case.033「事後加入リスタート」
お風呂に入り充分以上に温まった後、事務所に戻って報告。
たっぷり間を開けたあと、
「なーんもわからん」
という結果だけが返ってきた。
「でも、ヒナタくんが巻き込まれ体質なのはやっぱ確定だな。つーかトラブル吸引器?稀な状況を引き当てるとも言えるけど…」
「ババ抜きなら初手でジョーカー引くタイプだねー。おみくじなら大凶?」
「…」
「ドールちゃん先輩までぇ…」
3人とも揃って同じ結果を突きつけてくるものだから、流石の僕もがっくりと肩を落とす。いや、わかっていましたけど?
「はあ」
ああ、僕のこの体質ってやつはどうにかして変えられないのだろうか。なんて意味のないことを考えてしまう。まずもって理由すらわからないものをどう変えるんだって話。
対怪異のプロが分からないんならどうしようもない訳で。
落ち込む僕に追い打ちをかけるがごとく、サカヅキさんは言った。
「…つまり」
「ヒナタくんはめちゃくちゃ鍛えて鍛えて鍛えて、場数踏んで経験値貯めてレベルアップするしかないわけだ」
「ですよね~」
乾いた笑いがこみあげる。
そして落ちた肩にぽんと手が乗って。
「まーまー。あんまり気を落とさずに、だよー」
「ミチカケ先輩」
「これからもよろしくー、のどかちゃん」
「?はあ」
そりゃまあもちろん、僕は出向中の身なわけだし当然では?という顔をしていたのか、サカヅキさんが軽い調子でサラッと告げる。
それは僕の進退を決める重要なはずの言葉。
「あ。それ。言い忘れてたっけ。…ヒナタくん、こないだ引き抜きしといたから」
「え」
あんまりにも普通にいうものだから音だけが耳をすり抜けて、意味がこぼれ落ちて床を這う。
引き抜き、ってなんだっけ。
「引き抜きっていうか移籍?もう正式にうちの社員だよ。あれ?会社からは通知とか来てなかった?」
「いや、そもそも家にほぼ帰ってないですし」
「あー、そうだった」
というか。
「え!?僕、いつの間にか所属の会社変わってるんですか?!なんで?!いつ?!」
「んー、昨日?いや、今日か」
「はあ!?」
詳しくところによると、僕の移籍に関しては最初の案件であるくねくね討伐から帰った時点で決めていたとのこと。
「え、でも、お金…」
僕はそもそも命を救われた対価である所の五十万円が用意できないから働きで返すって話で出向していたんじゃなかったっけ。
いや明確にそう言われた訳ではないけれど流れ的には働いて返す的な…。
「そんなのすぐにチャラになったって。ここ、危険手当デカいから」
「なるほど…」
それもそうか。身一つで立ち向かうわけだし。
って、僕普通に納得しちゃってるけどそれでいいんだろうか。
「いい、いい。それに多分、口座見たらびっくりするよ。服とかは必要経費だし、うち色々手当とか手厚い方だしな」
「おお…!」
「こっちこそ、ヒナタくんと出会えたのはラッキーだった」
それは素直に嬉しい。お金の余裕は心の余裕な訳だし。
まだ見ぬ預金残高に胸を躍らせていると、サカヅキさんはふっと笑ってもっと嬉しい言葉を降らせてくる。まったく、これだから心を読まれても不気味だとか嫌いだとか思えないんだよなあ。
「ヒナタくん、ミチカケちゃんとも相性いいみたいだし真面目でちゃんと取り組むし。怪異に襲われてもこっちを攻撃したり過剰におびえたりしないからさ」
「…」
「そうだね。ドールちゃんとも、俺とも相性いいよ」
「ど、どうも…」
本当に嬉しい。嬉しいけれど、やっぱり少し複雑だ。
いや、移籍はむしろ願ったり叶ったりな訳だけれど。でも流石に事前に意思確認のフェーズは欲しかったっていうか。段階は踏んで欲しいっていうか。
うちに正式に移籍しないか?もちろん喜んで!という、出来レース的な結果の決まったやりとりをして見たかった気持ちが…!
「はは、喜んでくれて何より」
「いやそこ以外にもありますよね?!」
まったく。
「じゃあ、もう僕はちゃんとこの事務所の一員ってことなんですね」
「そうそう」
ふう、と息をつく。
呆れたようなフリをしながら、内心、じわじわ事実が身にしみてきて胸がいっぱいになる。
熱くなる顔を誤魔化すように背けると、ミチカケ先輩とドールちゃん先輩が何やら盛り上がっている。
「わーい。お祝いだねー」
「…」
「うんうん、ですねー。改めて入社おめでとうパーティーしましょー!とっておきの茶葉開けちゃいます!」
「…」
「ドールちゃん先輩のスペシャルケーキ!?やったー!」
なにそれ気になる。
まあ何はともあれ望まれて移籍、こうしてはっきりと声や態度で受け入れてもらって感無量だ。
けしてスペシャルケーキととっておきの紅茶に釣られているわけじゃない。何をおいても絶対食べたいけど!
「じゃ、歓迎パーティーの日取りは改めて考えるとして」
そう言っておもむろに立ち上がるサカヅキさん、いや、もうボスと呼ぶべきだろうか。
金の髪が光に透ける。
「日向のどかくん」
西日を背に、表情は隠れて見えない。けれどその目元が、口元が、柔く弧を描いていることは見えなくても感じ取れた。
大きな手が差し出される。
「ようこそ。そして、これからもよろしく」
僕も立ち上がる。だらしなく緩んでしまいそうな顔に力を入れて、精一杯に表情を取り繕う。
差し出されたその手をしっかりと握り返す。
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
黄金色に輝く空間に明るい声が弾けた。




