case.047「賢人ザフール」
取り急ぎ、これ以上の掲示板へのアクセスを防ぐため凍結処置を取るアルキメデス社。同時並行して掲示板の主、つまり犯人を特定すべく解析を進める青き血の黒子さんたち。
ガチャガチャ鳴り響くキーボードを叩く音をBGMに、煮詰めたコーヒーの濃い香りとエナジードリンクの甘い匂いが混じり合う部屋の中で武力行使担当の僕たちはというと…。
正直その辺の処理に関しては出来ることがない、ので一旦彼らに任せて各々腹を満たしつつ、いつでも出動できるように努めるのだった。
「っふ、ふう…」
「…フフフ」
「うさーっ、ぴょんっ。うさーっ、ぴょんっ」
空気を割く音を立てて納刀状態の刀を素振りするスレイヤーさん、の足元でうさちゃん先輩を負荷代わりに筋トレするクーデターさん。
なんだこれ。
「やっぱりチカ先輩の淹れる紅茶が一番おいしいですっ!」
「…」
「わーい、うれしー!でもこのホテルの茶葉が良いおかげだよー」
「いい茶葉と腕ききの組み合わせだからな。もちろん、ドールちゃんのクッキーも最高だけどな」
「まったくです」
まったく同意ではあるのだけれど。…うちもうちで、こんな緩くていいんだろうか。
こんなに緊張感のない待機状態って。仮にも重要案件の突入指示待ちの身なわけだし、もっとこう、ピリついた感じの…。
せわしなく動くサポート班の彼らを視界に捉えつつ、なんとなく手持ち無沙汰というか申し訳なさにモヤモヤしてしまう。いや、大戦力でベテランの先輩たちからすればこのくらい慣れたものなのだろうか。
「まーまー。緊張状態じゃあいいパフォーマンスは出来ないからねー。ね、しゃちょー」
「おう。要は切り替えだ」
「…」
「ドールちゃん先輩のいう通り!やるべき時にしっかりやれれば問題なーし」
「そう、ですかね。…いえ、僕は先輩たちほどやれるタイプでもないわけですし…」
「考えすぎの自己評価低すぎ。なあ?キサちゃん」
「です!のどか先輩はすっごく活躍しています!私ももっとみんなの力になれたらと思っていましたけれど、むしろ私は財力こそがパワーなので!これが私の全力です!」
「…」
…まあ、それもそう、か。
キサちゃんの戦う力が財力なら、僕はこの体質や感が力。といってもいいのかな。うん。武力的な話は今後に期待ってことで。
こっちのやり取りに水を差さないようにか、無言でサムズアップしてくる青き血の3人に半笑いを返して飲み込む。
そうこうしているうちに、まず掲示板の凍結作業が完了したようだ。
といっても表向きは犯人にバレないように適宜こちらから書き込みをしつつ、実際には外部からのアクセスが出来ないように。隔離というべきかもしれないけれど。
「こちらも出ました!ネットの中継地点から割り出した大雑把なものですが…、住宅街のようです」
その報告は部屋の中にいた全員に届き、そして全員が首をかしげることになった。
人を隠すには人の中、そういうことなのだろうか。それにしては案外足のつきそうな場所というかなんというか。いや、むしろ廃屋でゴソゴソやっている方がいかにも怪しいのか。
「それはまた、意外というかなんというか」
「でもー、犯人が子供ならあり得るんじゃないですー?アジトとか無理でしょー」
「いや、言っても財力はあるわけでしょう?使い捨て携帯の用意からしても、郊外の邸宅か、あるいはビルって可能性もあったわけですし」
「フッ、たしかに。…まさかとは思うが住宅街ならそのままそこが犯人の自宅、なんて可能性もあるのか?流石に安直すぎると思うが」
「というかー、使い捨て携帯の複数用意ってとこでもっと絞れそうじゃないですー?」
「うーん」
ひとつ分かればいくつも新たな疑問が噴出する。それに思わず考察を始める僕たち。
その空気を断つように重い口を開いた白百合さんが誰よりも早く扉に手をかけた。
「自分は現場に行く。大体でいい、ナビを頼む」
「はっ!」
と、くれば。
「俺たちも行くぞ」
「はい!」
「移動は我々におまかせください。戦闘が行われることも考えられます、体力の消耗は最小限に控えるべきかと」
「助かる」
足を買って出たアルキメデスの人に続いてホテルを出、装甲車に乗り込む。
とっぷりと暮れた空を見る。割り出した地点が犯人にそのまま繋がっていますように。
たどり着いたのはたしかに住宅街ではあるものの一軒一軒の間隔が広く、隣家とはある程度の距離があって聞き込みなどは期待できなさそうだった。
いや、僕たちは怪異討伐部隊であって警察じゃあないわけだから聞き込みだの調査だのは必須ではないのだけれど。
「…」
ここが掲示板の主がアクセスしていた地点。
…普通の一軒家、に見える。
「…、…」
「…!」
犯人が潜んでいるかもしれない。そして、その場合できれば犯人を刺激しないように立ち回り、上手く確保したい。
極力無言か小声、ハンドサインを使用することを装甲車の中で決めていたのもあって静かに取り囲んでいく。
念のために周囲に認識阻害の結界を張って、様子見のインターホン。1秒、2秒、10秒、3分。応答なし。
「……」
「…」
壁沿いに耳をそばだててみるけれど物音もしない。留守、か?
「…どうしますー?」
「強行突破しかないだろう」
「!…ちょっと待っててください」
突撃の態勢を取る前に確認したいものがある。
ネット知識だと大体この辺に…、あった。
「?」
「…電気メーターです」
配線を辿って外壁に張り付けられている電気メーターを確認してみる。あやふやな地市域だけれど、どうやら役に立てそうだ。
開いた電気メーターは古いタイプだったようで、中の円盤が回っている。速さからしても何か大きな電気が中で稼働中なのは間違いない。
「…おそらく」
「…」
静かにうなずいたサカヅキさんが合図を送る。
各々、獲物を手に立ち上がった。




