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【二章完結】「お電話ありがとうございます!こちら、怪異討伐・派遣サービスです!」  作者: みよし たもつ
追憶編

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case.64「いつかのリバースデイ」


「じゃ、3人で行ってきて。ウラ世界」

「はい!」

「はーい」

「承知。…え?」


 なんやかんやあって再びやってきたシグレさんを取っ捕まえ、おつかいを兼ねてウラ世界へ軽く調査に行くことになった僕とミチカケ先輩。

 さっそく事務所近くのウラ道を歩くものの…。

「なんか、シグレさん…体調とか悪いですか?」

「はっ?!い、いや、そんなことはない。私は第五分隊副長、当然ながら心身の調子は常に整えている」

 突拍子もない質問だったのか、大げさに跳ねあがる肩。繕うようにキリリと凛々しく胸を張る。

 この人、もしかして面白い…?先日はお堅い軍人さんって感じでちょっと怖かったけれど、ああでもあの時もマイペースな感じではあったっけ。

「そうなんですね。流石のプロ意識というか、すごいです!」

「ん。いや、それほどのこともないが。というか、白百合さんの弟君に敬語を使われるのは、その…」

「!」

「へえー。ちなみに副長さんは何歳なのー?」

「私は24だ」

「あ、同い年です!」

「!そうなのか。では猶更だ。私のことはシグレと。敬語もいい」

「えっと、じゃあ…。シグレ、僕のことも同じように呼び捨てでよろしく」

 ミチカケ先輩ナイスアシストです…!こっそりと目くばせすればウインクが返ってくる。流石だ。

 お堅い系かと思いきや案外可愛らしい一面を見せてくれたシグレさん、いや、シグレになんだかほっこりとする。彼の肩の力もいい感じに抜けてきたようだ。

 怪異界隈で初めての同年代の同姓。仲良くなれそうで嬉しい。

「僕は正直怪異に関わり始めたのって今年の夏からで、全然新人なんだけどさ。シグレは長いの?こっち」

「ああ。私は高校の時、部の遠征先で隊長、白百合さんに命を救っていただいた。そこからだな」

「なるほどー。怪異界隈ではあるあるだねー」

「そうなんです?」

「うん。狭い界隈だからねー。あ、もう出るよ」

「!」

 すっと差し出した一歩。踏んだ瞬間にパッと景色が切り替わる。

 どんちゃん騒ぎの道。空中にいくつも浮かぶ提灯。祭囃子。

「こ、こが…あの…」

 大きく目を見開くシグレ。もしかして初めて来たんだろうか。

「とりあえず先に物資補充の依頼と聞き込みにお店行こー。のどかちゃん、話はあとでねー」

「あ、はい」


 少し歩いて目的地に。

 シグレは最初の僕と同じように驚いていたけれど、まあつつがなく終了。

 ただ、オーナーさんは元気そうだったけれど最近の怪異界隈の忙しさに比例して店はてんてこ舞いらしい。軽く聞くだけ聞いてすぐに店を出た。

「うーん、情報ありませんでしたね」

「まあ出歩くタイプの人たちじゃないしねー」

「…」

「どうかした?なにか気になることでもあった?」

 店を出てから、いや、入る前からもなんだかやけに無口なのが気になった。

 顔を覗き込むように伺えば、スン顔でぽつり。

「…いや、おかしいだろう」

「え?」

 何がだろう。

「何もかも、だ!当たり前のように…!」

「?」

「ウラ道なんて危険なもの、当たり前みたいに使ってるのは君達くらいだ!」

 えっ。

「そ、そうなのか?!え、ミチカケ先輩知ってました?!」

「うん。もちろん」

「ええ…」

「まったく。危険極まりないんだぞ!現実とは違う、怪異蔓延る場所なのだからな。まあ、あの方の弟なのだ。そのくらいイレギュラーでもおかしくは…」

 なんだろう。不思議だ。

 久々に思い出した兄の、そして兄ありきで僕を語る言葉を聞いたのに。

 なのに、まったく苦しくないなんて。

「いろいろ、シグレとは話してみたいことがたくさんありそうだ」

「む?そうか。私は構わない。あとで副長室の直通電話番号を教えよう」

「そこ、シグレの個人番号とかじゃないんだ」

「ぷぷ」

「そ、そういうものか。なるほど」

 納得するんだ。しかもそのうえで別に個人番号を教えようとも言わない。

 アルキメデス第五分隊副長…、おもしれー男すぎる。


 などと雑談を挟みつつ祭り道中を抜け、うす暗い道を警戒しつつ見回っていた時。

 ふとやけに静かなのが気になった。もちろん祭り道中の騒がしさを抜けたのもあるけれどそうじゃなく。

「!…ミチカケ先輩っ!シグレ!」

 2人の目が、表情が、空っぽになっている。

 おかしい。

 そう思った時には、もう。

「!」

 チカリ、チカリ。

 瞬くような光が走って。僕は足元が崩れ落ちたような、宙に浮きあがったような不可思議な感覚と共に真っ白な空間に飲み込まれた。





 その昔。今からおよそ16年ほど前のこと。

 とある少年が消えかけの神使と契約を交わした。


 少年の家の近くの、山裾にある廃れた小さな神社。人々に忘れ去られて久しく、信仰を失った神はとっくに高天ヶ原へと還ったあと。神の使いであったその鳥だけが、最後まで社と共にすると決めて残っていた。

 そこへたまにやってくる寂し気な少年。何をするでもなく、じっと息を殺して蹲って、しばらくしたら帰っていく。

 鳥は見ていた。

 ずっと。

 見ていて分かった。どうやら少年は淀みに狙われやすいらしいようだった。これまで見てきた他の人間と違い、淀みを刺激する何かがあるよう。

 苦しそうな、寂しそうな少年。

 ずっと見守っているうちに情も湧き、鳥はいつしかこの少年を守ってやりたいと思うようになった。

 けれど力のないこの身では何もできない。

 思いと裏腹に消滅は近く、とうとう消えるかと薄れゆく意識の中、偶然にもまた少年がやってきた。

 その日、少年ははじめて社を掃除しおやつをお供えして祈った。その背にいつもより深い淀みが見えた。

 これまでは大事に至ることもなく、見守るだけでよかった。でも、あのままでは。


 最後の信仰をくれる人。ただ死を待つのみならばと淀みに喰らいついた。

 成っていなくとも怪異。消滅をもって高天ヶ原へ昇るはずだった鳥は、そのせいで高天原に召されることも出来ず。さりとて怪異となるほど堕ちきれもせず。

 怪異を食う元神の使いとして、少年を見守る為に怪異を食らい続けることで存在し続けることを決めた。

 淀み、怪異を食い、薄くけがれながらもそれを糧とすることで現世にとどまり続ける。奇しくも守りたい相手である少年の怪異を寄せる体質が丁度良かった。


 しばらくはそうしていたが、いつまでもこんな対症療法ではいけないと鳥は気づいた。

 少年は少しづつ大きくなっていたし、そうなれば鳥に会いに来なくなる日だって来るだろう。

 鳥は考えた。鳥は決めた。

 怪異を寄せるその体質を契約によって借り受けることで少年を守り、怪異を食らい続けることで見守る時間、存在していられるだけの力を得ることを。

 けれど、物事にはいつだって限界がある。

 だからタイムリミットを決めた。少年が大きくなって、その体質も受け入れられるようになったら契約満了とすること。いつか大人になった少年が、この体質でも幸せに生きていけるように導くことを。


 導きの鳥は、待っている。必ず来る「いつか」のために。


 イツカ神社はそうして出来た。

 たった一人のための神社。

 たった一人のために飛ぶ鳥を、限界まで保たせるための。



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