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【二章完結】「お電話ありがとうございます!こちら、怪異討伐・派遣サービスです!」  作者: みよし たもつ
合同編

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case.051「身命のクラッシュ」


「なんだ、これ…」

 夜というだけでは説明のつかない、べっとりと昏い空。

 身を襲う怖気と何とも言えない臭気に思わず強張る。

「周囲1キロの認識阻害完了!」

「広域避難指示完了!」

「外周結界の構築準備完了!」

「…来ます!」

 誰もが息を呑んだ。

 たしかにそこは地獄だった。赤く塗れた地面は湧き出るように嵩を増して、沈んでは浮かぶ骨はぬらついてその存在を主張している。

 そして収束した怪異が取った姿は、なるほど地獄に相応しい。

「鬼…!」

 全長など目測もつかない巨大な塊は大きな角を左右に生やし、星を塗り替えて降り立った。


「はは。いや、さすがに…」

「っまだ完全じゃない!どうにか散らして弱体化!」

「はい!」

「りょーかーい!」

「俺たちが削るからヒナタくんは隙見てサポート、よろしくッ!」

 こめかみに冷や汗を浮かばせながら、それでもさすがの胆力と判断力。サカヅキさんが全体に指示を飛ばしながら自身も獲物を手に挑む。

「っし!」

 ガウンガウンと銃声が響けば怯んだそこに巨大な槌が追撃。

 鬼が巨体を振り回せば鉄骨を組み合わせたような鉄塊の盾を構えた騎士が防ぎ、太刀と小太刀で的確に削る。

 それぞれが自身と仲間の攻撃のタイミングを見てそれを生かし、上手く立ちまわって鬼を削り散らしていく。

「ッきりがないなー、もうっ!」

 実体と非実体の境を見極め駆け上がりながらも見事な体さばきで鬼を相手取るミチカケ先輩が、珍しくも悪態を吐く。

 それもそのはず。10人を超える死者を出し、狭くも深い認知と存在の累乗、さらには循環と増幅でもってその力を増した怪異。そのうえ「地獄」という、この怪異を知らずとも世界的に認知の強い世界観。

「これじゃ、ジリ貧だぞ…!」

「だとしても、我々はやるしかありません。そうでしょう?先生」

「まあ、な!」


 激しさを増す攻防の端。

「っくそ!」

 ピアスの認識阻害効果か、あるいは僕なんか矮小すぎて脅威でもないからか。ゆらゆらと不安定な姿の鬼は先輩たちに襲い掛かるばかり。

 僕も合間にチクチクと攻撃を入れるもののまったく効いている気配はない。そもそも相手の大きさに対して僕自身も武器も小さすぎる。

「どうすれば…」

 周囲を見回すけれど怪異の出現による世界の上書きのせいか結界のおかげか、特に役に立ちそうなものもない。関係ない人を巻き込む心配がないことだけがせめてものプラスポイントだ。

 手持ちの武器は伸縮式の棒にギミックの棘。タンクは正直、この規模には焼け石に水だろうな。せめてもっと量があれば…。

 無力さに唇をかみしめているとバシャリと水音を立てながら白百合さんが降り立つ。

「自分がこれからアレを断つ。裂けたら残る全員で叩いて欲しい。…指示は任せた」

「えっ」

 はじめて見る、まるでゲームに出てくるような武骨な大剣を引いた白百合さんが身をかがめる。

 違う。これはあの時見た、

「!」

 まるで隕石が落ちてきたような轟音。しなる脚がクレーターを作り、打ち付けられた血の池が水柱を立てて昇る。

 まるで射出されたような勢いで飛んだ白百合さんが空中で手放した大剣の刃を下にしてその背に乗る。着地の勢いと落下にかかる重力、体重のすべてを載せた一断ちは鬼を2つに裂いた。

「っは、」

 ハンパねえ~!?

 巨体が裂け、またくっつこうとその形を歪ませる。

「っサカヅキさん!!半分は白百合さんが担当します!!皆さんは残りの半分をォ!!!」

「そういうこと、なッ!」

 バランスを崩した鬼をそのまま1つと1つに分けるように、猛攻撃が断面に振り注ぐ。

 危うげなく着地した白百合さんが邪魔になる大剣を打ち捨て、背に負った斧を両手に構えて駆けた。長い鎖でつながれた両斧が宙を舞い、縦横無尽に鬼を切っていく。まるで翼のような…。

「さっすが、ワンマンアーミー…!」


 右角の鬼、左角の鬼。

 何とか2分にした鬼をそれぞれ相手取りながら戦う。右鬼は白百合さんが、左鬼は残る全員が。

 単純に脅威が半分になったとは言えないけれど格段に戦いやすくはなっている。鬼もその大きさを少し小さくしているし、こうなると僕はむしろ手を出す方が邪魔になる。なら、どうするべきか。

「…ふう」

 考えろ。

 僕に期待されているのは武力としての戦力じゃない。たいして戦えない僕が、それでもキサちゃんと違ってここに居られるのはちゃんと意味がある。

 結界の外、サポート班の護衛を兼ねて残ったうさちゃん先輩。その隣にいたキサちゃんを思い浮かべる。キサちゃんの戦う力は財力、僕の戦う力は。

「……そうだ」

 ボディバックを漁って目当てのものを取り出す。水、はこの量じゃ少し心もとないな。仕方ない、ここの血の池を流用して…。

 ボトルに材料を入れて振って混ぜ、しっかり注ぎ入れたらこぼれないように縛る。

「よし、あとは鬼に隙が出来るタイミングを上手く見計らって…」

 ドクン!

「?!」

 地面が、いや、血の池が大きく脈打つように揺れる。

 足首程までだった水位が急激に増し、ふくらはぎ、ふともも、腰と迫ってくる。浮かんでいた骨は見えない。

「なにが、」

「ヒナタくんっ!」

「あ、サカヅキさ、!!」

 ドボンと深い水音を立てて吹っ飛んできたサカヅキさんが僕の真横に沈む。僕に当たらないように空中で身を捻ったせい。が、直ぐに態勢を整えて立ち上がる。

「大丈夫ですか!?」

「おう。…ぺっ、ぺっ。くそ、しくった」

 赤く濡れた金髪をうざったそうにかきあげながら口内に入った血を吐き出す。

 手にした銃もずぶ濡れだ。普通の銃とは違うんだろうけれど、濡れても使えるのだろうか?

「あー、大丈夫っちゃ大丈夫なんだけどな…。ま、そろそろこいつの出番だ」

「え、それって」

 背に負っていた重厚なケース。邪魔にならないか気になっていたけれど、その中身ってそれだったんだ。

「映画じゃないですか…!」

「ははは!アガるだろ?」

「はい!」

 大きなそれを慣れた手つきで肩に負い、構える。

「っすー。おい!デカいのいくぞ!!」

 ビリビリと空気を揺らし、誰の反応を待つでもなく引き金に力が籠められる。

 爆発音。

 ロケットランチャーから発射されたその弾は真っすぐに角へと向かい、とっさに鬼から弾かれるように身を引いた全員を流れ爆風で血の池に沈めた。



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