第53話 願いとソラと
語り終えたリンナをしげしげと眺めて、カオルは呟く。
「そいつが禁忌の地にいるのね?」
[うん。そうだと思う]
「よし。ならしょうがない! アイツをぶっ殺すのは一旦保留にして、先にリンナちゃんの願いを叶えるかー!」
[い、いいの?]
「仲間になるってことか?」
リンナもカイも驚いた表情でカオルを見つめる。
「他でもないドールちゃんの願いだから。ほったらかして元の世界に戻ったら、あたしのドールちゃんに合わせる顔がなくなっちゃう!」
「まぁ、リンナの腕のこととか色々思うところはあるが……正直、助かる。よろしく頼む」
[よろしくお願いしますっ!]
カイは、リンナの腕の恨みは忘れないと思いつつも実利を取った。自分を抑えることには慣れていたのだ。
そして一行は、それから更に時間をかけてダストタウンに到着した。
「ここがダストタウンよ」
「なるほど……名は体を表すってとこか」
[ここにソラがいるんだね〜……]
そこは雑然とした、ゴミゴミとした村だった。そこら中によくわからない物や、よくわからない者が転がっている。気のせいかどの建物も煤けて見えたし、住人の目は濁って見えた。
「こんな中にあって、いつまでも目がキラキラしてるんだから、アイツも変わってるわね」
言いつつカオルはどこか懐かしそうだ。ここを立ったのは最近だろうが、もう戻ってくる気はなかっただろうから、特別な思いがあるのかもしれない。
リンナ起動前に長年『死んだような目をしたソラ』を見てきたカイとしては微妙な気分だが。
「あ。いた」
ソラは『ノダ魔導機械店』と書かれた看板の下、作業着を身につけ何かの作業をしていた。髪は肩を越えて伸び雑に結ばれており、色白で整った顔立ちだけに無精ヒゲが際立つ。
「あ〜……、おい」
「ん? やあカオル。早かったですね。その顔を見るに、目的は果たせてないんですか?」
「ぶっ殺したいヤツが2人に増えただけだったよ」
「それで、そちらの方達は?」
「アンタのお客さん」
来客とは珍しいなと思いつつ、ソラが繁々と眺めるのに合わせてカイが声をかける。
「よう、ソラ。5年ぶりくらいか?」
「え? カイ!? 懐かしい!」
[ソラ。久しぶり〜!]
「リンナも!? 調子はどうですか?」
まさかこの2人がこんなところに来るとは思いも寄らず、ソラは大いに驚く。
「積もる話はあるが、まずはこれを見てくれ」
「……右腕が!? 一体誰にやられたんだ!?」
カイが説明している間、カオルはずっとシュンとして申し訳なさそうな顔をしていた。そんな顔を見たことがなかったソラは気が散ってチラチラと何度もよそ見をし、再度カイに説明を頼んで怒られた。
「ふむ、最強のボディは最強の剣の前に破れたということか……せっかくだしこの機に更に強化し直したいが、それだと計画が……」
「ブツブツ言ってないで、最優先で直せばいいんだよっ!」
自分の世界に入り始めたソラに、カオルが喝を飛ばす。
「わかってます。リンナのことはいつだって最優先だ。ただ、今回は骨格からの修理が必要になるから数日はかかるし、作業の都合上しばらくリンナには眠ってもらうことになるけど。あと、作業中は部屋に誰も入らないこと。いいですね?」
「ソラ! リンナに変なことするなよ!?」
「ノダに誓って、それはないよ」
「……悪い」
気まずそうなカイを気にも止めず、ソラは淡々と話を続ける。
「作業中、暇になる2人にはこのリストの材料を集めておいてください。もちろん出来る範囲で構わない。購入できる店や素材を得られる魔物は近所の人達に聞いて。僕は忙しいから話しかけないように」
「……変わらないな」
「昔からこうなんだ?」
「昔からこうだな」
ヤレヤレといった2人をよそにソラは準備を始める。
「じゃあリンナ、こっちの部屋に来てください。今回は修理だけになるけど、まずは問診をしたい。……5年ぶりだしね」
[うん。あたしもソラがどうしてたのか知りたい〜]
移動する2人を面白くなさそうに眺めるカイ。
「ほら。アタシ達はアタシ達の仕事をしなきゃ」
「ああ。わかってるよ」
カオルとカイは指示に従って材料を集め、夜は空きスペースを借りて勝手に横になる。カオルは「なんでアタシの部屋がもう物置になってるワケ?」と激怒し、それをなだめるのにカイは余計な労力を使ったため、2人は朝までぐっすりと眠った。




