case.044「限界アフタートーク」
なんとなく。
その言葉が大っ嫌いだ。
「なんか気に入らないんだよな」
「別に何もされてないけど、なんとなくムカつくから」
そんな軽い言葉で、ぼくは居場所を失った。
「怖いじゃん。なんかわかんないけど」
だから、明確な理由があればいいと思った。
「スーパーヒーローが本当にいたらいいのに」
天啓。
ぼくが。
とりあえずこれだけの情報では犯人像を特定はできない、という結論に至ってその日は解散。
掲示板の利用者はまだいるだろうし、それがいつ被害者になるかは正直分からないけれど。とりあえずは白百合さんではないアルキメデスの人たちが交代で網を張ってくれるという。
なのでとりあえずは日の上ったこともあり、僕たちは心身を休めてまた夜に備えようということだった。
それぞれ熱いシャワーを浴び、またぞろ部屋に集まってボスより。
「俺たちは犯人像を子どもと仮定して動こう」
間。
「い、いいんですか?だって、根拠も理屈もなくて…」
「こっちからすれば、のどかちゃんがそう感じるってだけでもう十分に理由になるけどねー」
「そうです!のどか先輩はすごいんです!」
「ええ…」
空は青いし日はまた昇る、そんな当然のことを言うようにミチカケ先輩が。
たっぷり休んだことで復活したキサちゃんが両手をぎゅっと握りしめ、自信たっぷりにそう言い切る。
「ミチカケちゃんが言う通り。俺たちはヒナタくんをよく知っている。…良くも悪くも、君のその確信めいた直感が当たるのを見てきたからな」
「…」
「サカヅキさん、ドールちゃん先輩まで…」
続く2人も本当に1ミリだって疑いもしていない。
嬉しい。それと同時にめちゃくちゃなプレッシャーを感じる。う、胃が…。
「フッ。俺様も混ぜて欲しいものだな」
「私は外れていても構いません。未知の敵とのギリギリの命のやり取り…。高ぶりますッ!」
「ぷぷーっ!きもーい!」
「おやおや、手厳しい」
「えっ」
なんでこの3人が?
ナチュラルに参加してきた声に慌てて振り向けば青き血のキャラ立ち3人衆。
「おー。来たか」
「えっ」
当たり前みたいに手を振るサカヅキさん。
「えっ」
もしかしなくとも、この3人を呼んだのはうちのボスらしかった。
え、以外言えなくなったポンコツロボットの僕を置いて話はどんどん進む。というか、先輩たちはともかくキサちゃんも驚いた様子がないのはどうして…。
若干の疎外感を感じつつおとなしく聞き手に回る。どうやら青き血のメンバーとサカヅキさんには古い因縁、いや、深いつながりというべきか。そういった密な時間を共有した仲のようだった。
「お前たちの意見は?」
「先生の感じる通り、といいたいところではありますが残念ながらあの会議以上のものはありません」
「…わた、俺様たちは正直頭脳面じゃなく体力面で選抜されたからな」
先生。
パワーワードすぎて、スレイヤーさんが普段はわたしって一人称なんだなとか思うことも出来ない。
え、サカヅキさんって青き血の人たちの先生だったんですか!?それはティーチャーってこと?!やけに親しそうというか、遠慮がないと思ったのはそういう…?!
静かに大混乱の僕。対して全くスルーの全員。
「確かにお前らはもっぱら足で情報を取ってくる担当だろうけどな、思考は止めるなって言ってんだろ。得た情報は蓄積と分析。ずっと言ってるよなあ」
圧。さわやかな笑顔のままに凄むサカヅキさんにクーデターさんもスレイヤーさんも冷や汗を浮かべてぶんぶん首をたてに振る。…うさちゃん先輩ことアダルトさんは着ぐるみで分からない。
「もちろんですッ!」
「…!」
わたわた手振り首振り慌てる2人にサカヅキさんはふうとひとつ息を吐いて、重いオーラを四散させた。
「ったく」
「ほっ」
「はあ」
「ふいーっ」
4つの声が重なって。
「それでー、青き血は個人じゃなく社としてうちの考えに乗っかるってことでいいのかなー?」
「ええ」
「ふむふむ。でも、犯人が子どもであると仮定したら、何か変わるものなんですか?私、まだまださっぱりで…」
ミチカケ先輩が逸れていた話を修正して言えばキサちゃんがのっかるように続く。
でも、たしかに。犯人像の仮定によってなにか僕たちの行動に影響があるんだろうか。自分で言っておいてなんだけれど、僕もさっぱり。
「ああ、それはねー」
ピピピピピ!
甲高い警告音が鳴って話が中断される。
「どこ?」
「というか何の音です?」
きょろきょろと部屋を見回す。
「あ、うさうさだーっ」
ピ、とその手ぶら着ぐるみのどこから取り出したのか分からないスマホを操作して音を止める。
「そろそろ仮眠とる最終時間だよーっ!タイムアーップ!しゅーりょーっ!」
なるほど。時刻は深夜32時、いや、朝の8時を過ぎていた。普通に外が明るい。
時計を見て時間を正しく把握したことでハイになって狂っていた体内時計が急速に動き出す。
「ふわあ~」
「んん、そういわれると眠くなってきたな…」
「というか」
ぎゅう~、と間抜けな唸り声が僕のお腹から響く。
「むしろお腹すきました…」
慣れないバイクでの移動。加えて情報共有と分析の会議。
糖分と水分。せめてインスタントのみそ汁でもいいから、なにかしら胃に入れないと眠れそうにない。
「…ぷ」
「あはは!じゃあ軽く胃に入れるか!」
「…」
「あ、そうそう!ドールちゃん先輩と一緒に時間つぶしの気晴らしでキッチン借りてクッキー焼いたんだよー。お茶は買ってきたやつだけど、早朝ティーパーティーしよっかー」
キサちゃんの護衛を兼ねてホテルに残っていた間にそんなことを。少なくともミチカケ先輩は夜間のしらみつぶし作戦にも出ていたのに、いつそんな暇があったんだろう。
先輩たちのスキルには驚くばかりだけれど、純粋にありがたい。
「スーちゃんもクーちゃんも、いっぱいあるからどうぞー」
「わーい!」
「お言葉に甘えて」
そうしてちょっと贅沢な夜明けを過ごして、ようやく仮眠タイム。
倒れこんですぐ、夢すら見ない深い眠りに落ちた。




