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【二章完結】「お電話ありがとうございます!こちら、怪異討伐・派遣サービスです!」  作者: みよし たもつ
合同編

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case.050「収束重複マッチポンプ」


 グラグラ揺れている。

 ぐるぐる渦巻いている。

 頭よりも体よりももっと深く奥のどこかで、身の毛もよだつようなおぞましい力の奔流が円を描くように循環している。それは暗くて怖くて仕方ないのに、どうしてか不安にはさせてくれない。

 暖かくて強い何かが僕を支えて守ってくれていると、本当はわかっているからかもしれない。

 まどろむ。たゆたう。

 さみしいと泣く声が聞こえた気がした。


「…ん、」

「あ、起きた」

 目が覚めたら、ここ数日ですっかり見慣れたホテルの一室だった。

「ぁれ、ここ…」

「うん。戻ってきた。ほら、水飲みな」

「ありがとうございます」

 常温より少しひんやりとした水が胃に落ちて、しみわたるような感覚。

 こくこくと喉を上下させて夢中で飲めばあっという間にほとんど空になってしまった。

「…ふう」

 思った以上に水分不足だったみたいだ。

「それで、いまどうなっていますか…?」

「あー、そうだな。説明するより見た方が早いだろ。動けるな?」

「はい」

 サッと着替えて部屋を出る。廊下の静けさがなんだか心地よい。

 扉を開く。

「ヒナタくん、復活~」

「すみません!戻りました!」


「…え、事案?」


 部屋の中、中央にほど近いその場所にはしっかりとした造りの重厚な椅子。そしてそこに深く身を預ける子ども。…の四肢がベルトでしっかりと固定されている。

 子どもの目は包帯でぐるぐる巻きにされているけれど泣いた跡が頬にくっきり残っているし、そして何より、そんな子どもの周囲を武装した白百合さんとクーデターさん、ミチカケ先輩が取り囲むように立っている。

 どう見てもハチャメチャに不穏だった。

「ひどいなー、のどかちゃん」

「あの、いえ、すみません」

「まあまあ。たしかに一見ひどい絵面だろうけどな、仕方ないんだよ」

 わかっているだろ、と言外に含ませて語り掛けるサカヅキさんに、僕は反論できない。

 その通りだから。

「もちろん武力的に言うならこの子はミチカケちゃんどころかのどかちゃんにだって勝てないよー。でも、そう甘くみてあげられない事情を聞いちゃったからねー」

「?」

「ヒナタくんの判断は正しかったってことだよ」

「はあ」

 何が何やらわからないけれど、ミチカケ先輩やサカヅキさんがそういうほどの何かがあるということか。

 …キサちゃんをドールちゃん先輩が、うさちゃん先輩をスレイヤーさんが庇うように立っているのはその事情とやらに起因しているんだろうか。


 最初にそれを口にしたのは、やはりあの人だった。

「…唾棄すべきことに、この人間は怪異を自らの力として利用しようとしていた」

「白百合さん」

「それも、自ら生み出した怪異を正体不明の敵として自らが討ち滅ぼさんという醜悪なマッチポンプのためにだ」

「…は」

 それって、どういう…。

 あっけにとられる僕に、言いにくそうな複雑そうな表情を浮かべたサカヅキさんが続ける。

「つまりだな、あー、この子どもは英雄ヒーローになりたかったんだよ」

「ヒーロー、ですか」

「そう。たとえるなら、怪獣を用意して暴れさせたところに颯爽と現れて退治するような。自分だけが簡単にその脅威を排除できるようにして、な」

「そ、」

 それはたしかにありえざる悪事に違いなかった。

 でも、だとして、そんなこと。

「もちろん普通は出来ない。それも併せて、たしかにこの子どもは天才的だよ。大人だって考えつかないし、考えついても普通実行しない。成功なんてもってのほかだ」

「でも、成功してしまった」

「ああ。運というか巡り合わせもいい。いや、悪いのかもな」

 マッチポンプ。勇者になるために魔王を用意するような、目的と手段が逆転した行い。

 そんなことを、こんな子どもが。

「…ごめん、なさい」

 喘ぐような謝罪。

 可哀そうだとかやりすぎだとか、そういう言葉は出てこなかった。

「…さみしかったんだってー」

「ミチカケ先輩」

「両親は仕事でほとんど不在。友達にもいつの間にか距離を置かれて、ひとりぼっち。ヒーローになってみんなに求められたかった、らしいよー」

「…」

「だからって、それが免罪符になりはしないけどねー」

 強いまなざしは油断なく子どもを見据えてブレない。

 誰も何も言えなかった。


「で」

 重い停滞を吹き飛ばすように

「それよりヤバいのが。この子、星使ほしあきら君なんだけどな…」

「はい」

「単純に「地獄をみせるもの」をテストしてただけじゃなく、それすらまとめて束ねてもう一段階上の怪異にしようとしてた」

「っは、え?」

「ルールにあったでしょー?使い捨て携帯を使って特定の番号に架けるって。それ、4回目は切らずにつなげたままってあったよねー?」

「はい。それが?」

「携帯の方に細工してあって、携帯を依り代に「地獄をみせるもの」を生み出すようにしてあったんだ。しかも、繋げたままってことで「地獄をみせるもの」が全部1つに繋がるように」

 重ねることは、怪異にとって己を強化することに繋がる。

 認識。回数。意図。

 そして、存在。

「それも水辺。流れるものでありながらぐるりと循環する、名で縛るのにお誂え向きの場所を利用して」

 不意に伸ばされた指先がスクリーンを指す。

 大きく映し出された地図。

「この北海道で犯人は星を使う者。星、水辺、堀。循環して増幅させる。…っは、本当によくできた怪異ハナシだよ」

 出来すぎだぜ。吐き捨てるように言い放つ。

「それって」

 言いかけた言葉を遮るように扉が開き、勢いよく入ってくる。

「現地の準備出来ました!認識干渉と結界部隊も展開しています!急行します!」

「よーし、待ってましたっと」

「この子は任せていいんだよねー?」

「はい。影響が出ないようにこちらで隔離します」

「…」

「私たちも行きましょう。スレイヤー」

「ああ。…うさぎさん」

「いっくぞーっ!」

 アルキメデスの人たちと入れ替わるように椅子の傍を離れ、各々武器を手にしたまま厳戒態勢で扉へ向かう。僕も渡されたボディバックをしっかりと身につけながら後を追う。


 寝起きに情報を叩きこまれて、正直上手く消化しきれていない。

 でも、今から行くべき場所は地理に疎い僕でもよく分かった。

「五稜郭…」

 大きな星型の、堀に囲まれた場所。

 今夜、地獄が開かれる場所。



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