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【二章完結】「お電話ありがとうございます!こちら、怪異討伐・派遣サービスです!」  作者: みよし たもつ
合同編

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case.038「事態急変バッドニュース」


 ネットの匿名掲示板、そのさらにアングラな僻地を知るものは少ない。

 僻地に好んで居座る住人共はどいつもこいつもイカれていて、戯言ばかり吐き出す口先だけは達者な社会不適合者ばかり。

 なんて。

 自分もまた、その一人。

「…」

 受験に失敗して、友人と疎遠になり、親は口うるさくて。

 ズルズル落ちぶれてどん底まで。

「…」

 なんで自分がこんな目に。

 絶対に落ちるはずなんかなかったのに。

「…」

 必要以上に叩きつけられるキーボードが悲鳴を上げて、そのガチャガチャした不協和音が余計に癪に触る。

 マウスを持ち上げた右手が傷だらけの机にガリガリ痕を重ねて軋む。

「…」

 ガンガン鳴り響く断末魔の叫び。

 嗚呼、五月蠅い!

「…」

 黙れ黙れ黙れ!

 頭を掻きむしっては爪の間に皮膚の滓が入り込む。何百だか何千だかの舌打ちと振り下ろされた拳がとうとう疲労困憊のキーボードを破壊。

 ビイビイ吐き出すエラー音が、突然ぶつりと途切れた。

 掻き乱れた髪とその下から覗く血走った目。よっぽど怪物じみた風貌で睨めつけるようにぐうるりと首を回して覗き込む。

「…」

 真っ赤に染まった画面に入力ボックスがひとつ。

 ふてぶてしく問いかける。

『この世は地獄?』

 決まっている。

「HELL」

 部屋に転がっていた生きているキーボードをひっつかんで打ち込んだ。

 ぱっと画面が切り替わって、一転。そっけない白い背景に黒い文字。

「…掲示板?」

 水分を失ってひび割れた唇を割いて淀んだ音が漏れる。

 よく見てみれば、それは通常の掲示板とは違い何やら実際に行動していることを報告しあっているようだった。

 遡ってみてみれば、なにやら使い捨て携帯の用意だの必ず単独行動をして人目につかないようにすることだの、一種の闇バイトのような文言。

 ただし決定的に違うのは、これがいわゆるオカルト的な現象を実際に起こしてみようという趣旨であることだった。

 じっくりとスクロールして情報を拾い集めていく。

「…へえ」

 使い捨て携帯は物好きな参加者の一人が提供しているらしく、自由に使えと置かれている住所を見てもさほど遠くない。

「…」

 暇つぶしと好奇心、何かが起こればいいという破滅的な期待を抱いてその住所をメモに書き写した。



 飛び込んできたのは三社合同のうちの残る一社。アルキメデス社の人、らしかった。

「来い」

 そう言ってすぐまた飛び出していった彼の背を追って走る。

 息苦しそうなガスマスクにかっちりした軍服。背に負った袋にはおそらく武器が入っているのだろう、ガチャガチャと金属の擦れあう音を立てている。

 ガチャガチャ音といえばクーデターさんだが…。

「…」

 チラリと横目に様子を伺えばにこやかに返される。

 …全身鎧の割に音はほとんどしない、というか良くそれで走れるな。

「騎士たるもの、このくらいは当然です」

「あっはい」

「はは、そんなに熱い目で見られると興奮します」

「結構です」

 やっぱ変な人だ。

 クーデターさんから目をそらして前を走る軍服の男性、そしてその先を見つめる。ホテルを飛び出し、見知らぬ土地を走る。肺に流れ込む冷たい空気が熱を帯びる体に心地よい。


 しばらく走ってたどり着いたのは、生活道路を外れた空き地。

「…説明を要求したい。俺たちは正直、ここの地理に明るくないし事件の内容もざっくりとしか把握できていない」

「…」

 まるで恐ろしいものをみた、という驚愕に彩られた表情。口唇から泡を吹き、見開かれた目は以上に赤い。

 充血、というには赤すぎる。これではまるで。

「…自分はアルキメデス社所属第一分隊長、白百合。この人間はつい先ほど発見された、本件10人目の怪異被害者だ」

 彼は言った。

「10人。もう、そんなに」

「発見されている限りでは。…資料は見たな?この事件は仮称「地獄をみせるもの」が引き起こしている。見つかる被害者の年齢や性別に規則性は見つかっていないが、全員が何らかの共通意識に基づいて動いていたことが分かっている」

「ええ。こちらの得た情報では、おそらくインターネットの匿名掲示板を利用していると」

「フッ。匿名掲示板こそ現代怪異の温床、ということだな」

 淡々と温度のない声がこの異常について明らかにしていく。

 それにしても、さすがプロ。クーデターさんもスレイヤーさんもすでにある程度の情報を掴んでいたのか。

 ゴクリ。思わず飲み込んだ喉が音を立てる。

「そうだ。ゆえにこれらは被害者たちの自主的行動の結果だとされてきた。被害者であり、加害者だと」

「違うということですか?」

「…一部違う、というべきか。被害者たちが匿名掲示板を利用していたのは彼ら自身の意思に違いない。だが」

「こうして怪異にかち合うように仕組んだやつがいるってことか。それも、たぶん暗示や誘導で、本人たちが自ら動くように」

 真剣な表情のミチカケ先輩とサカヅキさんが続けるように言葉を紡げば、深い肯定。

 それは、つまり。

「この事件は人為的怪異創造案件。それも北海道全域を使った大規模なもの。つまりクラスBの脅威と断定された」


 人為的怪異創造案件。

 人がわざと悪意をもって怪異を発生させた場合にのみ付けられる呼称。

 くねくねのような、多少の同士とコミュニケーションの一環的に作り話を騙るのとは違う。怪異を知ったうえで、悪意を持って行うこと。

 そして、怪異による被害が個人を越えて特定の地域や対象に向く際につけられる脅威ラベル

 それもBなんて、数年から数十年に1度の大規模災害級の想定。

 どちらか一方だけでも厄介なのに、どちらもだなんて。


「これは、ヤバいな…」

 初めて聞く、余裕のないサカヅキさんの声。

 背筋に冷たい汗が流れる。…僕にできる事はあるだろうか。



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