case.024「表層剥奪エンジェルブレイク」
前述した通り、天使様のイメージには大まかな共通点がある。
美しい容姿、白い翼。
それは翻って言えば、それ以外の詳細はあやふやで個人差があり、その姿には差異があるってことだ。
「これ、天使ではなくないですか!?」
「天使様って呼称なだけで怪異だからねー」
「いやいやいや!」
恒例の全力ダッシュ。
背後からびゅんびゅん飛んでくる陶器製の小さな天使を避けつつ、般若というにも足りないものすごい形相の翼をもつ化け物。
「まじで化け物ですよ!イタッ!」
避け損ねた天使が腕に当たって跳ね飛ばされる。
当たったところ、あとで絶対にあざになる…!
「大丈夫?のどかちゃん」
「っはい!」
痛いけれど!
だってこれ小さいって言っても普通に庭とか玄関先に置く程度のオブジェだし!?しかも陶器性だから硬い。
「飛んでるのは大したことないやつだけどー、破片で切っちゃうと危ないから頑張ってガードしてねー。そっち少な目だから、気合いで」
「…はい!」
たしかに、ピアスのおかげもあってか僕の方に飛んでくる天使はミチカケ先輩に比べて圧倒的に少ない。
意識を逸らす、というのは本当に効果があるんだなあ。
「…うーん、ちょっとキリないかー」
「な、にがです、か?」
「のどかちゃーん」
「そこ曲がったら勢いよくしゃがんで」
耳を擽った囁きに反射でザっと頭を抱えてうずくまる。
スピードのせいでちょっとこけそうになったのを腹筋と足の指に力を籠めることで何とか踏ん張って回避。
「っぶね、」
ミチカケ先輩は?
「よーい、しょ」
カシャンカシャン、パリン!
続けざまに粉砕音、ブンッと空気を切って長物が振り回される音。
思わずポーチに手をやるも、あるはずの硬さがない。
「うわ、とるのはやっ」
「のどかちゃん立って!3歩前!」
「はい!」
「よーし、おっけー」
「あ、はい」
どうやら一旦攻撃は止んだらしい。天使の雨、ならぬミサイルは打ち止めみたいだ。転がった破片がその猛威を示している。
ミチカケ先輩はそのまま何でもないように伸ばしたままの棒をほいっとこちらに投げてよこす。
「それ、便利だねー。ミチカケちゃんも武装とか考えよっかなー」
何がいいと思う?なんて聞いてくるミチカケ先輩に反射的に返す。
「デッキブラシとか?」
メイドさんイコール掃除イコールデッキブラシ。我ながら安直な考えだ。
でも悪くはないようで、ミチカケ先輩も伸縮タイプの作ってくれるかなーなんて軽く言っている。
なにはともあれ。
とりあえず怪異の手が止まったこの好機を生かすべく、お互いに感じたことや打開の意見をすり合わせることに。
「あの小さな天使たちは怪異そのものではない、んですよね?」
「うん。天使ってイメージから連想されただけだろうねー。流行ってた内容的にも姿の確立が先だって、攻撃手段とか他の部分はほとんど手つかずなんだろーね」
「ああ…。たしかに、元はふわっとしたおまじないですもんね」
「だからって天使様がそのまま飛んでぶつかって来るってのもおもしろいけどー」
「まあ天使自体、そもそも攻撃するようなイメージがないですし。羽があるし飛ぶっていうのはわかりますけど」
天使ミサイル、いかにもバカっぽすぎる攻撃。でも馬鹿には出来ない威力だ。そこそこのスピードだし、小さくても硬いし、何より数が多い。
普通の人ならまず対応しきれずに怪我をするだろうし、当たり所によっては致命傷の可能性すらある。
「うーん、厄介厄介。対処療法を続けるのも面倒だし、そのうちにどんな変化が起こるかもわかんない。…ここはもう、アレしかないねー」
「アレ、ですか?」
「そー、アレ。起点になる場所を探るから、のどかちゃんは邪魔になりそうな草とかを適当に折ってってくれるー?」
「はい!」
それから、棒を振り回して暴れる僕と蹴りで樹木を伐採していくミチカケ先輩という異色の光景が流れ。
己のテリトリーを荒らされることに苛立ったのか、沈黙を切って怪異が牙をむく。
「おー、出たでた」
「う、夢に出そう…」
つるりと真っ白に輝く大きな翼の天使。その顔は醜く歪み、ひび割れては錆びて汚れた地がむき出しになっている。
今回の怪異、その大本。
さて。
「虚飾。天使を騙るにはいまひとつって感じー」
天使ミサイルとは比べ物にならないサイズ。圧。
「ですね。天使という名をいただくにはとてもとても」
けれどそれが僕たちの手を止める要因にはなりえない。
「所詮は怪異。異なるもの、怪しいもの。人の口に縛られし悪なるもの」
構えた棒には小さくも硬く尖ったギミック。濡れたそれを落とさないようにしっかりとグリップを握る。
「お前に天使様などという姿はふさわしくない」
重心を低く構えて引いた右足。全霊の一撃をお見舞いすべく引き絞り、いまかいまかと待ちかねる。
「「お前は天使ではない」」
右。叩きつけた棘が表層に深くヒビを入れる。滴る水が薄くしみ込んでその動きを鈍くする。
左。振りぬいた足がヒビを割り、集団認知のガワを奪い去る。
破砕音とも悲鳴ともとれる不協和音。
ボロボロに砕けた白が落ち切って、薄汚れた本性が現れる。
「ミチカケ先輩っ!」
最後のあがきとばかりに、大きく崩れかかった怪異がもやのように広がって先頭にスイッチしていたミチカケ先輩を飲み込まんとして。
「むーだだよーっと」
地面をかろやかに蹴って踊り出した。
鮮やかな足さばき。一撃、二撃、三撃と立て続けに打ち込んで。
すとん。
「はい。しゅーりょー」
重さなんてないように着地。
「さすがです、先輩!」




