第55話 疑問と夢と
「おかしい……僕以外にリンナを調整できる人間などいないはずなのに、明らかに僕以外の手が加わった形跡がある。まさかノダ? いや、ありえない。じゃあ誰が?」
リンナの修理をしつつ、ソラは疑問を持った。
今までに行った切開の痕……戦うノダをイメージして内蔵させた『切り札』である両腕の武装、胸に埋め込んだ魔術核、頭部に取り付けた聴覚、嗅覚、発声機能の手術痕が、自分が処理した時よりも丁寧に再処理されている。
今回も右肩の骨格を切断されているので、溶接を含めた大掛かりな修理をしているのだが、皮膚の表面にはよく見ればわかる程度の痕が残るだろう。こうなると、魔術核等にも手を加えられているのかもしれないとは思うが、必要以上の切開はしたくないので確認できない。
「ここまで完璧に仕上げているからには、敵ではないだろうが……」
リンナの話をまとめれば、何者かと交戦し、敗北し、記憶を封じられた。その後、サイクツ村のアネゴに拾われたとのことなので、その間に凄腕の魔導技師に修理されたのだろうか? わからない。
「なあ、ソラの夢ってなんなんだ?」
「空を飛びたいそうよ」
「空をね〜……?」
聞いてもカイにはピンと来ない。鳥や一部の魔物は悠々と空を飛ぶが、地べたを這いずりまわりながら生きてきた自分には無縁に思える。
「アタシが元いた世界には飛行機っていう乗り物があったんだけど、それを作りたいんだって。子どもの頃、ノダから話を聞いて憧れてたらしいわ。こっちに来た当初は質問責めにあったもの」
思い出したのか、身震いして苦い顔をするカオル。いわく「急に迫ってきたかと思ったら『飛行機に関して知っている全てを教えてください!』よ? アイツ本当に生えてんの?」
「ソラは『ノダ』に囚われすぎてるわね。いや、アンタから聞いた感じだと村の連中み〜んなが。……アンタは違うみたいだけど」
今度はカイが苦い顔をする番だった。カイにはノダの記憶が薄い。こだわるのはリンナのことだけだ。
「リンナを治して、夢を叶えたら、俺にもパワードスーツ作ってくれるかな?」
「いけるんじゃない? まずは修理が一番だけど」
………
「無理だね」
「はあっ!? カオルには作れても俺には作れないのかよっ!?」
リンナの修理があらかた完了したと言うソラに、パワードスーツをねだったカイへの返事はあっさりしたものだった。
「そもそも、男に作っても張り合いがないし……仮に作るとしても1年は待ってもらうことになるよ」
「1年か……」
「だから無理だって。飛行機だって行き詰まってるのに」
「リンナと俺と飛行機と、どれが大事なんだよ」
「リンナ、飛行機。カイはその次かな」
「はっきり言い過ぎじゃねえ!?」
目を大きくしてツッコむカイに、顔色ひとつ変えずにソラは続ける。
「カイがリンナを守るために力を欲するのはわかる。しかしパワードスーツを着たところで、敵わない相手はたくさんいるよ? 例えばドラゴンとかね。まぁ、カオルならドラゴンでも倒すかもしれないけど」
「……否定できないな」
2人とも、勝ち誇るカオルの姿を余裕で想像できた。
「ともかく、カイが今持ってるナイフとかの強化は無料でやっとくよ。僕にできるのはそのくらいだね」
「そこまで飛行機にこだわる理由は?」
「覚えてないかな? 『みんなで空を飛ぼう』って話。あれを実現するのが僕の夢なんだ。みんなで空を飛べば、みんな笑えるようになる」
「みんな、ね……」
ノダが死んでから何年経ったと思ってるんだ。口には出さずにカイは思った。




