case.025「円満解決アフターフォロー」
「あの、ありがとうございました」
「いえ。仕事ですので」
怪異「天使を騙るもの」を討伐し、スマホの落とし主であり電話口の女性、木佐木さんを救出することに成功した。
といっても、彼女はすでに天使によって軽傷をおって昏倒しており、その救出には少々傷がついてしまったのだけれど。
「あの、それでお支払いの件なんですけれど…」
「ええ。ですが今回は緊急時で同意をいただく前にこちらが動いてしまったわけですから…」
「あ、いえ、お支払いはします。ええと、五十万円ですよね。大丈夫です。すぐご用意します」
すごいな。貯金とか、しっかりしている人なんだろうか。たしかにこの短時間でもわかるくらい姿勢とか振る舞いがきれいな人だし。
それに比べて僕って…。
勝手にダメージを受ける僕をよそに、営業モードのミチカケ先輩と木佐木さんはするする話を進めていく。
「そうでしたか。かしこまりました。お振込みをご希望でしょうか?」
「いえ。よろしければ直接お持ちさせていただきたいです…!あの、可能でしょうか?」
「では、こちらお渡ししておきますね」
「!ありがとうございます。あの、合わせて大変恐縮なのですが…明日お伺いしてもよろしいでしょうか…?」
「もちろん。お待ちしております」
「ありがとうございます!では…」
「ええ、また」
ぺこぺこと頭を下げ、恐縮しきりといった様子で木佐木さんは去っていった。
「…今どき珍しい感じにきっちりしたお嬢さんだったねー」
「はい。それに、こんな目にあってお金を請求されて、こっちを責めたりもしませんでしたし」
いやまったく。
化け物に襲われただけでも混乱することなのに、見ず知らずのジャージ姿の2人組から金銭さえ要求されるんだ。詐欺や恐喝を疑われるのも、拒否や罵倒を受けるのも覚悟していたのに。正直、そのケースの想定もあってミチカケ先輩も伺い気味だったのだろうし。
と思っていたら、ミチカケ先輩は案外そうでもなさそうに言った。
「んー。それはまあ、心当たりがあったからなんじゃない?悪いことしちゃったな、みたいなー」
「心当たり?」
「そー。…天使様にお願いしちゃった、とか」
「!」
なるほど。そう言われればそうだ。
自分に非があることを少なからず自負していれば、頭ごなしに否定も出来ない。そういうことだろうか。
「でも、それ以上に彼女の性格や気質が大きいんだろうけどねー。たぶん、いいとこのお嬢さんだろーし」
「え、そんなのわかるんですか?」
「まーね。仕草とか言葉遣いとか、たぶん実家は太いとみたね」
「へえ~」
ミチカケ先輩はやっぱり視点が違うなあ。勉強になる。
それから事務所に帰還して報告。
ミチカケ先輩が言った通り、木佐木さんはどうやら上流階級のお嬢さんらしいことがサカヅキさんの口から語られることになった。
「なるほどなるほど。木佐木さん、ね。それは間違いなくいいところのお嬢さん、だな。それもほぼ間違いなく、クイーンホテルのオーナー一族」
「え」
クイーンホテルって、あの?!
「そうそう。あのクイーンホテル。キサキでお嬢さんで50万を即金、まあ間違いないな」
「はあ~」
「明日か~。…ちょっとやることあるから、俺もうあがるから。みんなも今日はここまででいいよ」
お疲れ~、と軽く言ってサカヅキさんはさっさと出て行ってしまう。それを呆気にとられつつ見送ってぽつり。
うーん、時間が早いんだよなあ。
現在時刻、昼13時すぎ。昼食兼報告会が終わったばかりでまだまだ日も高い。
「…どうします?ミチカケ先輩」
「まあ解散でいーんじゃない?お疲れー」
「あ、はい。お疲れ様です…」
…ドールちゃん先輩もいつの間にかいないし、当たり前のようにミチカケ先輩も帰ってしまった。
「僕も帰るか」
せっかくだし、ちょっと買い物でもして帰ろうかな。
そして翌日。
来客の予定ありということで珍しく全員が事務所に揃った状態。
「なんか、サカヅキさん今日…」
「気合入ってますよねー、露骨に」
「…」
「え、そう?」
めちゃくちゃバチバチにキメてきてる…!
いつもより艶を増して見える金髪は後ろに撫でつけられているし、明らかに吊るしじゃないスーツが体のラインをきれいに見せている。
「…いや、かっこいいです。本当に」
「お、ありがとう」
本当にルックスいいんだよなあ。この人。
「というか、僕ももっとそれっぽい格好の方が良かったでしょうか…。せめてスーツとか」
「ミチカケちゃんはこれが正装ですけどー?」
「あ、いえ!僕たちの仕事内容的にはジャージが正装なのは間違いないでしょうし…!」
「…」
「あっはは!そうそう、ドールちゃんの言う通り。2人はそれでいいんだから、ヒナタくん気にしすぎだって」
「そ、そうですかね」
内容的にはたしかにというか。でも内情的には、ばっちりキメたスーツのイケメンと高級なアンティークドールとジャージメイドと僕。
…やっぱバランス悪くないか?ああ、昨日の時点でもっと良く考えておくべくだった…!
そんな後悔でぐるぐる頭を悩ませていたとき、コツコツと響いてくる足音がひとつ。
ミチカケ先輩がそっとキッチンへと消え、サカヅキさんが立ち上がる。僕もつられて立ち、ドールちゃん先輩はいつも通りソファに。
足音が止まる。




