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「お電話ありがとうございます!こちら、怪異討伐・派遣サービスです!」  作者: みよし たもつ
追憶編

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case.66「垂涎シックスセンス」


 まったくさっぱり詳細は覚えていないのだけれど、どうやら僕は昔から怪異を寄せ付ける?刺激する?体質だったようだった。

 よく気付く、というのが原因らしい。気づく、認知される。それは怪異にとって存在を強くするために重要なことだ。だからより認知を得るために怪異らが寄ってきて、結果、ものすごくいろんな問題が吹き出す。

 というのは誰に説明されたわけでもないのだけれど、今なら理解わかる。

「ええと、おぼろげにしか覚えていないんですけど…」

 そう前置きして話し出す。

 何をやっていてもどこにいても薄気味悪い異常に包まれていた子どものころのこと。そしてそのせいもあって、なんでも出来て元気で友達も多い兄が羨ましかったこと。ひとり、家の裏山で蹲っていたこと。そこに小さな神社があったこと。

「それで、一番気持ち悪くて怖かった日にお参りしたんです。神様にお願いしたらどうにかなるんじゃないかと思って」

「ふうん。なるほどな」


 赤い月の怪異を砕いたあと、逃げるように僕たちはウラ世界を出た。通り過ぎざまの祭り道中がにわかに騒がしかったのはおそらく、いやきっと僕の影響だろう。

 事務所に逃げ帰れば、僕の必死すぎる形相にサカヅキさんがいちごをポトリと落とした。落ちたいちごが不格好にもケーキの上に着地したのをなんとなく目で追いながら息を整える。

「す、すみません。いま戻りました…」

「お、おう。おかえり」

 そうして事務所のソファに3人腰かけ、ミチカケ先輩が淹れてくれた紅茶とキサちゃんおすすめの高級クッキーをいただいてひと休憩。

 バターが濃くて美味しい。

「つまり、その神社にいた祭神か何かがヒナタくんを守ってくれていたわけだ」

「そう、なんでしょうか。あんまり覚えてなくて…。鳥、がいた気がしたんですけど」

「…鳥、ねえ」

 ケーキを食べ終わったサカヅキさんが唇をひとなめして言う。

「鳥。んで丸いむき出しの鏡。…そりゃ、契約だな」

「契約、ですか?」

「そ。あー、アルキメデスの、アンタなら詳しいだろう」

 ツイとフォークで紅茶に舌鼓を打っていたシグレを指す。

「俺の知ってる通りなら、今も入隊時に神前での誓いをしてるはずだ」

 矛先を向けられたシグレは表情を変えないままにカップをソーサーに戻す。

 湯気で曇ったゴーグルが視線を隠している。

「…」

 ゴクリ。

「確かに、アルキメデスでは都度儀式を行っている。もちろん誓いも。少なくとも私は入隊時と副隊長襲名時にそれぞれ行った」

「だろうな」

 言い切ってまた、紅茶を味わうことに夢中になるシグレ。

 数拍の間が空いて、サカヅキさんがため息。求めていた回答が出てこないようだった。…まあ、これまでの流れからしてもそんな気はしていたけれど。流石に僕でもわかる。今サカヅキさんが求めていたのは、いまでも誓いをしているのかとそういうことではなく、誓いについての説明だ。

「…まあつまり、だ。怪異が存在するように、神仏の類もまた存在する」

「もちろん、かみさまお願い―って言ってなんでも叶えてくれるわけじゃないよー?あくまで、神様はそこにおわす、だけだからねー」

 ミチカケ先輩が補足するように告げる。

「神前での誓約はいわゆる面つなぎ。挨拶だ。名乗りを上げて誓いを立てることで、顔を覚えてもらうんだ。で、気に入られたら力を貸してもらえるかもしれない」

 あくまで、かもしれないだけだけどな。そうサカヅキさんが言い、ミチカケ先輩が頷く。

 まあ、それもそうか。神様だってそうホイホイ個人に肩入れはしないだろう。

 つまり。

「僕って、すごく運がよかったんですね…!」

 何のとりえもないウジウジ鬱々した子どもに、お供え物ひとつで手を貸してくれるなんて。しかも20年近く。

 今度実家に帰ったら改めてお参りしよう。もっといいお供え物も用意して、と思考を巡らせていると何だか微妙そうな視線。

「?どうかしたんですか」

「いや。…まあ、いいか」

 よく分からないけれど納得したサカヅキさんが次の議題、今一番重要なことについて触れた。

 椅子に深く座り直しこちらを見るサカヅキさんに、僕も思わず背筋が伸びる。

「結局、ワンマンアーミー。お前の兄貴はどこにいるって?」

 そうだった。

「そうだ。あの時は急な襲撃で話が遮られたが、あの方の居場所が分かると言っていた」

「そーだねー。でもなんで?」

 3対の目が僕を射抜く。

「え、えっと、証拠とかはなくってあくまで僕の直感というか、でも確信っていうか…」

 なんとなくわたわた手を振りながら言い訳するように濁す。

「で。場所は?」

「海です!」

 鋭い声に叫ぶように答える。

 山育ちの僕だけれど、とはいえ島国生まれなわけで。

 海、というものに縁がないわけでもない。

「海、ねえ」

「漠然としすぎている。もう少し場所を特定できないのか」

「あ、はい。えっと、詳しい場所は…」


 水にとても近い場所。岩の裂け目。

 くぐって、かえる。

 生命。

「淡路島。明神岬、です」

 キン。

 どこかで繋がった音がした。




「さーて」

「行きますかー」

「うむ」

「…はい」

「頑張ってくださーい!」

 立派なクルーザーで揺られること少し。

 万全の態勢で淡路島に降り立つのは、ミチカケ先輩と僕とシグレ。そしてもう一人。

「わたくしが来たからには、もう安心ですわ。ねえ、ダーリン?」

「はは…」

 海よりも青い人。

「明神岬。…胎内回帰、生まれ変わりの場所。またまたわたくしの辣腕を振るう良い機会ですわね~!」

「よろしく頼む。貴女のことは白百合さんから聞いていた。頼りにしている」

「ええ。よろしくってよダーリン」

「?俺はシグレだ」

「殿方はみんなダーリンですわ」

「そうなのか。知らなかった」

 …シグレって、本当に大丈夫かな。私生活とか。

「おーい。行くよー?」

 そんなことはさておき。

 僕たちはさっさと明神岬へと歩みを進めるのだった。



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