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【二章完結】「お電話ありがとうございます!こちら、怪異討伐・派遣サービスです!」  作者: みよし たもつ
合同編

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case.039「悪意とシークレットランデヴー」


 白い石が転がっている。

 丁寧に磨かれたのか、艶のあるとろりとした光沢。

 大きさは爪ほどのものからこぶし大まで様々。その色合いも削り出したような純白から黄味がかったもの、何かをふき取ったような染みのあるものと多種多様。

 カツカツこつこつ。

 軽い音を立てながら打ち鳴らしてみては塔のように積み上げる。

 まるで何度も同じ動作を繰り返したような慣れた手つきで淀みなく積み上げられたそれらを、今度は何気なく持ち上げた腕でおもむろに打ち崩す。

 飛び散った石がぱちゃぱちゃ水音を立てて力なく地面に横たわる。じわじわと浸食する赤。粘着質な水音はその色も相まってまるで血のよう。

 血の海に、小さく浮かぶ白。

 ああ、きっと。

 ここが地獄だ。



「被害者たちはみな一様に大きく目を見開き、事切れていた。その目は異常に赤く、その体からは血と骨が不自然に失われている。…外傷もなく」

 渡された資料に記載された一文。

 文字にされると読み流してしまいそうになるけれど、僕の目にしっかりと焼き付いた被害者の姿は、到底そんなあっさりと流されて消えてはくれない。

「やっばいな、マジで」

「同意でーす」

 くったりとソファに沈み込むサカヅキさんとミチカケ先輩。

「僕、あんなふうになったの、はじめて見ました…」

 詳しくは言葉にもできない。…怪異被害者に会うことは少なからずあるけれど、これまでは重篤な外傷や死者を見たことはなかった。幸運にも。

 顔合わせで合流して事件の詳細について知らなかったキサちゃんは、あまりの衝撃に部屋で臥せっている。看病にはドールちゃん先輩がついていてくれているけれど、大丈夫かな。

「ま、アレはかなりレアケースだよ。もっとも、この事件を追う内は安心しろとも言ってやれないけどな」

「…ですよね」

 被害者はわかっているだけでも10人。上は50代無職から下は10代の学生まで。男女比も、やや男性よりなくらいで顕著な差異はない。場所も北海道である以外バラバラ。

 ただ、みな発見時の状態が似通っていて人気のない場所に1人。手荷物は多少異なるけれど自殺をほのめかすようなものもなし。

 …きっと死にに行ったつもりは誰にもなかっただろう。

「調べたところ、被害者同士には表立った接点もなし。ね」

「掲示板内では交流があったとしても、ああいったものは匿名性が重要だから個人的な情報を明かし合ったりはしていないだろうねー」

「…見知らぬ他人と、怪異話。いや、情報共有だけで仲間意識はなさそうでしょうか」

「そうだな。おそらく該当の掲示板には怪異に遭遇する条件が記載されていて、被害者たちは自らそれを試そうとしたんだろうな。それが誘導されたものとは知らず」

「…」

 はあ、と深いため息が重なる。

「まあなんにせよ今は情報待ちだ。おそらく動くのは夜」

「ですねー。じゃ、ミチカケちゃんは部屋に戻ってキサちゃんの様子見てきまーす」

「おう、頼んだ」

「お願いします!」


 ミチカケ先輩が部屋を出ていくと、また部屋が静かになる。サカヅキさんと僕の脈うつ鼓動だけが確かにその身に響いている。

 ああ、これもまた僕が。

「僕のせいで、ってのは思い上がりだぞ」

「!」

「事件自体はヒナタくんが関わる前から起こっていたし、被害者もいた」

 鋭い声。

 けれどこれは僕を傷つけるために研ぎ澄まされているわけじゃないことを、僕は良く知っている。

「そもそも、誰が悪いって話なら黒幕が悪いに決まってんだろ。それにこんなこと企む時点で今よりもっと前、それこそヒナタくんが怪異に遭う前に始まってんだよ」

 普段よりもぶっきらぼうな言葉。

 その言葉に含まれた気遣いがこわばる身体に溶けていく。さながら砂漠にまいた水のように。

 こういう時、本当にサカヅキさんがボスでよかったと心から思う。そして、僕が今やるべきことは傲慢な自省や未来への恐怖じゃない。

「はい。…ありがとうございます!」

「おう。じゃあ俺は一旦出てくるけど、ヒナタくんは少し仮眠とっておきな。目を閉じて休むだけでも違うからな」

「はい!」

 サカヅキさんを見送って、ベッドに軽く横たわる。念のために1時間後にアラームを設定して、照明を少し落とす。

 目を閉じて思考を手放せば、意識が落ちるのはすぐだった。



「で?」

 部屋を出て無言のままに歩く。

 ラウンジを過ぎて人気のない方へと進めば気配の主も追ってくる。

「なんのようだ?アルキメデスのワンマンアーミー」

「…」

「おいおい、俺が知らないとでも?有名だぜ、アルキメデスの第一分隊はたった一人。精鋭10人分の実力者だってな」

「…」

「そろそろその物騒なマスクも外したらどうだ。見られたくない相手は俺じゃない、だろう?」

 ようやっと、無言のままに動き出す。

 ガスマスクに触れたグローブ越しの手が少し躊躇うように震えて、けれどまるで錯覚だったかのように瞬きの合間に自然な手つきで留め具を外す。

「…へえ。色男じゃねえか」

「どうも」

「で、うちのに何のようだ?」

「…なぜ、そう思う」

「はっ。気づかないはずがあるかよ。ずいぶん熱心に見てただろうが」

 ま、アイツは気づいてなかったけどな。喉を振るわせて笑えば、気配はじっとりと湿度を増して重くなる。

 まったくどういう関係なんだか。推測はいくらでもできるが流石に確証はない。アルキメデスの、それも分隊長クラスの個人情報なんて下手な機密情報よりも探り辛い。

「…」

「だんまりなら俺は戻る」

「…アレは、どうしている」

「精神的なショックは多少なりとも。だがうちのはそんなにやわじゃない。すぐ立ち上がるよ」

「そうか」

 深い沈黙をおいて、再び白百合が口を開く。

「…望むなら、外してもいい。初めからいなかったと手を回してもいい」

 意外なことに、その提案には温度があった。大切なものを危険から遠ざけたいという、人間らしい温度が。

「意外だな。アルキメデスは怪異絶滅を掲げ、怪異から逃げることを許さないんじゃなかったか?殉職以外は逃げ、だろう?」

「…」

「それに一旦契約を交わして参加した。それも人為的怪異創造案件の脅威B。情報漏洩を防ぐ意味でも途中離脱なんて、」

「望むか、望まないかだ」

 煽るように言い募ればそれを遮るように力強い2択を迫られる。

 …それだけ本気ってことか。

「わかってんだろ」

「…」

「もちろんNOだ。…じゃあな」

 背を向けて歩き出す。

 気配はもう追ってはこなかった。



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