case.054「終幕ミステリアス」
「っは、はあ、はあ…」
「終わった…?」
流星のごとく、高く飛んで急降下、その絶死の一撃をもって鬼は斃れた。
鬼は人間に討たれた。
「は、はは、ははっはははっはあ」
良かった…。
足の力が抜け、背から地面に崩れ落ちる。
あ~!僕正直この戦いで対して体使ってないのにめっちゃ疲れた…!絶対明日筋肉痛だ。でも。
「やった…」
「のどか先輩~!!」
「っおぶ!」
「良かったです~!お疲れ様でした~!!」
「キサちゃ、ちょ、苦し」
「あ!チカ先輩~!」
「あ…」
怪異の消滅をもって結界が解かれ、ものすごい勢いですっ飛んできたキサちゃんに抱きしめられる。いや、これは抱きしめるとかじゃなく、締め上げるだな。
もがきながら何とか背を叩けば、視界の端にミチカケ先輩たちを捉えたのかあっさりとそちらへ。べ、べつにいいけど?気にしてないし??
「日向のどか」
「!白百合さん…」
キサちゃんが離れれば今度はゆっくりと白百合さんが近づいてくる。
ぐっしょりと濡れたブーツは歩くたびに重い水音を立て、赤い水を吐き出している。
「今回、お前がいなければ当方は甚大な被害を受けていた。感謝する」
「い、いえ!こちらこそ、結局白百合さん任せで!」
「いい。自分は武力こそが戦う力だ。…お前の戦う力は、そうじゃない」
だろう?と問いかける声はなんだか柔い。
ぱきり。限界を迎えたマスクがその役目を終えて壊れる。
大きく砕けた部分が地に落ちて。
「…無事でよかった。またな」
「………は、い」
その顔。優し気に微笑む顔を、僕はずっと前から知っていた気がした。
波乱の3社合同の大型案件はこうして幕を閉じた。
北海道の地に降り立って約4日。そのうちの頭2日は準備という名の観光だったので実質2日のことだ。
正直、目まぐるしすぎてついていけないところも多かったし、今も全然謎は多い。あんな子どもがどうしてあそこまで上手くことを運べたのか、とか。運だけでは説明がつかない。
それにこの事件に関わるすべてを、どうおさめるのか。
被害者の死にざま、犯人の存在、荒れた五稜郭。最後に怪異が上書きをやめたせいで、現実の五稜郭の地にも怪異の影響が残っている。
鬼との最終決戦だけでも方々への根回しや事後処理は相当に大変そうだし。認識阻害や結界のおかげで一般の負傷者がいないことは救いだろうけれど。
まあでも。
「では、この時点をもって今回の事件。仮称「地獄をみせるもの」あらため、怪異「地獄鬼」。人為的怪異創造案件クラスBの収束を宣言する」
「お疲れ様でした!」
白百合さんが代表して事件の終わりを告げ、背後に整列した軍服の集団、アルキメデス社の面々がそろって敬礼。参戦したプライドさんを含め、青き血の4人が各々会釈を返す。うちも同じように軽く頭を下げて。
僕は大きな声で返し深々と頭を下げた。
「さーて、帰るか~」
「あっ!サカヅキさんも皆さんも!よろしければあと数日うちのホテルは押さえていますから好きなだけ…!」
「ありがとう。でも、こっちの報告書提出もあるしな。向こうも空にしてきてるし」
「そーだねー。ミチカケちゃんもちょこっと自主練したいしー」
「…」
「ああ、皆さん…」
「実はわたくしも立て込んでおりまして。ほら!あなたたちも!」
「そうですね。お気持ちだけいただいておきます」
「うさうさはニトちゃんについてってあげなきゃだからねーっ!」
「…っス!」
「あ、アルキメデスの皆様は…」
「すみません。我々は事後処理が…」
キサちゃんがねぎらいを兼ねて用意してくれたごちそうを最後に会議室でいただきつつ、これでおしまい。立食形式のそれを味わい、腹を満たしたものから抜けていく。
おもてなし欲が爆発しているキサちゃんが参加メンバーを引き留めようとするも、各々仕事のために断られてしまった。しょんぼり肩を落とすキサちゃんをなだめながら、僕も正直、一刻も早く自宅に帰りたい気持ちだった。
…高級ホテルのおもてなしは嬉しいし寝具も食事も最高なんだけれど、やっぱり安心できるのは我が家というか。
「うぅ…」
「まあまあ。またゆっくり出来る時に、ね?」
「はあい…」
しょぼくれキサちゃんをミチカケ先輩たちに託して、ひとり大きく息を吐く。
白百合さんは解散宣言の後、さっさと姿を消してしまった。破損していたガスマスクも予備があったのかすぐに用意したのか、気づけばまた装着していて顔は見えなかった。
白百合さん。アルキメデス社の第一分隊長。たった一人で精鋭10人分の働き。両手の鎖斧。あと大剣…はいつもは使わないのかな。一人称は自分。アルキメデス社を代表するときは当方。
厳しい人かと思っていたけれど、案外柔軟で。
「しかも優しい。…僕、あの人と会ったことがある?」
見間違いで無ければ。でも、どこで知り合っていたんだろう。
いや、そもそも知り合いなんだろうか。白百合さんはそんな素振りなかったし、僕が一方的に見たことがあるだけ?でも、あの時感じたのはそんなんじゃ…。
「ヒナタくん、行くよ」
「あ、はい!」
「荷物まとめた?忘れ物ない?」
「大丈夫です!」
「おう。じゃ、帰るか」
「はい!」
こうして僕の初めての大規模案件は何とか無事に終わった。




