case.028「誘引招待プレイルーム」
「今日は遠征に行きます」
「あっ、はい」
というわけで。
「…来ました、島」
絶海の孤島。
それだけでもうめちゃくちゃに怪しいのに、こうして連れてこられたってことは絶対出るじゃん。
「そーんな暗い顔しないのー」
「…はあい」
「んふ、のどかちゃん子どもみたい」
「どうも」
「あっははは!」
某県某島。
船に乗って波に揺られて、ということは一切なく。うちの事務所にいる便利ワープ装置ことシロモのもけもけ怪異パワーによって一歩でたどり着いた今回の目的地。
「遠征って、移動含めてのものじゃないんですか…?」
「でも、うちにはシロモいるし現場にはウラ道通るしー。こんなものじゃない?」
む。
もちろんそう言われればそうだし、時間は有限なわけだからショートカットできるに越したことはないんだろうけれど…。
「ま、そんなことはいーじゃん。ほら、着いたよー」
「ええ…」
指さす先、どう見ても今は使われていないなんらかの施設。
あ、公民館って書いてある。
「のどかちゃんの想像してる通り、こういういかにもな場所は重なりやすいわけ。で、ここはさらに今はもう使われていない公共施設なわけだからー、ま、出るよねー」
「出るよねーって、そんな、簡単に…」
「詳しく言うなら、そういう認識をここに集めることでより重なりやすくなるように手を入れてあるんだよー。だからここはうちがいくつか管理してるうちの一つ、定期的にモンスターのポップするスポット。人口ダンジョン的なー?」
いいのかな。怪異ってそういう使い方しても。
なんて僕が考えても仕方ないので、指示通りに行動するしかない。さっさと武器棒を伸ばして棘をつけ、準備完了。
「本当にちょこちょこ手を入れているし、いまののどかちゃんなら大丈夫。危なくなったら助けてあげるー。あ、ピアス」
「え」
「それ着けてたら特訓にならないでしょー?大丈夫大丈夫、ミチカケちゃんを信じなさーい」
「はい…」
命綱ならぬ認識逸らしのピアスを外す。これがないってことは、怪異は最初から僕に向かってくるってことだ。
あー、気が重い。
「じゃ、いってらっしゃーい」
パタンと扉の閉まる音。
日中の明るさも閉ざされた空間には関係ない。薄く漂う不気味な寒気を感じながら重い足を引いて、確定演出に手をかけた。
「っふう」
案外いけるかも。
なんてフラグバリバリの感想を抱きつつ一歩後退して額に流れる汗を拭う。
「時間、どのくらい経った…?」
棒を両手で竹刀のように握り視覚ではなく感覚で動く。姿のない怪異もどきを相手にするなら、こちらも目に頼っていてはいけない。
トレーニングの成果か、最初の頃よりずっと息も上がりにくくなっているのを実感する。軽く息を整えながら周囲を見回す。一旦落ち着いた、か?
「…?」
何かが横切ったように感じてとっさに奥を見る。荒れた広間の奥にちいさな扉。
「…」
大人が通るには小さい。
何かの保管場所か、それとも点検用の何か?
すこし疑問に思いつつ、とはいえここも確認しておくべきかと息を吐く。ドアノブに手を伸ばして。
「え」
握るはずの手が沈む。
とっさに手を引こうと力を入れるも、反発するようにものすごい力で引きこまれる。踏ん張った足が空に浮いて、僕はそのまま扉へ吸い込まれていった。
「いってて…」
投げ出されたことでぶつけた手足が鈍く痛む。体を起こしてみると、そこはまるで絵本の中のような世界だった。
「…は?」
まっしろな空間に、クレヨンで塗ったような床。壁。
「…」
そっと色のない白に手を伸ばすけれど、なににも触れた感触がない。
「色のないところは危険、かな」
さり、と触れたクレヨンの床はしっかりと固く、色の塗られた部分なら歩いても大丈夫そうだ。コツコツと靴先を打ち付けてみても崩れたりする気配はない。
「さて、どうするか」
流石にこれはミチカケ先輩にも予想外だろう。こんな空間があるなら言ってくれている、はずだ。たぶん。流石に教えてくれますよね?信じてますよ先輩。
それに。
「…あー、嫌。本当に嫌だ」
少し先の道に見える、倒れこんだ人影。その上にたかるようにうごめくもや。
ぐっと腹に力を入れて駆けだした。
「子ども…」
くったりと倒れこんでいたのは、おそらく小学生くらいの子どもだった。怪異もどきにすらなっていなかったのか、ひと払いで散ったもや。恐る恐る子どもに近づく。
怪異関係で見ず知らずの子どもって、僕、すごい嫌なんだよなあ。
脳裏に浮かぶのは、黄昏時の子ども怪異に怪異学校の影子ども。正直、この子が本物の人間かどうかもまず疑っていきたいところ。だけど。流石に見捨ててはいけない。
「あー、もう!くそ!」
意識のない力の抜けた体は背負いにくく、そも子どもと言ってもそれなりの重さもある。決して体格がいいわけでもない僕ではこの条件下で長時間の移動は出来ない。
この先にどうにか休めそうな場所や、あるいはこの子が目覚めることを期待して足早に歩き出す。
ちぐはぐなお絵描きの世界。握りしめた棒だけが頼りだった。




