case.043「情報集積トップスピード」
薄暗くなっていく道をそれなり以上の猛スピードで駆ける。人気のない方へと進んでいくこともあってか、対向車はもちろん同じ方向を行く者もいない。
いや、もしかしたらこれもアルキメデスの力で通行規制が敷かれているとかそういうことなのかもしれないけれど。
「のどかちゃんさー、何か感じるー?方向とか違和感とかー」
インカム越しにそんな声が耳に届く。
「んん、この辺はない、ですかね」
「おっけー」
言うや否やぐんっと加速。曲がって飛ばして、どんどん景色が流れていく。
「あ」
急停止。
まるで前方に射出されるがごとく圧がかかって、倒れこむような鋭角でドリフトを決めた。
み、道が広くて良かった…!
「どこ?」
「なんか、気のせいかもしれないんですけれど」
「いーよ。言って」
「白い光が、あっちの方で瞬いたような気がして…」
道を外れ草木生い茂る方へ指をさす。
正直全然自信ないし見間違いとか気のせいとか、全く別の何かの灯りかもしれないけれど。僕もそれなりに自分のトラブル吸引体質には慣れてきたので。…嫌な慣れだな。
とりあえず今はどんな小さな違和感でも見逃せないとバイクを止めて見に行くことに。ザクザク踏みしめていけば、ざわざわと風に木々の揺れる音。そしてほのかな水音。
「川…?」
「あー、なるほどね。そーいうことかー」
川岸。草に埋もれるように不自然に白い石が転がっている。ただ見た感じ光源になりそうな感じではない。そもそも地面にあって、僕の感じた光とは高さ的な位置も違うわけだし。
「んー。ほら、見て」
おもむろに石を拾い上げたミチカケ先輩が軽く手で遊んだ後、こちらにひょいと投げて寄こす。
絵の具。いや、ペンキだろうか。一瞬血かと思ってびくっとしてしまったけれど、乾いた状態でも明らかに明るい赤。
「軽石ですね。ペンキでしょうか」
「うんうん。それにかすかだけど怪異の残滓だねー。のどかちゃん、さっすがー!これは大きなヒントだよー」
「!良かったです」
軽く現場の写真を撮って、石を回収。
そして写真と情報を端末で共有すれば、各自近くにある川を調査のうえ結果によらず一旦帰還することとなった。
ホテルに戻って会議室。
何やら大きなスクリーンとプロジェクター。そしてあわただしく動く黒子たち。中心にはいつの間に持ち込んだのだろう、大きなデスクトップパソコン。
「なんでしょう」
「さあー?でも、糸口だといいねー」
持ち帰った石を手に見守っていれば、バチバチと稲妻のような連打音を奏でながら目まぐるしくパソコンの画面が移り変わる。
「出ました!被害者が死亡する直前まで開いていたページです!一部ですが…」
「なになに…」
スクリーンに映し出されたのは、仮称「地獄をみせるもの」に繋がるであろう掲示板の書き込み。その一部だった。
地獄を垣間見る方法、と銘打たれたそれ。手順は以下の通り。
白い石に赤いペンキを塗ったものを用意。
使い捨て携帯は1度に1台のみ。かける番号は登録された0×0-××××-××××。ワン切りを3回、4回目は自動的に切れるまで架け続けておく。
コールが鳴っている間に石を足元に置いて5回手を鳴らし、9秒目を瞑ってから開く。
そしてこれらはすべて、
「川を渡って向こう岸で行うこと」
シンと静まり返った部屋の中に僕の声が妙に響いた。それに何だか妙な緊迫感を感じて息を詰める。
一拍。間をおいて各々が話し出す。
「フッ。なるほどな」
「いかにも、といったルールですね。本来であれば実行したところでどうともなりはしないネットの眉唾話で終わったのでしょうが…」
川を渡る。いわゆる三途の川に見立てた行為だろう。彼岸と此岸、境界を自ら越える。
そして4回と5回と9回。これは単に音の問題だろうか。459、つまり地獄。そして開く。
「へんなのーっ!」
「でもこの石は何なんでしょう。賽の河原の石積みというには、数が足りませんよね?」
「いや、それもあるんだろう。被害者が増えて石が増えれば重ねることになる。それにたぶん、色からして血と骨を意味したんだろうな」
「だとして、最終的に何をしたいんでしょうねー?単純に考えるなら龍脈狙いでしょうかー」
簡易な地獄を北海道各地で開き、水脈に沿って重ねる。
少々の怪異の力では龍脈に負けるのは必至だけれど、数や意図、命が重なればどうにかできるのだろうか。いやそんなことをして何になるんだろう。
「美瑛の青い池?」
「いや、北海道神宮の結界を破るのが目的かもしれない」
「それ、出来ますー?」
「うーん」
地図を前に唸る人間たち。謎は深まるばかりだ。
早急にカタをつける必要がある、という共通認識の元。各社で動き始めると少しづつ怪異の情報が明らかになってきた。
バラバラだと思っていた被害者の位置は、どうやら川をまたぐ形で点在していること。
現場からなくなっている使い捨て携帯。
ネット掲示板の書き込み。
…そうして情報が集まることで浮上してきたのは、犯人像のちぐはぐさと目的の不明さだった。
「ネットに精通していて、おそらく使い捨て電話を大量に用意できる資金力」
「プラスして誘導や暗示に長けた人物」
「…これだけ聞くと、資金と時間を持て余した老獪な個人って感じですけど」
「そもそも何を目的としてるんだ?」
「フッ。忌々しい話だが世界を混乱させたいだけの愉快犯、という可能性もあるだろう。俺様のように崇高なる志がない空っぽの愚か者、という可能性がな」
「えーっ!うさうさ、そういうのじゃなくて魔王とかがいいーっ!」
流石にそれは。
僕たちってどう考えても勇者パーティーって柄じゃないですし。
キメポーズで天井を仰ぐスレイヤーさんにうさちゃん先輩が退屈そうにゆらゆら揺れているのを苦笑いで流しつつ横目に伺うと、なにやら神妙な表情のサカヅキさん。
「なんっか甘いんだよなあ。ことの性急さや地獄のイメージの安直さから見ても…。正直、俺が受ける印象としては…」
幼い。
そう言いたいのだろうか。
でも、そんな、こんなことをしでかすような犯人が、
「まさか、子ども…?」
根拠のないただの推測。そう流すにはまるで不可視の攻撃を食らったかのような衝撃が深く突き刺さった。




