case.034「鮮烈登場プライドブルー」
うちのボスことサカヅキさんは結構人使いが荒い。
ので、すっかり秋めいてきた今日この頃。正式に事務所のメンバーとなった僕はこき使われる日々なのである。
「人聞き悪いな」
「事実じゃないですか」
「お。言うようになったじゃん、ヒナタくん」
「はは、まあこんだけ濃い日々を過ごしてたらね。そうもなりますよ。図太くないと生きてけないんで」
「かわいくねー。俺んちに住んでるくせに」
「いやあれボス名義なだけの社宅じゃないですか!そっちの方が人聞き悪いですよ!」
なんてことを言うんだこの人は。
移籍の書類を確認しに久々に自宅に戻った僕は今更ながらほぼ住んでない家の通勤にかかる距離やら何やらもろもろを鑑みて事務所近辺に引っ越しをしようと相談したのだけれど、じゃあこのまま住めばいいじゃん。という一言であれやこれやと言わないうちに間借りしていたサカヅキさんの家に転がり込むことになった。
といっても、本人のプライベートスペースたる家は以前知った通りに別にあって、間借りしていた部屋はサカヅキさん名義で借りているものの実際には有事の際に貸し出す用のほぼ社宅。
いざ使うときのために定期的な掃除や風通しなど管理がいちいち面倒という事情もあり、そのまま僕が借り続けることになったのだった。
「ありがたいですけどね!近くて広くてきれいで、しかもしばらく借りてたおかげで慣れてましたし!家賃ほぼかかんないし!」
やけくそ気味に言いながらデスクに荷物を下ろす。
正式加入に伴って事務所内に僕のデスクを用意してもらったのだ。自分用の記録をつけるにも事務作業をするのにも、デスクはあった方が便利なので。というか、これまであのローテーブルで作業してたのが驚きというか、ミチカケ先輩たちは不便じゃなかったんだろうか。
「まったく」
椅子に座って一息。
事務所にはサカヅキさん以外に誰もいない。ミチカケ先輩は昨日から別件対応で出ているし、ドールちゃん先輩の動きは不明。
「で。今日はなにからすればいいんです?あんまり無茶なやつは勘弁して下さいよ」
「はっはー!元気だねえ、その調子なら大丈夫そうかな」
「?」
大丈夫そう、とは?
「なにを、」
言葉の真意を問いただそうと口を開いたとき、バーンと大きな音を立てて入口のドアが開く。
飛び上がりかけた体をおさめて見に行けば何やら真っ黒なスーツの集団。
「え、え、え」
当たり前みたいにガツガツ歩いてきて事務所がいっぱいに。黒スーツたちがザッと革靴の音を立てながら左右に分かれて道をつくる。そこを悠々と泳ぐ鮮烈な青。
「ごきげんよう。会いたかったわよ、ダーリン」
「おう。よく来たな、まあ座れよ」
いや温度差…!
真っ青なドレスがまるで人魚のようにひらひらと揺れている。星の瞬きのように黄色交じりの青い巻き毛、大きなつばの青色帽。
まるで映画やドラマのワンシーンから飛び出てきたようなどえらい美女が親し気にサカヅキさんへ笑いかける。
「どっ、え、は、なん…?!」
だだだ、ダーリンって!ダーリンって!!
「落ち着け、ヒナタくん」
「落ち着けません!?」
「えい」
「ん?!」
突然の情報過多にショートして大混乱する僕。サカヅキさんが声をかけてくれるけれど当事者のそんな軽い言葉に落ち着けるならこんなに驚いたりはしない、というもっともすぎる反論の前にやわらかな熱が目元を覆う。
この感触は。
「どーどー。いまからちゃんと説明するからさー」
「ミチカケ先輩…」
どうやらミチカケ先輩の手が僕の目を覆い隠しているようだった。…目隠しで落ち着くって、鳥か?僕は。
見知った人の声と温度に安堵。あれ、ミチカケ先輩って僕より背が低かったような…。
興奮状態から醒めた僕を見てぱっと手を離す。振り向く。
「わ」
そこにいたのはミチカケ先輩。なのだけれど。
「めちゃくちゃ可愛いです!お姫様みたいです!似合いますね!あ、でも、もちろんいつものジャージメイドも似合ってます!」
違う意味でまたテンションが乱れてしまった。
広がったのはピンク色のドレス。僕は服に詳しくはないので分からないけれど、レースとかいろいろふわふわした飾りがついていて豪華だし、本当に似合っている。あ、ヒールで背が高くなっているのか。
いつもは真っすぐおろしている髪もなんだかくるくるしてふわふわで、頭に載った王冠みたいな飾りも相まって本当にお姫様みたいだ…!
「…褒めすぎ」
「え」
「ヒナタくーん、声。めっちゃ声に出てるよ」
「っす、すみません…」
ぷいっと顔をそむけたミチカケ先輩に思わず謝る。と、背につんと小さな刺激。
「…」
振り向くとドールちゃん先輩。
心なしかドヤ顔をしているような、胸を張っているような。
「?」
「…」
じいっと黒い瞳に見つめられる。なんだか吸い込まれそうだ。
何かを求められている?うーん。
「あ。もしかしてドールちゃん先輩もそれ新しい衣装ですか?よくみるといつもより服の素材が違う…?なんだか艶々してるような…」
「…」
「はい!めちゃくちゃ可愛いです!似合ってます!」
「…」
正解だったらしい。
頭を高速なでなでされながら、ほっと内心胸をなでおろす。
「にしても、どうされたんですか?それにあの方たちは一体…」
「んん、えっとねー」
「それはわたくしから」
説明しようとするミチカケ先輩を遮って、青く濡れた声。
「はじめましてダーリン。運命の人」
「わたくしは青き血の特位、プライドの名を戴くもの」
「仲良くしてくださいね」




