case.052「異体解体コグニッション」
鬼。
それは古来より、恐ろしいものの象徴として描かれてきた。
頭に角を持ち、いたずらに人を虐げ、病をもたらし、死を招く。
強大で理不尽な力の代名詞として、そして何より悪しきものとして。
ロケットランチャーの爆撃によって鬼の角に大きく傷が入る。
そして同時に、その身から発せられるプレッシャーががくりと落ちる。
「!すごい…」
「はは、やっぱりな」
「やっぱりって、どういうことですか?」
「鬼を鬼たらしめるもの、ってことだよ。さて、追撃行くか!」
「あっ、ちょ、」
打ち終えたロケットランチャーをその場に投げ捨て、また銃を手に飛び上がっていくサカヅキさん。
鬼を鬼たらしめるもの。それが、角、ってこと?そんな単純な…。いや、それでいいのか。
「鬼には角がある。角があるから鬼と思う。…逆説的に言えば、角がなければ鬼ではない?」
A=BがB=Aとは限らないけれど、この場合、あの鬼は角こそが存在の要。
認知や認識に存在の強度を左右される怪異。ゆえに。
「でも、まだ…」
天を衝くような巨体だった一番最初を思えばかなり小さくなったけれど、それでも10階建てのビルくらいはある大きさ。
随分ましにはなったものの、依然として身をすくませるおぞましさ。
角はまだ、傷が入っただけで欠けも折れもしていない。
「構わんッ!傷口があるなら俺様の出番というものッ!!」
「はいっ!」
盾を防御でなく、足場として展開したクーデターさん。それを使って跳び上がるスレイヤーさんが刀を握りしめ、角を狙うが高さが足りない。
どうすれば!
「ドールちゃん先輩!」
「…」
手を組んだミチカケ先輩がドールちゃん先輩を跳ね上げ、空中で大槌を振りかぶったドールちゃん先輩がスレイヤーさんに迫る。
「…!」
「ありがとうございますッ!」
回転で威力を増したその大槌が的確にスレイヤーさんの足を面で捉え、その威力のままにぶっ飛ばす。
打ち上げられたスレイヤーさんは弾丸の如きスピードで角に迫り。
「古式ゆかしき怪異には古式ゆかしき対処を!」
「これ、で!」
「終わりだッ!!」
バキンッ!
角に刻まれた傷口に刀が深く突き刺さる。
「あ、折れッ!?」
「着地ーィっ!」
「しょーがないな、っとー」
「うぎゅ」
「あ」
度重なる打ち合いによって疲労が蓄積されていたのか、突き刺さった刀が砕けるのが見えた。けれどそこに意識を向けている暇もなく、支えを失ったスレイヤーさんが落下する。
危ない!という前に地上にいたミチカケ先輩がなんでもないように跳んでキャッチ。スレイヤーさんは無事地上に戻ってきた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「あ、ああ…」
ふらつく体をとっさに支える。
「刀、折れちゃいましたけど…」
「フッ。アレでいい。見ろ」
「?」
その言葉に鬼を、もっと言うなら刀の刺さっていた角を見上げる。
間。
地に響く重低音と耳をつんざく不快音が入り混じった、何とも言えない叫びのような音が結界に囲まれた空間内に充満した。
「~!?!?」
うるさ、いや、痛…ッ!?
ビリビリ揺れる水面に流されないように踏ん張って堪える。
「っ、クク!俺様の刀は刀匠が鍛えた逸品…ではない。あれは機械で固めて作った木っ端量産品」
「え、そうなんですね」
「その真価は、怪異の内側で折れることにある」
「へ」
破壊前提の武器?
そんなことが。いや、ってことはアレは刀というよりも刀の見た目をした入れ物?!
「中には霊験あらたかな神社にて清められた塩。神酒。それが内側で怪異を焼く…!」
「す、すごい…」
それじゃあ、用意したこれは必要ないかもしれない。いや、危うげなく倒せるならそれに越したことはないけれど。
「まだだ」
「えっ」
サカヅキさんの声に意識を戻される。
鬼はその角を3分の1ほど消失させ、さらにその存在を小さくして入るものの立っている。こちらに向けられた悪意も。
まだ、終わっていない。
「といっても、私ももうかなり限界ですが…」
「ぐ、俺様も獲物がない」
「…」
「ミチカケちゃんはもうちょいいけますー」
「俺も。ただ決定力に欠けるのは確かだ」
そんな…。
ここまで来て、持久戦か。行けるだろうか?いや、やるしかないけれど。
「あ~ら。思ったよりもギリギリかしら」
靡く青。
血の池に触れないようにか。どこから用意したのかわからない大きな台に乗って、青き血の特位、プライドさんがそこにいた。
「その声、プライドさんッ!?」
「おまたせダーリン」
「結界は?!いえ、今回の件にはいなかったはずじゃ…」
「わたくしですもの」
「え、ええー…」
自信たっぷりに胸を張るプライドさん。
「いや、それどころじゃないですよ!まだ鬼が!」
叫ぶ僕に動じず、青いロンググローブに包まれた指先が1本、唇の前にたてられる。
思わず黙る僕。
「わたくしの番ですわ。ダーリン」
パンッと青い扇が開かれる。
「さあ、展開なさい!」
その言葉に台座を押してきた黒子さんたちが一斉に手をあげる。
その手にはボード、いや、あれはタブレット?
目まぐるしく動く画面。軽快な音楽。
「?!」
「…なるほどな。やるじゃねえか、あけ美」
「サカヅキさん、」
「怪異の力は認知の力。この現代において怪異はその発生すら容易になったが、反対に弱体化も容易になったってことだ」
ある画面にはデフォルメされた鬼、らしき角の生えた怪物がボコボコにされている。またある画面では倒れた鬼を背に喜ぶ人間のイラスト。おそらくは文字の中でも同様のことが行われているんだろう。
「そうか、」
鬼退治。
それはたしかに、人間の偉業だ。




