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「お電話ありがとうございます!こちら、怪異討伐・派遣サービスです!」  作者: みよし たもつ
追憶編

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case.67「微睡ブルースプリング」


「兄ちゃん!」

「ん、どうした?」

「見てみて!ぼく、すっごいでしょ!」

「おお!さっすが。本当にすごいな~。のどかは兄ちゃんの自慢だよ」

「えへへ!」

 ありもしない、甘美な記憶。

 いつもどこか怯えていて、俯いて本を読んでいることが多い弟の弾けるような笑顔。明るい声。

 黒髪をかき混ぜれば気持ちよさそうに目を細める。

「兄ちゃん、大好き!」

 ついぞ聞いたことのない言葉。

「兄ちゃんものどかの事が大好きだよ」

 でも、それでも、夢でいいから浸っていたかった。

 あの時期、自分と弟が迎えられなかった眩しい青い春を。

「兄ちゃん」

「うん」

「かえろうよ」

「そうだな」

 久々に弟の顔を見て、声を聞いて、ぶり返してしまった。

 その誘いが希望じゃないことなんて、痛いほどわかっていたのに。




 冬の海沿いは本当に寒い。

 有事のために装備を固め、余計なものは省いているから余計に。

 コートは余計な装備じゃなくないか?なんて吹き付ける風に身を震わせながらボヤく。

「でもミチカケ先輩もシグレも、プライドさんもぜんぜん寒くなさそう…」

 平然としているフィジカル組はともかく。

 ドレス姿のプライドさんなんて僕より薄着に見えるのに。…だいぶ鍛えて筋肉がついてきたって言っても、まだまだか。半年未満だしな。

 指先を手のひらで温めるようにさする。風が冷たい。


 しばらく歩くと、特徴的な屋根が見えてきた。

「あ、あそこだよねー」

 ミチカケ先輩が指さす先。

 西海岸に立つ神社。中央で手すりを付けた石造りの階段はやや広いか。下に立ち、階段の先を見上げながら話す。

「いえ、アレは…」

「西濱神社ですわね。ほぼ目的地ですわ。けれど、今回の本命の場所はその裏手にあるようですわ」

 その通り。

「裏?海岸沿いではなく、か?」

 シグレが言っているのは岩の裂け目の方だろう。観光サイトに載っているものを僕も確認したけれど、どうやらそっちではないようだった。

 僕の頭に刻みついた光景はもっと暗くて生暖かく湿っていて…。

「えっとたしか、こっちです」

 西濱神社の階段を上がらずに横の小道へ。

 堤防を過ぎれば、そこにまた石造りの階段。岸壁をくりぬいたような外観。

「!」

 シグレが突然走り出す。

 追いかけた先、荒波大神と刻まれた石碑の横に金のバッジが落ちている。滑らかな曲線。見覚えのある、白百合の装飾。

「あの方のものだ。間違いない」

「じゃあ、あの先に…」

 洞窟らしき岩間は暗くて見えない。

 観光サイトや他のネット情報にはほぼ何もない行き止まりだと書いてあったけれど…。とてもそうは思えない。

 今も、あの闇の中からこちらを伺うような招くような意識を感じる。


 真の目的地を目前にして、ここでプライドさん以下サポート班が離脱。

「では、わたくしはこの辺りで仮設拠点を作りますわ。わたくしとて最低限の護身の術はありますけれど、さすがにアルキメデスのワンマンアーミーが捕らわれるような場所では足手まとい」

 ふわり。しなやかな指先が髪をかきあげる。

 青が波うつ。

「そも、わたくしの真価は情報戦に置いて発揮されるもの。あとはダーリンとレディにおまかせいたしますわ」

 ぱちんとウインクをひとつ。

 まったく絵になる人だった。

 それに頷いて返し、ブレードのカバーを外す。大丈夫。イメージはバッチリ。あの人を取り戻したい気持ちも。

「行ってきます」


 10段もない階段を上りきっても、なお、その岩間はのっぺりと黒く口をあけている。

 獲物を待っている。

「じゃあまずミチカケちゃんから行くねー。そのあとのどかちゃん。殿しんがりは副長さんに任せるからー」

「はい」

「承知した」

「じゃっ」

 とぷん。

「…えい」


 ぬるり、と形容しがたい不快感が全身を包んで、僕は洞窟の中に立っていた。

 明らかに光源がないのに薄明るい岩肌。触れると人肌ほどの温かさで脈打っている。

「き、きも…」

 ぞわぞわと背筋に怖気が走る。

 胎内回帰、というけれどここは言葉通りの世界なのだろう。

「あれ、ミチカケ先輩…?」

 きょろきょろ辺りを見回す。

 ほとんど間を開けずに入ったはずなのにミチカケ先輩がいない。そして、同じように来たはずのシグレも。

 振り向いても壁しかない。道は僕の先に続いている。…いつだか読んだ詩とはまるで真逆だ。

 っあ~!進みたくね~!絶対良くないことが起こりますってフラグ、めっちゃ立ってるもん!でも…。

「行くしかない」

 なんだか既視感のある単独行動。

 右手にしっかり組み立てたブレードロッド、そして左手には念のためにフタを開けたボトル。心構えだけして歩き出した。





 心地よい風が吹いている。

 芝生に寝っ転がって、隣で昼寝をしている弟の横顔を覗き見る。

「ふふ」

 あどけない寝顔に笑みがこぼれる。

 平和だ。平穏で愛おしい毎日。

「くあぁ…」

 見ていると自分も眠くなってきた。

 日はまだ高い。少し寝てしまってもいいだろう。

「おやすみ、のどか」

 弟の頭をひと撫でして、自分の腕を枕に微睡に身を任せた。



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