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「お電話ありがとうございます!こちら、怪異討伐・派遣サービスです!」  作者: みよし たもつ
追憶編

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case.71「ハチャメチャ奇っ怪プロットチェンジ」


「うーん、この辺りはもうないか…」

「わかった」

 ぴかぴか光の筋を走らせながら偽物の夜の街を歩く。どこかでループしているのか、不自然なほどに広い街はおわりがない。

 起点もたくさん潰したしそろそろだと思うんだけどなあ。

「のどかっ!」

 え。

 消えない。

「…っ!」

「…、あ…」

 赤い。生暖かな、命の温度。

「なんで…」

 ニタニタ笑う裂けた口。ゆらゆら揺れる体に血の滴る大きな手。

「来るな」

 カチカチと2本のライトが互いに当たっては軽い音を立てる。

「来るなってば」

 何度光を当てても。

「あ、あああ、」

 じわりじわり。

 光に当たっても消えない、影じゃない本当の怪異が。

「兄さん、兄さんにいさん…!」

 僕を庇って、怪異を背に強く抱き込むように抑え込む腕。頭に当たったのか、こめかみから首に滑る雫。…汗、なんてそんなわけもなく。

「にいさ、」

「大丈夫。大丈夫だからな、のどか」

「だめ、だめだよ、そんな」

 いつだって襲い掛かってこられる距離にいて、それでもこちらを伺うようにニタニタ笑う口裂け女。その後ろにマントのようなひらひら揺れる何かが見える。

 ああ、そうか。

 以前ミチカケ先輩といった調査では、てけてけと口裂け女が。今回は口裂け女と…赤マント、だろうか。

 喰い合った怪異が不格好に混じりながら、それでも人間えものを嬲り殺そうと邪悪な本性をむき出しに笑っている。いつだって殺せるのに、そうもせず。

「っぐ…」

 なかなかすごい力で抱き込まれているのを、何とか抜け出そうと足掻く。

 いつだって守られっぱなしの、何にもできない弟でいたくない。

 決めたから。アルバムを、過去を見つめなおして、決めたんだ。

「ごめん、兄さんっ!」

「うっ」

 無理な体勢で何とか足をあげて急所を突き、少しひるんだすきにぐっと身をかがめて脱出。にじり寄ってくる怪異から今度は兄さんを守るように立つ。

「のどか、なにを…」

 しゃがみこんで呻く兄さんにほんの少し申し訳ない気持ちもあるけれど、そんなことは言っていられない。

 それに、本物の怪異がいるってことは。都市伝説たちがこうして混じり合うほどに互いのテリトリーを重ね合わせているってことは。


 プルルルル。

 うっすらと聞こえる、場違いなほどに聞きなれた着信音。

「そこだっ!」

 もはやライトを武器代わりに振り回して怪異を払う。といってもリーチの短さもあり殴りかかっても反対に怪異の魔の手に狙われてしまうわけだけれど。

「これで、いいっ!」

 わき腹が熱い。

 小さな銀色のハサミが刺さっている。

「あぐ」

 首に古ぼけてぎしぎしの縄がかかる。とっさに片手を差し込んで締まらないように。足にすがりつくボロボロに血濡れて爪の剥がれた手。蝋のように白い腕は反対の足首に無数にまとわりついている。

「もう、ちょ、っと…!」

 兄さんそっちのけで僕に集まってくるあらゆる怪異を身にまといながら、何とか意地で進む。

 手をかける。


 透明なアクリルパネルに覆われた空間。

 やや奥に設置された緑色の命綱。

 受話器を取る。



「きた」

「来たな」



 やっぱり、僕はつくづく縁がある。

 受話器の向こうで、はじめて聴くやわらかな声。

「…ぜ、全財産差し出しますっ!よろしく、おねがいしまーすっ!!!」

 気力を振り絞って叫んだ。


 ドガンッ!!!


 瞬間、受話器を当てた左耳と何も当たっていない右耳。ステレオサウンドで聞こえる爆発したような轟音。

「どーも、こちら怪異討伐・派遣サービスでーす」

「…」

 ああ。良かった。

「はは、満身創痍じゃねーか」

「おかげさまで…」

「ま、でも兄貴取り戻したみたいだし?充分、じゅーぶん」

 背には携帯式対戦車擲弾発射器。いわゆるRPG。そして全身に弾倉、両手で抱えた短機関銃。

「…がんばった」

 右手に冗談みたいな両刃の大剣、左手に小柄ながら鋭利なハンマー。いや、いつもに比べて小さいだけで十分に大きい。高い目線。いつもの踵の低いブーツじゃなく先の鋭利なピンヒール。

「…は。ドールちゃん先輩の声、はじめて聴きました」

 可愛いですね。なんて笑えば、ちょっと目を見開いて、でもすぐ呆れたように柔く細めて笑う。

「ばあか」

「あはは」


「おいおい。いちゃついてないで、こっちだこっち」

「…」

「いって。いや、からかってないって」

「…」

「いたいいたい」

 うーん。緊張感がない。

 とはいえ、これはもう勝ち確ってやつなので。

「おっし。やるか!」

「…」

 2人の登場に距離を取って囲むように蠢いていた怪異らが痺れを切らして襲い掛かってくる。

 ギラつくハサミ。血濡れの爪。唸る化け物の声。

「いつも通り」

「…」

「気合で避けろよっ!」

「…!」

 レースのスカートが空気を含んで膨らむ。跳ねたヒールの鮮やかな赤。マズルフラッシュと硝煙。飛び散る薬莢。

「はっはー!」



「い、今のうちに…」

 怪異たちが2人の蹂躙者にかかりっきりなっているうちに、そっとにじり寄って背を覆うように抱き着く。穴の開いた腹が痛い。

「のどか…?」

「大丈夫。めちゃくちゃ頼りになる人たちが来てくれたんだ。だからもう、大丈夫」

「そう、か…」

「うん。…あのさ」

「ああ」

「伝えたかったことがあるんだ。聞きたいことも」

「っ、ああ」

「久しぶりに食べた母さんのごはん、美味しかった」

「ああ」

「父さんは…出張だったんだけど」

「ああ…!」

「また、4人でご飯食べよう」

「もちろんだ…!」

 なんだか寒くなってきた。傷はそんなに深くないはずなんだけどな。

「ずっと前から、こうしてちゃんと、話しておけば良かったね」

「そうだな」

「今度稽古つけてよ。兄さん、めっちゃ強いしさ」

「手加減、できないぞ」

「ええー?可愛い弟相手だよ?」

 いつの間にか兄さんは身を起こしていて、僕と兄さんは血まみれで汚れてボロボロの姿のまま、向かい合わせで地面に座り込んでいた。

「ふ。ははは…」

「ぷ。あはは…」

 兄さんはもうすっかりぽやぽや兄ちゃんじゃなくなっていて、変わってしまった少し硬質な話し方は北海道での時間を思い出させる。

 やれやれ。

 そろそろこの場違いすぎる云十年越しの仲直りも後にしよう。

「立てるか?」

「うん」

 足に力を籠め、連鎖的にわき腹に痛みが走るのを飲み込んで立ち上がる。

 兄さんは…、血も止まっているし大丈夫そう。


「にしても、あの攻撃は流石に効いたぞ…」

「あはは!ごめんってば。だってみぞおちとか殴ったって兄さん筋肉あるしダメージないでしょ?」

「男の急所だぞ…」

「もうしないって」

「絶対に?」

「絶対」


 さて。

 地面に置かれた大きいトランクを開ける。ご丁寧に「OPEN ME」と書かれたそれ。中には簡単な治療キットとタオル。そしてお互いの武器が入っていた。

 まったくどこまでお見通しなんだか。



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