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【二章完結】「お電話ありがとうございます!こちら、怪異討伐・派遣サービスです!」  作者: みよし たもつ
出向編

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case.023「新興信仰フェイクロア」


 木佐木真愛きさきまいは最近、なんだか運が良いなと感じていた。

 上手く言えないし明確に何かあるわけじゃないけれど、地味に好調が続いている感じ。その延長でリラックスしてよく眠れたし、そのおかげで仕事中も褒められることが増えた。

 だから知らなかった。気づけなかった。

 それがどこの誰がどんな意図で流した情報なのか、それが正しいことかどうか。

 最悪は常に大きな口を開けて待っている。


+

 天使様にお願い!

 まずは天使様の足元に屈むようにします。天使様を見下ろしちゃダメ!

 つぎに天使様を見上げて目をつぶります。お祈りをするときは目を開けないこと!

 最後に天使様に呼び掛けながらお祈り。天使様って3回唱えること!

+


 押し殺した悲鳴。生暖かい空気が舐めるように全身を包む。物陰に必死で身を潜めて口元をきつく手で覆い、うるさく跳ねる心臓の音がどうか聞こえませんようにと涙ながらに祈る。

「…っ」

 もう嫌だ。どうして。全部あれのせいだ。ネットの情報なんて、信じるんじゃなかった。

 閉じた目の端から雫がこぼれる。化粧はもう散々なことになっているだろう。

 ああ。あんなこと、しなきゃよかった。

 真愛の心はただ後悔と恐怖でいっぱいだった。


 バサバサと翼を羽ばたかせる音がする。

 探されている。


 やけにあかるい青い空が、今ではまるでキャンパスにのっぺりと塗られた青い絵の具のようで不気味だった。涼しかったはずの空気は温度と共に重ささえ増している。

「もうやだ…っ」

 隠れる場所の少ない草木の影になんとか体を押し込んで泣き言を吐いた。

 ひっかけた腕の擦り傷が熱をもって痛かったし、豹変した天使様の形相が目に焼き付いて離れない。

「…?」

 音が止んだ。どこかに行ってしまったんだろうか。

 恐る恐る目を開ける。

「…は」

 誰もいない。

「、いまのうちに」

 あれ。

 立てない。

 なんで。

「…」

 あ。



「じゃあのどかちゃん、行くよー」

「はい」

 じりじり鳴る黒電話。そっと受話器を持ち上げて耳に当てる。

 第一声は決まっている。

 つとめて明るく声を張って。

「お電話ありがとうございます!こちら、怪異討伐・派遣サービスです!」

 よし。言えた…!

 達成感に内心震えながら応答を待つ。

「…」

「?…お電話口様、聞こえておりますか?」

「…」

 無言。

 思わずミチカケ先輩を見ると、すこし眉根を寄せて手を伸ばす。

「ちょっと代わって」

「あ、はい」

 すっと場所ごと電話対応をスイッチ。

「失礼します、お電話代わりました。…ああ、なるほどー」

 数歩離れた僕の耳にも届くほど大きな音。

 ガシャンと何か割れ物を叩きつけたような粉砕音がして、電話が切られてしまったようだった。

「やばいな」

「え、そんな感じなんですか」

「うん。なかなかないよ、こういうの」

「えっ」

 切れた電話を持ったまま、何やらダイヤルを回し始める。それを呆然と見ていると意味深な笑みを浮かべたサカヅキさんがそうは見えないテンションで煽ってくる。

「ミチカケちゃん、手が足りなさそうだったら」

「はい」

「よし」

「ええっと…」

「のどかちゃん」

「はい!」

「行くよ」

「…はい!」

 スッと伸ばされた手を取る。最後に回していたダイヤルから指が離れ、ぐんっとエレベーターの加速時に似た負荷がかかる。

「いってらっしゃい」


「っわ!っとと、ここは…」

 本当に一瞬。

 ぐっと圧がかかったかと思えば僕は地面に立っていた。

「…はあ。やっぱり」

「ミチカケ先輩どうし、うわあ」

 草の根元にしゃがみこんでいたミチカケ先輩に声をかけると、その場所には誰かのスマホ。そして陶器の欠片。電話越しに聞こえた音はこのせいみたいだった。

 持ち上げたスマホは可愛らしいケースに入っていて、おそらく持ち主は女性なんだろうなということだけが分かった。

「これ、ここで襲われたってことですよね」

「だろうねー。…うん、やっぱり」

「なにか分かったんですか?」

「うん、まーね。歩きながら話そっか」


「のどかちゃんはさ、天使様ってわかる?」

「天使?それってあの、背中に翼が生えてるあの?」

「そー。でも、ここでいう天使様って言うのはねー、ちょっと違うんだー」

 宗教画とか、あるいはアニメや漫画にもよく題材にされるモチーフ。

 大抵、前者なら裸の赤ん坊に白い翼。後者ならイケメンや美少女に大きな翼が生えている。よくあるといえばよくある、説明しなくても伝わる使いやすいイメージだ。

「いまネットを介してすごい勢いで広まってる、いわゆる新興の怪異。信仰型ってところかなー」

「ネット。…くねくねみたいな?」

「うーん。それとはまた違うんだよねー。なんと言ってもこの天使様はホラーとして語られてるわけじゃないから」

「ホラーじゃない?」

「どっちかっていうとおまじないかなー。ほら、こっくりさんみたいな」

「ああ」

 そういわれるとしっくりくる。

 こっくりさん、エンジェルさん。だれが言い始めたのかもわからない、けれどまことしやかにささやかれる、ルールのあるおまじない。

「たぶん最初は身内ノリや仲間内でのお遊びで作られたんだろーね。でも、それの良くないところは明確でさー」

 ほら、と見せられた文言はたしかに良くある感じ。ふわっとしすぎていて、何を言ってるのかしたいのかはっきりしていない。

「…これじゃ、何に対するおまじないかわからなくないですか?お祈りの対象が天使様って意外、あやふやというか」

「だからかなー、どんどん派生して独り歩きしちゃってさー。ほら、シンプルなのって弄りたくなるでしょ?いろんなバージョンが出来て、もうぐちゃぐちゃ」


「あいまいで穴だらけ。なのに認知は強い」


「あ、だから…」

「こういうのは怪異の格好の獲物。もどきが入り込んで姿を得ちゃう」

 明確な姿や名前のない怪異もどきから、姿や名前、大勢の認知を受けて怪異に。

「しかも結末もない。ただのおまじないだからねー、仕方ないけど」

「でも、それじゃ」

「うん。こういうのが一番厄介。何が起こるか分からない」

「…」

 ぐっと手に力が入る。

「のどかちゃん、全部に警戒してねー。…さ、来るよ」

 その言葉を皮切りに、怪異がその猛威を振るい始める。



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