第六十話 運命の席替え
「暑すぎる……」
連日秋に侵食し続けている夏の暑さはとどまることを知らず、うだるような暑さが続いていた。
こんな日にも例外なく学校はあるわけで。
「おーい、恭介?」
「あっ、おはよう、圭君」
今日は徹さんが待ち構えていた。昨日家に帰ってきたのも遅かったみたいだけど(恭介は10時くらいまでウチに居座った)、今日も朝早くから仕事の支度をしている。大人って大変だなぁ。
「恭介、起きてます?」
「うーん、今日はまだみたいだね……」
いつも通りの苦笑いを浮かべている徹さん。お任せください。俺はいつもの業務を遂行すべく、二階へと駆け上がる。
「おーい、恭介、起きろ……って、エロ」
「おい、何で朝から親友に欲情されなきゃいけないんだよ?」
思わず心の声が漏れてしまったが、それもしょうがないでしょう。
朝の色気ムンムン状態でなぜか上裸でいる恭介。思わず見惚れてしまいそうな引き締まった肉体と学校一の美貌。そこらへんの女子だったら気絶してますよ? 本当に。
「暑いから着替えてんだよ」
気だるそうに着替えを進める恭介がジトっとこちらを見つめてくる。まぁ、こんな姿を見られるのも親友の特権か。うんうん、眼福眼福。
準備を終えた恭介と外に出ると、容赦なく日差しが照りつけてくる。
「アツー、何やこれ?」
急に関西弁になったのは疑問だが、俺も同意見だ。
俺たちはクーラーがついている教室を目指して、歩みを早めた。
「ふぅー、涼しっ」
教室に入ると、一気に冷たい空気に包まれる。これ本当に九月の景色ですか?
「おはよー、圭」
「おはよ。暑いね」
「ねーっ」
いつもと変わらない爽やかスマイルを向けてくれる澪。今日も今日とてかわいすぎないか……!
ちなみに、俺と澪が恋仲なのは、恐らくバレてるんだろうけど、あまりにも堂々としていたせいで、一瞬の話題で過ぎ去っていった。逆に恭介の前でのデレデレ利奈さんの方が衝撃が大きかったらしい。
「よし、全員いるな」
いつも通りの朝のホームルーム、なのだが。
「それじゃあ、全員揃ってるし、席替えするか」
森田先生から発せられた『席替え』。それは俺にとって死の宣告のようなものだった。
現在の俺の席は教室の一番窓側の一番後ろ。よく先生からはよく見える席と言われているが、隣に澪、前に恭介という布陣もあいまり、俺にとってはこれ以上ない席だった。
「圭、絶対隣になろうね!」
隣で左目をつぶって見せる澪。2回連続隣の席。そんな奇跡は起きるのだろうか。
「よし、そしたら……富樫。お前から引きにこい」
なんと一番目。春と同じようにくじ引きで決めるみたいだ。
教卓に置かれた段ボール箱から一枚の紙を抜き取る。
恐る恐る紙を開くと……
『24』
うーん、何ともビミョ〜。
教室の真ん中くらい。前でもないし後ろでもない席。まぁ、一番前じゃないだけいいか。
その後もくじが引かれていく。澪も颯爽と一枚を選んでいたが、その顔からは席の善し悪しは判別できない。
「よし、じゃあ見せ合おうか」
俺、恭介、澪は自らの引いた紙を一斉に開く。
「せーの!」
三枚の紙が目の前で開かれる。
俺はもちろん『24』
澪は『12』 ちょっと後ろの方。やはり連続で隣の席は無理か……
恭介は『5』 あれっ? てことは??
「私と恭介君が隣……?」
「そういうこと、だね」
良いなーというのが正直な感情だが、澪と隣が恭介で良かったなとも思う。他の男子よりは……
「よし、全員引いたな。そろそろ移動しろよ」
あーあ、せっかくの神席を明け渡し、前の方に移動する。やっぱり澪の隣に居たかったなぁ。
「ちょっと、いつまで後ろ見てんのよ」
右隣から聞き馴染みがある声が聞こえる。
「利奈さん?」
「はぁ、何であんたが隣なのよ……」
視界には入っていたはずなのに全く気づかなかった。
「あーあ。あそこに美男美女が固まっちゃったよ」
残念そうに後ろを振り返ってる利奈さん。
「なんか、ごめんね……」
「別に、他の男子たちよりはマシだけど」
少なからずクラスメイトからの反応は意識しているようだった。まぁ、恭介と隣になったら、利奈さん一日中トロトロになっちゃうから、俺ぐらいがちょうど良いのかもな。
「じゃあ、これからよろしくお願いします」
「ん。よろしく」
ぶっきらぼうだけど、利奈さんにしては柔らかい表情だったので、まぁいいか。
「……あのー、利奈さん?」
現在は現代文の授業中。ペアワークの時間なのですが。
「あっち、楽しそう、ズルい」
「つまらなくてすみません……」
利奈さんの視線の先、恭介と澪の席ではいかにも楽しそうな会話が繰り広げられていた。
なんかあそこだけオーラが違う……?
「ほら、私たちも楽しい話するぞ」
「楽しい話って、一応授業中だけど……」
夏休みで利奈さんとは相当仲良くなったが、まだ深い心理が読めない時がある。まぁその不思議な感じが彼女の良いところなんだけど。
その後も、後ろを睨んでいる利奈さんにプレッシャーを感じながら、席替え初日の学校を無事に終えたのだった。




