case.036「上陸対面スレイヤー、サン?」
「これまでのあらすじ」
「殺伐としたシティ・ネオキリにて悪を狩る悪としてひそかに暗躍していた俺様」
「悪ダイカン、クズリュ・ダイジンを討つべく襲いかかったはずが気が付けば平穏なる世界に飛ばされていた」
「帰る方法を探るべく、またこの世界で俺様を拾って匿ってくれた仲間に報いるべく、この世界の悪・怪異を狩るスレイヤーとなった」
「大きな悪・怪異を狩る為、志を同じくする他の組織との任務が始まる…」
本名はやめてと念押しされたのでプライドさんと呼ぶけれど、プライドさんが来訪されたのは事前の顔合わせや単純に興味といった理由が大きいらしかった。とはいえせっかく足を運ぶのだからと合わせて持参していた書類により正式に三社合同の怪異討伐作戦が締結。僕にとっては初となる同業他社との対怪異戦が幕を開けた。
いや、実際に作戦開始の正式な顔合わせには2日ほど早いのだけれども。普段拠点にしている場所から遠く離れた地の利のない場所ということもあって先んじて上陸。決して観光ではない。はずだ。
本業があって顔合わせ当日に合流するキサちゃんを除き、この作戦の要であり怪異の観測されている地、北海道に来たわけだけれど。
「さっむ…!」
気温自体は10度程あるみたいだけれど、風もあるし寒がりの僕にとっては普通に想定以上の寒さだ。
思わず身をすくめて腕をさする。
「まあ北国っていうくらいだしねー」
「でも秋でよかったです!冬はもっと寒くて雪がすごいらしいですし」
「北海道だしな」
「…」
「そうそう。俺たちにとっては涼しい程度だよな」
「さすが…」
僕ももっと鍛えて筋肉をつけるべきなんだろうか。だいぶん引き締まってきたもののまだ柔い腹筋に力を籠める。
「さて、お迎えってのはアレか」
せっかくなのでぜひ!とキサちゃんに激推しされ、ウラ道を使わずどころか逆に豪華なプライベートジェットに乗って空港に到着した僕たち。
滞在先であるクイーンホテル・ニセコに行くための送迎車を探してキョロキョロとあたりを見まわしてみれば、いかにもな黒塗りの高級車。
「…アレでしょうね」
「だねー」
「…」
とことこ近づけば、これまたスーツの似合う運転手さんがさっと出てきてドアを開ける。
「お待ちしておりました。どうぞ」
「ありがとうございます」
そして揺られるという表現も出来ない静かで快適な乗車を経てクイーンホテル・ニセコへ到着。また当たり前のようにそのままフロントを通り過ぎて上階へ。いっそすがすがしいほどに他の客が見当たらない。
…時間帯のせいだよな?まさか、貸し切りなんてことは…。ありそう。
ふかふかの絨毯が音を吸収してくれるおかげで足音もほとんどなく、時折聞こえるゆったりと心地よい音楽に耳が安らぐ。
「キーもらってきたぞ」
「あ、ありがとうございます。サカヅキさん」
「ミチカケちゃんとドールちゃんはこっち、俺とヒナタくんはあっちの部屋。キーは1人1枚、失くすなよ」
「はーい」
よかった。こんな高級ホテルで1人部屋なんて言われたら逆に委縮して眠れなさそうだ。
「そう言うと思って変えてもらっといた。正直、こっちとしてもある程度固まってる方が便利だしな」
「え?じゃあ、最初は1人1部屋だったんですか?」
「おう。こっちのがいいだろ?」
「はい」
「じゃあ荷物置いて、そうだな…1時間後に男部屋集合。そこで適当にこの後の流れを決めるか」
「はーい、さんせー」
「じゃ」
さっそく分かれて部屋へ。
慣れない長距離移動と言えど、移動手段がかなり快適だったので肉体的疲労はない。ないけれど…。
「ふう」
ぼふっと新雪に飛び込むように勢いよくダイブ。流石高級な寝具は包み込むように柔らかい。
「ん、ちょっと仮眠しとけ。時間には起こしてやるよ」
「ふあい…」
精神的な疲れもあって、僕はそのまま体ごと意識を沈めた。
そして顔合わせ当日。
とっても頼れる僕らのメンバー兼スポンサーであるところのキサちゃんが提供してくれた北海道はニセコにあるクイーンホテルの高級ラウンジにて。
「緊張してきた…」
「私もです…」
「大丈夫大丈夫」
「うう…」
顔を少し青くして胃の辺りを押さえる僕に、少し表情の硬いキサちゃん。
サカヅキさんはいつも通りにさわやかな笑みを笑みを浮かべて言うけれど、さすがにそうすぐ楽観的にはいられないのが僕というか僕たちというか。
外気温の届かないホテルの中で、それでも冷たい手を握りしめる。
「よーしよーし。そう気負わなくって大丈夫だよー。ミチカケちゃんに任せなさーい」
「ミチカケ先輩…!」
「チカ先輩、かっこいい…!」
「あれ?俺は?」
ぽんと頭にのせられたやわらかな熱。まるで熱が引くようにすうっと不安が消えていく。
そうだ、僕たちにはミチカケ先輩がいる。ドールちゃん先輩も。
「…」
まん丸真っ黒な瞳に緊張が吸い取られて行って、小さく頷くドールちゃん先輩に頷き返す。
「…い、行けます…!」
「おっけー。じゃ、行こっか」
ふかふかの絨毯を踏みしめて重厚な扉へ。
事務所の代表であるサカヅキさんが開けばその中には…。
「あ」
真っ黒な着流しに同じく真っ黒な鞘が左右に2本。まるで歴戦の猛犬のような鋭い目は長い前髪で片方が隠れ、大きく跳ねた黒髪が背で暴れている。
無言のまま音もなく近寄ってきたかと思えば、隠れた右目を髪の上から触れるように謎のポーズ。
なんだろう。この絶妙な角度の立ち方と手は。
「こ、こんにちは。はじめまして。あの…」
「これまでのあらすじ」
「え」
こちらを鋭く射抜いたかと思いきや、黒く彩られた唇が開き突然始まる異様なモノローグ。
低いような高いような不思議な声で滔々と語られるそれについていけず、思わずサカヅキさんを仰ぎ見ればいつもとは違う貼り付けたような微笑み。その目ははるか遠くを見ている。
…ええとたしか、青き血のメンバー。特にプライドさんのような特位の人は全部で5人いるんだっけ。
全身目の覚めるような青き淑女プライド、白衣の自称天才科学者ポイズン、時代錯誤な全身甲冑の騎士クーデター、同じく時代錯誤な着流し二刀流のスレイヤー、そして着ぐるみのアダルト。
見るからにこの独特マンが着流し二刀流のスレイヤーさんだろう。
つまり。
「……すーっ」
なんか、いろんな言葉を飲み込んでこれだけ言うけれど。
「癖つっよ」
…これ、あと3人いるってマジ?




