case.72「追撃オールスターズ」
雑に手当てをし槍状に組み立てたブレードロッドを、鎖で繋がった両刃の斧を。それぞれ握った時だった。
バリ、だか、ビリ、だかいう音がして。
真っ黒の空を文字通り真っ二つに裂いて、見覚えのある2人が落ちてきた。
「っは!?」
驚愕に足が止まる僕に、落下中の2人と言えば余裕の面持ちで怪異を足蹴に滑るように着地。また駆けだす。
「み、ミチカケ先輩!シグレ!」
慌てて追いかけるも、こちらをちらりと横目に見てあっけらかんと言い放つ。
あれ?僕たち結構シリアスな別れ方しませんでしたっけ?幻覚?
「あー、のどかちゃん。無事で何より―」
「ひとまずこちらだ」
「あ、はい」
とぼとぼ兄さんの横に帰る。
「ふ。…自分も行く。後輩が戦っているのにぬくぬく守られているなんてのはごめんだ」
「うん」
「のどかはのどかのやるべきことを。頼むぞ」
「!まかせて」
怪異に捕らわれていて、挙句怪我までして。本調子じゃないはずなのに、さすがというべきか兄さんは目にも留まらぬ速さで駆けていった。
あ、驚いたシグレが攻撃を外した…のもすかさずリカバー。さっすが兄さん。ワンマンアーミーの名は伊達じゃないな。
「僕も」
見た感じ、元凶であるソウワーズはいない。
ひとまずは隠れてこちらの戦力を削ぐつもりか。各個撃破ではらちが明かないと思ったのか、偶然か。はたまたミチカケ先輩たちがつかみ取ったか。
「なんにせよ、ここに全員集めたのは悪手だったな」
天井の闇が破られて、影はその大部分を消失した。実体のある怪異たちも、一見して脅威に思えるけれどその実混ざりもの故の存在ルールの違いでほころびやすい。まあ考えればわかる話だ。
怖いもの全部のせ、が一番怖いなんてことはない。
「サカヅキさん、3番目の左腕の付け根!」
「!そうこなくっちゃな」
腕を捥いでも捥いでも生やして襲い来る、人間の頭に蛇の体、胴体に何本もの手を生やした怪異。ピンポイントで打ち抜かれて消失。
「ドールちゃん先輩は左わき腹の小さい目を!」
「…」
ひび割れたアンティークドール。その全身にびっしり覗くギョロ目をメイスで胴体ごと打ち砕く。
「シグレ!本体は下の物陰!小さい蜘蛛!」
「ふん!こざかしいな」
くねくねらしき白い人影、その脅威を殺すカクついた動きは操られているから。人面の蜘蛛をナイフで地面に磔に。
「ミチカケ先輩はそのままで!」
見たこともない軍服に軍帽ののっぺらぼう。目がないのに、驚異的な身体能力で絶え間なく切りかかっている。ミチカケ先輩は上手く手首や膝、関節を狙って回避と攻撃を両立している。
けれど、骨という概念がないのか、あるいは超高速再生か。砕いてもすぐにまた元通り。蹴り折った刀すら。…こいつを倒すにはアプローチが違う。
「…」
「…」
ちらり。宙を舞う兄さんを見る。
こくり。小さく頷きが返る。
「フッ!」
競り合うミチカケ先輩と怪異。その隙をついて、背後に忍び寄り痛烈な一撃。怪異の握る2本の刀、その鞘が砕けると同時に怪異も同じように砕け、消失。
そして。
「!」
ザン、と死角から近づいてきた学生服の怪異を切り払う。腰を起点にぐるりと一閃。恨めしそうな、真っ赤な目をした少女は溶けていく。
「なんとかなった…」
バクつく心臓を抑えるように手を当て深呼吸。び、びっくりした…。
なんだか感が冴えわたっている。音を、姿を見ればどこが重要なのか分かる。…まあその代償というか、完全にピアスの認識阻害は効いてないんだけれど。むしろめちゃくちゃターゲットにされているっぽいし。
「あとはソウワーズの居場所が分かれば…」
厄介そうな怪異を片づけ雑魚狩り中の5人を見つつ、ちょこちょこ移動してこの空間を破る方法を探る。
「どう?何とかなりそう、ヒナタくん」
「うーん。いや、なんとも…」
現状把握のためにも戦力過多な怪異戦は部下に任せて、サカヅキさんが近寄ってくる。
「なんというか、掴んだと思ってもすり抜けちゃうみたいな。なにかこう、変な感覚で…」
「ふうん。…もしかしたら、今も動いているのかもな」
「動く」
「ああ。どこかに隠れ潜むんじゃなく、こちらを迎撃する用意をしているような…」
「!」
そうか。
だから。
「っ兄さん!」
バッと振り向いた先、取り戻したはずの兄が崩れ落ちる。
まるで明滅するようにその輪郭がぼやけて。
「どうなってる?!」
「兄さんは、あれは兄さんの中身だけだったんだ!」
あまりにも頑強だし、なによりその言動に注意をそらされていた。あの兄さんは体から離された兄さんの中身。記憶や魂といったもの。
その納まるべき本体は、まだソウワーズの手中だったんだ。
「隊長…ッ!」
「ぐ、…ぁ」
ふっと掻き消える。持ち主をなくした斧が地面に転がる。
「!来ます」
ガゴンッ!
ドクン、ドクン、ドクン!
地面が隆起し、脈動して暴れ出す。
「なんだ!?」
「うわっ」
「…」
「クッ!」
地面が赤く染まる。
砕けひび割れたコンクリートは赤い大地に、破れた空は奇妙な黄色に、場違いなほど大きな月が昇って。
「あ、そんな…」
月じゃない。
あれは。
「げ。マジか」
あれは、繭だ。
全員が見上げるなかで、繭にピッと一筋の線が走る。
そして。
「危ないッ!!」
「うわッ!」
ドガァン!
およそ人間が地面に着地した音とは思えない程けたたましい音と衝撃。土埃が晴れる前に追撃。
氷のような冷たい敵意が向けられたと感じた瞬間にはもうその凶刃が首に迫って。
ギィン!
ギラつく銀色が赤いヒールの底に受け止められ、ピンヒールが絡めとるように流す。同時に剣から力を抜いた襲撃者がいなすように態勢を低くし、後方へ跳ぶ。
それを抱き留められたやわらかな熱を感じながら目で追う。
「…」
「…っは!すみませんありがとうございますドールちゃん先輩ッ!!!」
「いいよ」
「ッハイ!!」
繭が割れ、落下の勢いを載せた決死の一撃をシグレに押されることで回避。続け様の一閃をドールちゃん先輩が僕を守るように抱きしめながら大きく後方へ蹴り出した足で阻害。
たった一瞬のうちに2度、殺されていた。
背中に冷たい汗が伝う。
「…チッ」
こちらを見る忌々し気な睥睨。
こんなこと、本当にあるのかよ…!
「兄さん」
そこにいたのは、禍々しい角を生やした銀の鬼。
最強の敵だった。




