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「お電話ありがとうございます!こちら、怪異討伐・派遣サービスです!」  作者: みよし たもつ|転換期
出向編

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case.027「円満ニューフェイス」


 消毒液のツンと刺すにおい。念のために巻かれた白い包帯。レモンの匂いの特別なスプレーは今日は出番なし。


 外傷、人差し指の先、紙ですっぱり、推定5ミリ。


「……かすり傷なんですけどお」


 不服そうな横顔。ミルクティーが揺れる。


「でもー、キサちゃんはうちのお姫様だからねー」

「ですね。木佐木さんは仲間でスポンサー様な訳ですし」

「もう! 日向先輩呼び捨てでいいですよ〜。私、後輩ですし! というか、年も私の方が下……ですよね?」


 あれ? と首を傾げる。


 …まあ、実際童顔なのは認めるけれども。流石に新卒入社の子に疑われるのはショックだ。いや、言っても一つの差だし、正直社会に出たら誤差みたいなものではあるけど。


 釈然としない思いで頷けば、サカヅキさんがデスクの向こうでプッと吹き出す。じっとり抗議の視線を投げつけてから誤魔化すようにカップを持ち上げた。美味しい。


「あ、じゃあ。私、先輩のことのどか先輩って呼びますから、のどか先輩も名前でお願いします! チカ先輩みたいにあだ名でキサちゃんって呼んでくれてもいいですよ〜」


 ハードルたっか。


「い、いや……」


 思わず尻込みする僕にミチカケ先輩が無言で脇腹をつつく。


 先輩命令。白旗降参。


「……じゃあ、えー、キサちゃんで」

「はいっ!」


 流石に下の名前は、ということで先輩と同じあだ名に。木佐木さん、あらため、キサちゃんから元気よく返事が返ってくる。


 まったく、平和すぎる日常だ。




 新しく事務所に仲間入り兼スポンサーとして名を連ねることになった彼女だが、当然本業があるので普段はここには来ない。


 はずなのだけれど。


「こんにちはー! 今日も来ちゃいました〜!」


 彼女、キサちゃんはかなり合間を縫ってはちょこちょこと顔を出しているのだった。


 朝、出勤前に差し入れ。

 昼、ランチついでに顔出し。

 夕、退勤後に雑談。


 とりあえず事務所にはサカヅキさんメインに誰かしらいるので、いまのところ誰もいなくて帰る羽目になったという事態にはなっていないらしいけれど。


「キサちゃんさー」

「はい?」

「暇なの?」


 とうとうミチカケ先輩が切り込んだ。


「ほとんど毎日手土産持参で来てるしさー。いや、いいんだよ? うちに来るのは。そのまま正式に移籍でも歓迎だしー」

「えと」

「でもさーせっかく入ったんでしょ? いまの会社。こっちにばっか力入れて大変じゃないのー?」

「う……」

「ミチカケちゃんがそっちの会社の先輩だったら、ちょっと寂しいかもなー。っていうか、心配? ランチ時、ずっとこっちだし。仕事終わったらすぐ来るし」

「……」


 図星を疲れてしおしおとしなっていくキサちゃん。


 財力にものを言わせて、すこし距離のある職場から毎昼タクシーで通っているのだから当然だけれど。とはいえ。


「ま、まあまあ! 僕は気持ちわかりますよ」

「のどか先輩」


 思い出す。僕の世界が一変した夜のこと。知ってしまった。だったら。


 なんて、思わず割って入ってしまった。


「僕はえっと、サカヅキさんの力で元の会社から出向ってことになってるからこうしてずっといても当然なわけですけれど……」


 あ。

 そういえば僕の出向の原因であろう五十万円の件はいまどうなってるんだろうか。


「それについては後でね」

「へ」



「キサちゃん。君が望むなら君もここに来る?手段は俺がなんとかしてあげられるし」

「あ、でも……」

「そう。キサちゃんはそこでしたい事があるんだもんな。じゃあ、大切の比率は変えた方がいい。な」


 サカヅキさんの言葉には有無を言わせぬ圧があって、すべて見透かされているみたいだった。


 その眼差しはいまは彼女にだけ向けられているはずなのに、そのまま僕も一緒に串刺しにされた気分。


「……少し、考えます」

「うん」

「編集も好きなんです。入りたくて入った会社で、あっちの先輩も優しくて。でも、ここも、短い付き合いだけどすごく大切で」

「うん」

「ちゃんと比率を正せたら、また、来てもいいですか……?」

「もちろん」


 ふっと唇だけで笑って、それで完結した。


「じゃ、この話はおしまーい」




「そういえばねー。今日はキサちゃんに渡したいものがあったんだー」


 ちょっと待ってね、とごそごそカバンに手を入れて探し始めたミチカケ先輩が、そっと握りこぶしを突き出した。


 思わず受け取るように手のひらを差し出して、はてな、疑問を飛ばしている。おもわずそれを覗き込む。


「…サイコロ?」

「きれいです、ね?」


 手のひらに載っているのは、すこし青みがかったクリアなサイコロ。


「おもちゃ?」

「いや、急におもちゃ渡さないだろ」

「特殊アイテムだよー、いつものやーつ」

「ああ」

「いつも?」


 対怪異用のアイテム。


 しかしサイコロとは。イヤーカフやピアス以上に用途不明というか、どう使うんだ?


「それは簡単に言えば、道を示すためのアイテムだ」

「道を……」

「そー。ここに来る前に転がして、マークによってここの簡単な状況わかるから」


 シンプルに6面。数字ではなく絵柄が書いてある。

 星、月、無限、雫、円、そして何もない面。


「これにマークの意味書いてあるから、家帰って読みな」

「だからって気を使わなくってもいいからねー。ミチカケちゃんは可愛い後輩大歓迎だからー」

「はい! ありがとうございます!」


 そういって大切そうに握りしめてキサちゃんは笑った。


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