第五十四話 休み明けのテスト
まだまだ夏休み気分が抜けない俺たちを待ち受けていたのは、休み明けのテストだった。
今回のテストは国数英の三教科。普段のテストよりは教科数も少ないし、夏休みの課題をちゃんとやっていれば点数が取れると先生たちが言っていたので、そこまでの対策はしていない。
それでも、夏休み中の2回の勉強会で、課題はバッチリ、復習もしっかり出来たので、今回は期待しても良いんじゃないか……?
「圭、どこ出ると思う?」
テストのため、席が名簿順になって離れてしまった澪が、わざわざ俺の席にトコトコ歩いてきた。
「どこって……国語は何出るか分からないし……」
ちなみに、澪の席の斜め前には、我らが学年トップ・北原恭介氏がいるので、勉強のことは彼に聞けば良いと思うのだが……
わざわざ俺のことに来てくれた澪が更に可愛く見える。もちろんいつも可愛いんだけどね。
とまぁ惚気はこれくらいにしないとテストに影響が出そうなので、咲良を席に帰してテストに備える。
「よし、みんな席に着けー」
丁度、テストを抱えた先生が教室に入ってきた。
これから長い戦いが始まる。国語は運ゲーなとこもある(日頃教えて頂いている先生、申し訳ありません……)ので軽く流していきたいところだ。
「じゃあ、始め!」
先生の合図で皆が紙を捲る。事前の予告通り、問題の難易度はそこまで高くない。これならスラスラ解けそうだ。
朝から国語、英語。お昼を挟んで数学と格闘した俺たちは、休み明けの一つ目のハードルを乗り越え、解放感に満ち溢れていた。
ただ、明日からは本格的に授業が始まるので、手放しで喜ぶことはできないが……
「澪、テストどうだった?」
「それがね……めちゃくちゃ解けました!」
咲良が満面の笑みでサムズアップしている。この感じだと本当に手応えがあるのかな……
「富樫、澪はテスト終わったらいつもこんな感じだから、騙されちゃいけないよ」
「利奈〜、今回は本当に自信あるよ?」
「はいはい、結果が楽しみですねー」
「ぐぬぬ、信じてないな……!」
学校でこの二人のやりとりを見るのも久しぶりだなぁ。まぁ、当事者たちは本気でやってるんだろうけど……
「恭介、帰ろうぜ」
「おう、行こうか」
今日は恭介と二人での帰り道だ。学校の前で澪と利奈さんと別れ、俺たちは自分たちの家へと向かう。
「圭、テストどうだった?」
「うーん、まあまあかな?」
いつもよりは解きやすかったが、問題自体の難易度も低かったので、これが良いのか、悪いのか……?
「恭介は……って聞くまでもないか」
「別に聞いてくれても良いけど?」
これまでこんなに一緒に過ごしてきたけど、どこでこんなに学力の差がついたのだろうか。もちろん、彼の生まれ持った才能もあるだろうが、紛れもなく彼の努力が一番だろう。
「じゃあ、今回はどうでしたか? 一位取れそう?」
「一位は分からないけど、いつもと同じ感じかな?」
じゃあ多分一位だろ!と心の中で叫びつつ、少し小雨が降ってきた帰り道を二人で歩く。
もうすぐ家が見えてくるかという所で、恭介が急に足を止めた。
「うん、どうした?」
「あれ……」
恭介がゆっくりと家の方向を指差す。
前の方に目を凝らすと、恭介の家の前に見知らぬ車が止まっていた。
「あれってお客さん?」
「……うん、多分ね」
一瞬だが、恭介の顔が引き攣ったように見えた。いつも柔らかい表情をしている彼からは想像もできない顔だった。
「大丈夫? 俺ん家にいても良いけど――」
「いや、大丈夫」
俺の言葉を遮るように、恭介が足早に歩き出す。
「ちょっ、本当に大丈夫?」
俺の心配をよそに、恭介は歩みを早めていく。
「おい、恭介!」
「なんだよ、圭!」
恭介が声を荒げる。こんなに怖い顔をした彼は見たことがない。
「……ごめん、今日はほっといてくれ」
これ以上詮索するのは良くない。そんなことは俺にも分かっている。でも、親友が苦しんでいるなら、その理由を知りたいと思うのは当たり前だ。
でも今日は……
「分かった。じゃあまた明日な」
「あぁ、また明日」
恭介とウチの前で別れる。本当に大丈夫かな。
心配しながらウチの中に入ろうとした時、隣の家の玄関から見覚えのない顔が見えた。
「あら、恭介! 久しぶりね」
誰だあの女の人?
俺は気づかれないように、恭介の家の方を覗き込んだ。
玄関から出てきた女性はどこかやつれているように見えた。目の下のクマがひどく、どこか暗い雰囲気を纏っていた。
――もしかして。いや、きっとそうだ。恐らく彼女は……
「久しぶり、母さん」
やはりあの女性は恭介の母親だ。
恭介が5歳の時に徹さんと恭介の母は離婚した。親権は稼ぎがある徹さんがとって、それから母親とは会っていないと恭介は言っていたが……
俺は、どうして徹さんと彼女が離婚したのかは知らない。俺の両親は徹さんから聞いたことがあるようだったが、今まで教えてくれることはなかった。
どうして今になって……
恭介と母親は家の中に再び入っていった。
恭介から母親について詳しく聞いたことはないので、彼が母親のことをどう思っているか分からないが、さっきの反応から見て良くは思っていないだろう。
「大丈夫かな……」
一抹の不安を覚えながら、俺も自分の家の中に入っていった。




