case.035「三社合同プロローグ」
詳しく聞くところによると、どうやらうちと同じように対怪異を専門とする会社の人ということらしかった。黒スーツの人達も同じく。
青き血、という事務所?の一員。特に青いドレスの女性の言う、特位?プライド?というのはそこでの通称的なものだとか。
癖強いって、本当に。
「ようはなりきり系のグループなんだよ。青き血は」
サカヅキさんは呆れたようにそう言った。
「はあ」
コスプレ、とかそういう話なんだろうか。
まあ正直ここで急にファンタジー要素出されても困るし。
「あら、失礼ね。わたくしたちは心から、そして魂からこうでしてよ」
「嘘つけ。お前の本名あけみだろ。井野上あけ美37歳」
ブチッと何かの切れる音、そしてゴングの鳴り響く音を聞いた気がする。
背後に禍々しいオーラをまとってヒートアップする2人。
「いちいちそうやって人の世界観に口出しして、本当にロマンのない男ね。黙って下さる?」
「ああん?お前が年甲斐もなく、」
「ボス」
「…なんだよ」
「それ以上は駄目ですよ。それに、人の生き方を否定する権利なんて誰にもないです」
「……そう、だな」
「じゃあ、わかりますよね」
「………わ、」
悪かった。ぼそっと呟いて、それで終了。
やれやれ、手のかかる人だ。
「まったくもう。段々子どもっぽくなってませんか?…すみません、プライドさん」
人に図太くなったという割に自分は子どもっぽい態度になってきていないか?サカヅキさん。
知り合いで付き合いが長いが故の恒例のやり取りといった様子だけれど、それはそれこれはこれ。仕方ないので代わりに謝罪しておく。
「…い」
「はい?」
「いいわ!とっても素敵ね、あなた!」
「え」
「あーあ。始まった」
「え、なん」
「長いぜー、これは」
「お茶淹れて来まーす」
「…」
そそくさと離れていく先輩たち。
サカヅキさんも耳に両手を当てて、無関係ポーズ。
「パッと見た感じはいかにも芋っぽいジャージ姿だし髪も地毛で伸ばしっぱなしどう見てもわたくしの求めるラインには到達していない石ころかと思ったけれどこれは磨く前の原石なのねわたくしとしたことがついうっかり見逃してしまうところだったわ野暮ったい吊るしのジャージと言えど体は引き締まっているようだしこれはきちんと一度測っておくべきねいいわいいわよその黒髪もすこし整えて流せばもっと素敵に違いないわ童顔の紳士いえここは男の娘にすべきかしらああん燃えてきたわ俄然やる気になったわたくし決めたわこの子いただいて帰るから…っ!!!」
な、なにごと…?!
突然の呪文、のような怒涛の長台詞に呆気にとられる。
え、なんて言ってた?全然聞き取れなかったんですが…。
「やらねーし、帰れ」
「いやよ」
「帰れ」
「お断り」
「かえ」
「もういいですって!」
まったく懲りないな。
もしかしてこの2人ってめちゃくちゃ仲いいのでは?僕は訝しんだ。
「というか話が進まないじゃないですか。結局、プライドさんたちはどうしてここへ?」
割って入れば、きょとんとした顔。そして目を合わせ、言ってないの?まだ言ってなかったわ。という無言のやり取り。
「…あー、近々デカい案件があってな。うちは少数精鋭だしこれまではローテで上手く回してたんだが、まあキサちゃんもついたし巻き込まれ体質も入ったし。一回全員参加するかってな」
「はあ。デカい案件、ですか。それってつまり、怪異の?」
っていうかいま、巻き込まれ体質って書いてヒナタくんって読まなかったか?このボスは…。
「青き血はわたくしの他に特位が4人。他は黒子なの」
「白衣の自称天才科学者ポイズン、時代錯誤な全身甲冑の騎士クーデター、同じく時代錯誤な着流し二刀流のスレイヤー、着ぐるみのアダルト。だっけ」
「そのまとめ方には異論もあるけれど概ね的確だから今回は許してあげるわ」
「はいはい、どーも」
「ポイズン、クーデター、スレイヤー、アダルト…」
また癖の強そうな予感が、というか。
「皆さんは黒子でいいんですか?」
「はっ。我々は特位の皆様方の手足ですので」
「あ、はい」
ザッとまた足を踏み鳴らして声をそろえる。
なりきり。つまりこの人たちもこういうキャラを好きでしてるんだなあ。と思うとなんだか味わい深いものがあるようなないような。
「お茶でーす」
「あら、ありがとうレディ」
「いーえ。はい、のどかちゃん。社長も」
「ありがとうございます」
圧を感じながらソファにつく。
お茶をいただきつつ、デカい案件について掘り下げてみる。全員参加らしいし、いかにも重要そうだし。
「それで、デカい案件っていうのは一体どういう…」
「そうだな。ミチカケちゃん、頼める?」
「はーい」
「怪異は人の認知に深く左右されるって、のどかちゃんはもう知ってるよねー?」
「はい」
「集団認知。より多くの人が同じものを怖いと思うこと、あるいは信じること。それが怪異の厄介さを変えるわけでー」
「はい。くねくねや天使様、ですよね」
「あるいは島や台風なんかの湧きもそうだねー。でもさー、最近なんだか不自然に落ち着いてるよねー」
「たしかに。…SNSやネットの普及に伴って増加傾向にある、はずですよね?」
「そー。だからおかしいんだよねー。で、そう言うときって専門の機関が探りを入れてくれて、わかり次第対応していくんだけどー」
「組織だった犯行だったり、規模が大きい場合は人手がいるってことですね」
「そういうことー!さっすがのどかちゃん、察しがいいー」
要は一般的な犯罪と同じだ。
そして対応に人手がいるなら組織の垣根を超えた合同捜査、つまりは対策本部を設置するというわけか。
「今回は北海道を拠点に全域。北海道って広いからさ、いくらうちのメンバーが超精鋭でもカバーしきれないでしょ?だから数だけは多い青き血と組むんだよ」
「そちらが少数精鋭なのは認めますけれど、数だけとは聞き捨てなりませんわ。それに、あそこを忘れていてよ」
「あー、そうだった」
「まだどこか他の会社と一緒なんですか?」
「うん、まあ…」
めずらしく、嫌そうな顔を隠さないサカヅキさん。
いったいどんな人たちが…。




