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「お電話ありがとうございます!こちら、怪異討伐・派遣サービスです!」  作者: みよし たもつ
追憶編

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case.70「摩天楼ブラックカーテン」


「のどかあ」

「…ナニ、ニイサン」

「ふふ、どうしたの?いつもみたいに兄ちゃんって呼んで?」

「ニイチャン」

「なあに、のどか」

「ナ、ナンデモナイヨ…」

 なんだこれ。


 ようやっと目覚めた兄さんは頭を打ったせいか、なんだかおかしなことになっていた。

 具体的に言うと、弟大好き溺愛モードって感じ。

「…きゅう」

 恥ずかしいやら何やらで喉が絞られて、まるで子犬の鳴き声のような声が漏れる。

「ふふふ」

 何が楽しいのか、にっこにこの兄さんがこちらを見ては頭を撫でたり頬をついたりしてくる。こ、これがとっくに成人した兄弟のやり取りなのか…?!

「あ、あの~」

「なあに。のどか」

「えっと~、兄さ、兄ちゃんはどこまで覚えてる?っていうか、その、戦えそう?」

 ぽやっぽやだから忘れそうだけど、兄さんは単騎最強のワンマンアーミー。戦力として期待できるならとてもありがたいわけだけれど…。

 期待、出来るかなあ~?!?

「ん~?」

 無理そう~~!

 どのみちぽやぽやさんは武器もない。…頼れるのは自分だけ、か。

 はあ。

「…どうしよう。とりあえずここから出ないと…」

 どこか構造的に脆そうなところとか…。

 こつこつ壁や床を叩いてはため息を吐く僕を不思議に思ったのか、同じようにごつごつ叩く兄さん。

「あ」

 バキリ。

 床の一部。明確にへこみ、割れ、亀裂が走る。

 小さくとも確実な変化。

「に、兄ちゃん!それ、もっと出来る?!」

「うん」

 ぐっと握った拳が叩きつけられる。爆音と共に大きく割れる床。

「やった…!」

 さっすが!…って、あれ?もしかしてこの力で可愛がられていたら僕の骨とかもろもろヤバかったのでは?

 今更ながらにヒュッと肝が冷える。

 ま、まあ、今重要なのはここから出られるってところだしね!うん!

「兄ちゃん凄い!」

「ふふ」

 どこからあの怪力が出てるのか知らないけど!

 さて、床の穴はどこに繋がっているのかな…。

「へ」

 穴の下に見えるのはビル立ち並ぶ夜の街。

「って、えええ~!?!?」

「のどか!」

 覗き込んだ拍子に穴の亀裂が大きくなり、僕は宙に放り出された。

 ビルが立ち並ぶさまがはっきりと見える程度の上空。その場所に。

「し、死ぬ~!!!」



 ガッ、ガリガリガリ!!!

 けたたましい、硬い何かを削るような音が響いて、激しい振動と風、小さな破片を浴びながら不時着した。

「い、いきてる…?生きてる…!」

 地面に触れ、その硬さに安心する。

 ああ、僕、絶対にバンジーとかスカイダイビングとかしない。絶対。

「のどか…」

「あっ!兄ちゃん大丈夫?!」

 バッと声の方へ向く。

「!?」

 はらはらと泣いている。

 思わず駆け寄ると、何かを持っている。…棒?

「壊しちゃった…」

「あ、ああ~…」

「ごめんね…」

 折れた棒。よく見るとそれは僕のブレードロッドの一部のようだった。

 とっさに着地の衝撃を殺すために突き刺したんだろう。見上げたビルの側面には大きな傷跡。…いや、あの一瞬で思いついて実行して無事なのすごくない?やっぱ規格外なんだよなあ。

「大丈夫!それよりありがとう、兄ちゃん!おかげで助かったよ」

「…ふ、へへ。良かった」

 泣き止んだ兄さんにほっと胸をなでおろす。

 床を砕く怪力といい、とっさの判断と実際にやり遂げる所といい。やっぱり兄さんの力はそのままみたいだ。たぶん。

 これならいけるかも…!

「でも、これで武器らしい武器はなくなったな」

 あとは体に巻いたホルスターの中身。いくつか割れてるけど。あとは…。

 ごそごそとバッグを探るも大したものは入っていなかった。せいぜい、飴が数個入っているくらい。

「ね、兄ちゃん」

「どうしたの」

「じつはここ、僕の先輩と友達と一緒に来たんだ。はぐれちゃったから探しに行きたいんだけど、手伝ってくれる?」

「いいよ」

「ありがとう!それで、ここってちょっとお化けというか怖い敵みたいなのがいるかもしれなくて…」

「兄ちゃんに任せて。絶対にのどかのこと守るから」

「うん。僕も兄ちゃんのこと守るから」


 星もない夜空に、煌々と明るいビル。

 看板や標識は文字化けしていて読めないけれど、おおむね現代的な街並みだ。一番はじめを思い出すような。

「兄ちゃん、お願い」

「わかった」

 ぐるりと見て、違和感を強く感じる箇所を蹴り砕いてもらう。

 そうやって起点をいくつか潰していけば、守るかのように怪異、いや偽怪異が湧いてくる。

「えい」

 ピカッとライトを照射すれば輪郭を失い崩れていく。

 形だけ模した偽怪異どもは見た目と違って簡単に散らせる、本当に影のようなものだった。

「念のために入れといてよかった…」

 トンネルや廃屋など暗い空間に行くことが多いので3本セットの強力懐中電灯を買っておいたのが武器として役に立つ日が来るとは…。

「のどか。次は?」

「えっと…」

 ライト2本持ちでピカピカ光を振りまく僕と、片手にライトを持って蹴りで周囲を破壊しまくる兄さん。

 絵面最悪だな…、仕方ないんだけど。


「…そろそろかな」

 星のない真っ黒な空。

 その一点を見つめながら、また小さく揺れる地面に転ばないようにライトを握りしめた。



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