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第五十五話 親友の思いは

「おっ、圭、おっはよう!」


 通例のモーニングコールをしようと隣の恭介の家に出向くと、既に制服に袖を通していた。


「……おはよ」


「何だよ、信じられないみたいな顔して」


「だっていつもだったらまだベッドに張り付いてるお前が、何でこんなに早く……」


「別に早くたっていいだろ〜。コーヒー飲む?」


「うん。貰おうかな。そういえば徹さんは?」


 いつもだったらこれくらいの時間に家を出ていた徹さんが、今日は姿が見えなかった。


「あぁ、父さんは今日もう会社行ったよ。なんか、昨日の仕事が残ってるみたいで」


 昨日――。そう、昨日この家には恭介の母親が来ていた。10年前に徹さんと離婚したあの人が。


 恭介ん家の前の車がいなくなったのは、夜10時を過ぎたくらいだった。どんなことが話されたのかは分からない。


 平静を装っている恭介も、どこか空元気な気がしてならなかった。



「よし、そろそろ行くか、圭」


 準備を終えた恭介が、丁度コーヒーを飲み終えた俺に声をかける。


「おう、行くか」


 今日からはまた授業が始まる。でも、そんなことよりも今はこの隣の親友のことが気になってならない。


「恭介、昨日はさ――」


「いやー、今日もいい天気だなー!」


 あからさまに話題を変えられる。ていうか今曇ってますけどっ!


 話したくないのであれば、無理に話してもらう必要はないか。俺たちは学校へと道をどーでもいいことをぺちゃくちゃと喋りながら歩いていった。



「二人ともおはよー!」


「おはよ」


「おはよー! 利奈もおはよ!」


「おはよ、恭介」


 もう一緒にいるのも当たり前になった四人。


 恭介が澪や利奈さんに元気に挨拶を返しているが、その顔にはどこか翳りがみえる。やっぱり昨日何かあったんだろう。


「ねーねー、今日から授業だね」


 澪が俺の腕をツンツンとつついてくる。


「うん、そうだね」


「『そうだね』って、嫌じゃないの?」


「嫌だけど……俺らがとやかく言って変わるものじゃないし」


「なんか冷たーい」


 澪には文句を言われてしまったが、今の俺には彼女がお望みのリアクションをするのは難しいかもしれない。頭のどこかで恭介のことがちらついてしまう。


 彼女と話してる時くらいは、そっちに集中したほうが良いだろうに。俺はやっぱりダメな彼氏だ。



「よーし、今日から授業が始まるから、しっかり集中して受けるんだぞ。今までサボってた奴は気持ち入れ替えるチャンスだ」


 朝から暑い思いを述べてくれる森田先生のおかげで、教室の室温が心なしか上がった気もするが、先生の言うとおり、授業には集中しなきゃ。余計なこと考えないで。


 朝のHRが終わり、机の中から物理の教科書を取り出す。


「朝から物理か……」


 嫌いなわけではないが、歓迎はできない教科だ。まぁでも、手動かしてたほうが余計なこと考えないで済むし。


 そんなことをぼんやりと考えていると、物理の竹岡先生が入ってくる。


 さ、頑張るか。



 ――とは、思ったものの。俺の頭の中は恭介のことでいっぱいだった。


 授業に身が入らないのは、隣の人も一緒のようで。


「……澪、起きて」


「んあ?」


 朝イチからバッチリ居眠りを決めている澪に一応声をかけておく。ただでさえ勉強は苦手なのに爆睡している澪。これ以上差がつけられてしまうと後々苦しくなるのは澪自身だ。


「頑張って」


「ぁあ、ありがとう」


 朝の元気はどこへやらという感じだが、一応シャーペンは握り始めたので良しとしよう。



 気がつくと一日が終わっているなんていう休日はよくあるが、授業があっても集中していれば時間が過ぎるのが早く感じることもあるようだ。


 何とか集中力を取り戻した俺は、その後を授業を淡々とこなしていった。


「よし、終わったー!」


 隣の澪も何とか一日を乗り切ったようだ。偉い、偉い。



「帰るぞ、圭」


「あっ、うん」


 珍しく落ち着いた恭介の口ぶりに少し驚きながらも、彼の後をついていく。


「二人ともバイバーイ!」


「お疲れ、また明日ね」


 澪に別れの挨拶を済ませて、学校を出た俺たちは朝と同じ道を歩いていく。


「ねぇ、圭」


「どした?」


「昨日のことなんだけど」


 朝は露骨に避けられたこの話題。今度は恭介が口にした。


「昨日来てたのは、母さんなんだよね」


 うん、知ってる。なんて本人に言えるわけもなく。適当に相槌を打っておく。


「色々話したんだけどさ。途中から父さんも俺も疲れちゃって」


「そうだよな。久しぶりだったの?」


「直接顔を合わせるのは3年ぶりかな。そん時も挨拶だけだったし」


 勝手に何でも知ってるつもりだったが、改めて俺は北原恭介という男についてたくさん知らないことがあると気付かされる。


「何で来たのか分からなかったけど、やっぱ嫌な予感はしてて」


 恭介が普段はしない嘲笑うような笑いを見せる。やっぱり彼も色々と抱えてることがあるんだろうな。


「それでさ、昨日はごめんな、結構キツイこと言っちゃって」


「いいよ別に。そんなんで崩れるような関係じゃないだろ」


「それもそうか」


「今日は話してく?」


 気がつくともうウチの前まで来ていた。


「今日はそうしようかな」


 やっといつもの明るさが戻ってきた気がする恭介。まぁ、詳しい話は彼の気分が乗る時に聞くことにしよう。

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