case.48「独白ボーイミーツ…」
お父さんとお母さんは毎日とっても忙しい。出張とか遠征とかよくはわからないけど、世界中を休みなく飛び回るお仕事らしい。
らしいって、親の仕事も分からないのかよって感じだけど仕方ない。だってお父さんもお母さんもぼくが小学生になってすぐくらいからほとんど顔を合わせることがないから。
1年に1回あればいい、ごくたまに届く写真。綺麗な景色か美味しそうな食べ物か笑顔の誰か。その裏に書かれた「いつも愛してる」の言葉だけがぼくとお父さんとお母さんをつないでいる。
誇らしい/さみしい。
愛してる/うそつき。
日に1度来るお手伝いさんのご飯を食べて、自由に使っていいと渡された買い物アプリの入ったタブレットを弄る。アニメや漫画、たまにゲーム。
それがぼくの毎日。
小学校は嫌いだ。騒がしくって窮屈で、ひとりぼっちになる。
最初は仲良くしてくれた友だちも、いつからか仲間外れにしてくるようになった。とうまくんもひかるくんもゆきちゃんも。みんなみんな。
先生はいつも困った顔で仲良くしてっていうけど、先生がいなくなったらもと通り。
最初はかけっこで一番になればいいと思った。ダメだった。
次にテストで100点を取ればいいと思った。ダメだった。
ピアノも絵もサッカーも。ぼくは仲間になれなかった。
家からでなくなって、背が少し伸びた。
買い物アプリでパソコンを買って、お手伝いさんに業者の人を呼んでもらってインターネットをするようになった。
いろんなホームページを見ているうちに見つけた、いろんな人が話す場所。
楽しくっていっぱいおしゃべりした。
はじめはみんなぼくに優しくしてくれていたのに、そこでもまたいつの間にか仲間外れ。よく分からないひどい言葉を言われたりして。
でも、ずっとずっと触っているうちにどんどんインターネットに詳しくなって、どういうふうに書けばどんな対応をされるのか段々わかってきた。
とくに掲示板、と呼ばれるそこはいろんな人の意見がたくさんあって面白い。ちょっとよくわからない単語とかもあるけど。
もっともっととのめり込むうちにぼくを強く魅了したのは、オカルト、ホラーと呼ばれるものだった。
知ればぞくぞくして後ろも振り向けなくなるのに、どうしてかもっと知りたくなる。片っ端から読み漁った。
そのうちに、どうやらホラーは怪異という名前で本当に存在しているらしいと知った。フィクションによくある妖怪とは違う、怪異はたくさんの人が同じものを怖がる気持ちで生まれるんだ。それに、名前や形があるとより強い。
でもそんな怪異を倒すヒーローみたいな人たちもいる。
…学校でも、怖い話は人気だった。ひろくんがクラスで話せば、みんな怖い怖いって言いながら笑っていたっけ。
お化けや怪物が本当にいるってみんなが分かったら。それをカッコよく倒したら。
もしかしたらぼくは、みんなとまた仲良く出来るんじゃないか。
それはとってもとっても素晴らしいことみたいに思えた。
はじめて自分で考えたのは芋虫の話だった。
いつの間にかベッドの下にいて、夢を食べて大きくなって羽化したら体の中をぜーんぶ吸ってしまう。そんな話。
でもそれじゃあんまりみんなに見てもらえなくって、ぼくの芋虫は流されて消えてしまった。
何回も何回も考えては書いて流されて。繰り返してわかってきたことがある。
掲示板の人たちには全くの新しい話よりもすこし改変したもののほうが受けがいいということ。それと、化け物は曖昧で未確定で不可思議な方が良いってことだ。
だからぼくはコンセプトを決めて作るようにした。ありきたりだけれど、天国と地獄。誰も見たことないのにイメージがしやすくて受け入れられやすい。知らないは怖い。
そう決めてからは速かった。
こっくりさんやネットにたくさんあるおまじないを元に「天使様」にお願いする方法を書いて公開。
今までとは違ってみんな面白がっていろんな場所に広め始めた。そのうちに話も少し変わったみたいだったけれど、それはそれでいい。
拡散された天使様は本当に怪異になった。でも、天使様はおまじないみたいな怪異だったからすぐに倒されちゃったみたいだ。やっぱり、天使ってきれいなイメージだからかな。じゃあ、今度は。
そうして、2か月かけて「地獄」を作った。
昔ぼくにひどいことを言った意地悪な人たちが見て試したくなるように。分かりやすいビジュアルのトップページ、中へ入る為に自分たちで「地獄(HELL)」を書く。
地獄の門をくぐったら、あとはどんどんいろんな境界をまたいでつなげていく。たくさんつないでいっぱい回せば、天使様なんて目じゃない強い怪異になるはず。
風力や水力じゃない、同一怪異の連結・収束・回転力。
グルグル回して増幅させてすっごい怪異を作るんだ。きっとうまくいくはずだ。
ぼくだけが倒せる、ぼくのための怪異。
ぼくがヒーローになる為の怪異!




