずの瞳を激しく揺らし、ただ深く、やり場のない溜息を吐き出した。

すずらんは、そんな仲間たちの沈痛な面持ちを見て、少しだけ困ったように、けれど今日一番の穏やかな笑顔を見せた。

「……ううん、そんなことないよ。みんながいてくれるから、僕は今、とっても幸せなんだ」

その無垢な笑顔が、今の彼らには何よりも残酷な真実に映った。すずらんが纏う「陽だまり」は、彼自身の命を削り出し、仲間たちの「純粋な想い」を糧にしなければ、決して灯り続けることはできないのだと──

すずらんの能力↓


治癒魔法(ヒール)

・傷や疲労を回復できる

・基本的に代償なし

これは普通に「光属性らしい能力」


②精神干渉魔法

すずらんのメイン能力。相手の闘争心、憎しみ、怒り、殺意、嫉妬、絶望などの負の感情を取り除く。

結果として、戦う理由そのものを失わせるから超強い。

炎を消したんじゃなくて、「炎を撃とうと思う心」を消したのがポイント。


☠️代償(聖女の呪い)

相手から取り除いた負の感情は消滅しない。

全部、すずらん自身の心に流れ込む例えば相手が憎しみ100、怒り80、殺意50、持っていたら、そのまますずらんが受け取る。

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