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【二章完結】「お電話ありがとうございます!こちら、怪異討伐・派遣サービスです!」  作者: みよし たもつ
合同編

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case.045「憔悴クライラヴァーズ」


 ことが大きく動いたのは、その日のことだった。

「!…なんか、あっちの方ぞわぞわします!」

「おっけー!」

「うさうさ了解ーっ!」

「承知!」

 黄昏時。

 眩む黄金を全身に浴びながらミチカケ先輩と僕、スレイヤーさんとうさちゃん先輩という組み合わせでそれぞれバイクに乗り川沿いを哨戒していた時のこと。

 突如として背後に怪異の手が迫ったような、怖気と緊迫感が走って背筋が凍る。インカム越しに即座に共有すれば当然のように僕の感じた方へハンドルを切りアクセルを回す2人。

「あそこです!」

「よっし!しっかり捕まっててー」

 飛んッ!?

「こちらも行きますッ!うさぎさん!」

「きゃっほーいっ!」

 川沿いの道、そのガードレールを越えるべくエンジンをふかしたミチカケ先輩がえげつない角度に急旋回。

 道端に放置されていた片っぽの靴をすれ違いざまに蹴り上げてリヤカーにブチ当て、ひっくり返ったリヤカーをジャンプ台にして飛び上がって着地。また走り出した。

「?!?!」

 え、今なにが起こった!?

 背後に続く鈍い着地音と唸るエンジン音を聞きながら、自分に起こったというか体感した神業テクニックに放心してしまった。

「ん、あそこだねー」

「…はは」

 先輩、半端ないっす。


 残念ながらどこにも公表できないスーパーテクニックによって怪異の気配を察知してから3分足らずで現着した僕たちだったけれど、残念ながら間に合わなかった。

「…」

 凄惨な死に様に黙祷。そして、現場に残った怪異の残滓と使われた物品の捜索を始める。

 あ、まずはアルキメデスの人たちに一報入れておかないと。

「それはスーちゃんがやってくれるから大丈夫だよー。のどかちゃんは少しでも違和感や怪異の残滓を感じるものを探してほしいなー」

「はい!」

「うさうさも探そーっ!」

「あ、助かります。うさちゃん先輩」

「いいよーっ」

 ミチカケ先輩が信じてくれる、それだけでこの体質も僕の力としてプラスに利用することが出来る。

 バイクを置いて川沿いの草をゆっくりと念入りにかき分ける。今回使われた石は絵の具で白く塗ってから赤を重ねたらしい。湿った土に少し色が溶けている。

 慎重に取り上げてジップバッグに回収して立ち上がる。

「…うーん、特に目立った痕跡はなさそうですね」

「あーっ。うさうさの手、汚れちゃったーっ!ニトちゃん拭いてーっ」

「すぐにッ!」

 二刀流だからニトちゃん、という本名にも特位にも掠らないあだ名を持つスレイヤーさんはどうやらうさちゃん先輩に甘い。というか、過保護?いまも、着ぐるみの手が土で少し汚れたのを見てウェットシート片手に飛んできた。

 …着ぐるみの汚れって、ウェットシートでどうにかなるものなのか?いや、それよりも普段どの程度の頻度で丸洗いしてるんだろう。

 じいっと2人のやり取りを見ていれば、背後でカサリと草の擦れ合う音。そしてほんの小さな息を詰める音。

「!ミチカケ先ぱ、」

「捕まえたー!」

 対怪異に特化したといっても、その鍛えられた索敵能力と反応速度は当然一般社会にも通用する。

 僕が何を言うまでもなく気付いたミチカケ先輩が即座に対象へ接近。捕縛した。

「さーて、まるっとゲロってもらおうかなー!」

「…!」

「さあ、お顔見せてねー。って、あれー?」

「う、うぅ…」

「んんー?」

 腕を捻って草のうえに押し倒した相手は真っ黒な上下にマスク、フードを目深にかぶった不審な装い。身じろぐ相手を押さえつつフードに手をかける。そこからこぼれ出たのはくるりと巻かれた茶色の髪。

 あれ?

「い、いたい…」

 パッと力を緩めたミチカケ先輩が背から降りて手を貸せば、軽くせき込みつつ身を起こす。

「…女性?」


「…浅木みちる、です」

 どうやら犯人ではなさそうだが関係者には違いなさそう、ということでアルキメデス社に連絡し車でホテルに帰投。乗ってきたバイクは回収してもらえるようなので放置。

 さて、会議室の一角に急遽用意したスペースで事情聴取。

「浅木さん。…被害者とはどういう関係なのか伺っても?いや、そもそもどうしてあの場所に?」

「…わたし、ええと彼の恋人、です」

 突然の無礼を謝罪したのち、あたたかい部屋で温かい飲み物を振る舞いやわらかな声で事態を可能な限り誠実に説明すれば恐怖におびえていた彼女も次第に落ち着いた。

 死体そのものを目撃はしていないようだったけれど、被害者である彼が死んだのはなんとなく把握したらしい。

 そうして少々の間ののちに憔悴した様子で彼女、浅木さんはぽつりぽつりと話し始めた。


「彼が、最近仕事で上手くいっていないことは知っていました。最近部署異動で直属の上司が変わったとかで…」

「ああ、わかります。会社はそういうのがものすごく業務にもやる気にも影響しますよね」

「え、ええ。そうなんです。それで、新しい上司の人っていうのがその、結構厳しい方みたいで」

 兎にも角にも結果。結果が全てのタイプで、それまでの過程で準備したものだとか費やした時間、努力はすべて結果がついてこなければ無駄だと言い切る苛烈な人物になってしまったのだと浅木さんは恋人から聞いたそうだ。

 まあ正直、僕にも経験のある感じの人物像だ。会社である以上、結果が大事だというのはもちろん承知の上なのだが一事が万事そんなことではやっていけないというのが下の意見である。

「…」

 話を聞きつつ深く頷く僕に何人かの視線が突き刺さるけれど、ここでは関係ないので触れないでおく。

「それで彼、どんどん暗くなっていって…。でも、ある時からなんだか怒りっぽなったんです。それまでは結構自罰的というかため込むタイプだったんですけど、すごく攻撃的というか、本当に人が変わったみたいになって…」

「心配ですよね」

「はい。でも、言葉じゃ止められないから。せめて何か癒せるようにと思ったんですけど、家に行ったら玄関にあそこの住所の描いたメモが落ちていて」

「うんうん」

「う、浮気かもしれないと思って。急いで家に帰って変装して行ったら…。あんなことに…」

 なるほど。

 唐突な恋人の変化。意味深なメモ。現場を押さえるべくこっそり向かったらそこは浮気相手の家や密会現場じゃなく…。

「…」

 チラリと目線を向ければ、視線は合わないままにハンドサインで返される。

 了解の意を込めて頷き、そっと席を外す。

 泣き崩れる浅木さんを慰めるミチカケ先輩が彼女を送って帰って来るまで、僕は部屋でサカヅキさんに報告と指示を仰ぐことにした。



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