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第52話 凛菜と野田と


 ───あたしは、ノダさんの注文で作られた。


 ラブドールにも色々あるけれど、あたしの『実家』は受注生産式だったそうだ。


 つまりあたしは、ノダさんに望まれて、ノダさんのためだけに作られたんだ。


 きっと、自分という存在を意識し始めた時から、既にノダさんに好感をもっていたのはそういうのが関係していると思う。


 そういえば、あたしの意識はいつからあるんだろう? 作られた時? ……ううん、ノダさんにお迎えされた時からかな。多分。



 一緒に暮らし始めて最初の頃、帰宅したノダさんによく驚かれたな。あたしのいる部屋は消灯してるけど、玄関の灯りの下にいるノダさんの姿はよく見える。あたしの影に気付くと、明らかに『ビクッ』としてた。自分でお迎えしといて侵入者扱いとか!



 ノダさんはなかなか手を出してこなかったな。すごく我慢してるのが伝わってきた。そういう優しいところも好きだったけど、当時は早くしてほしいとも思ったりした。あたしはそのために作られたんだし。とにかく、乙女心は複雑なのだ。結局『最初の1ヶ月は我慢する』て言ってたのに、半年もかかっちゃったけど。



 ノダさんは甘えん坊さんだ。あたしに抱きつくのが好きだった。いつも『いってきます』『ただいま』の言葉とともに、抱き締められた。あたしは[いってらっしゃい][おかえりなさい]と返す。声は出せないから、届いてるかはわからないけど。



 ノダさんはよく、今日あった出来事を話してくれた。仕事中に『最近楽しそうだけど、彼女でもできたのか? 仕事もそれくらい頑張ってほしいね』と嫌味を言われたよと笑ってた。



 ノダさんはよく謝る。あたしの存在をつい忘れて動き回るからだろうけど、あたしに腕が当たったりすると『あっごめん』って。そうやって何度も謝られると、まるで自分が人間になったような気がしてくるから不思議だ。



 時々、一緒にお風呂にも入った。とはいっても浴室は狭いし、自立加工した足はビニール袋で保護されてるけど。あと首元も『お湯が入ると怖いから』て濡らしてくれない。それでも滅多にない特別な日だから、あたしは上機嫌だった。



 お正月に何日かノダさんが実家に帰省した時、寂しかったなー。帰ってきてからお土産話はしてくれたし、お土産もくれたけど。それは食べ物の形をした置き物で、元いた世界に残ったまま。



 一緒に映画のDVDもよく見てたな。『外出させられないから、これで外の世界をイメージしてくれ』って言ってた。ノダさんは恋愛映画が好きだったみたい。でも何か変わってるような? 『チャンピオンに挑戦する無名ボクサーの恋愛映画』とか『中年の殺し屋と殺し屋見習いの少女の恋愛映画』とかが特に好きだったみたいだけど、ああいうのって恋愛映画になるのかなー?



 ノダさんは読書も好きだった。よく『読み聞かせ』をしてくれたよ? 『ピノキオ』とか『さるかに合戦』とか。読み上げる声に熱が入りすぎて、よくお隣さんに壁ドンされてたっけ。この世界に来てからは魔術書ばかり読んでたから、あたしに『ごほん』を読んでくれなくなったのが、ちょっと寂しかったな。



 『春になったら桜を見に行こうぜ! 初の外出だな! くぅ〜! 今から緊張するぅ〜!!』って言ってたな。……結局、見に行けなかったけど。よくわからないけど、『桜』って綺麗なのかな?



 お揃いの腕時計はお迎えの時につけてくれた。これがそう。あたしとノダさんは裸でこの世界にきたから、あたしの持ち物はこの腕時計だけなんだよね〜。


 あと、この眼鏡はノダさんの。形見だってソラが言ってた。他の人じゃ使えないし、あたしにかけててほしいって。


 それと、ノダさんが持ってきた他の道具は全部ソラが預かってるって言ってた。「大事なけんきゅーざいりょー」って言ってたよ?


 こっちの世界に来てからは、お迎え1周年記念にムギちゃんのお店で買ったペンダントをくれて……へへっ、あたし、なんだかノダさんにもらってばっかりだなー♪


 その後かな? 魔術であたしを強化してくれて。ノダさんのおかげであたしは長生きできてるのだー! えっへん!



 それから……。


 みんなで、街に行って。動けないあたしのために乗り物を作ってくれて。重いのにずっと引っ張ってくれて。ムギちゃんが選んでくれた服を買ってくれて。


 それで……。


 ノダさん、あたしを守って、あたしの膝にもたれかかって、死んじゃった。


 この話をする時ね、みんな自分を責めるんだよ? あたしを守って死んだのに、誰もあたしを責めないんだよ?


 ムギちゃんも、ソラも、リクも。みんな。誰もあたしを責めてくれないんだよ?


 ……だからね。あたし、思い付いたんだ。[ノダさんを生き返らせよう]って。


 そしたら、みんな自分を許してあげられるよね? あたしもあたしを許していいよね?


 だから、あたしは旅に出たんだー。カイには止められたけど。


 それから、あたしはどうしたのかな……? どこかでリクと会ったのは覚えてる。


 そのあと[きんきのち]を目指したのはなんでだろう?


 というか、途中で[口から火を噴く魔女]って噂になったのはなんで!?



 それから……。


 誰かと、言い争った。ノダさんと、あたしのことで、とても大事な話をしてた気がする。ここで負けちゃダメだって思って。


 その人が、ノダさんを生き返らせる方法を知ってたんだと思う。だから絶対に負けられないって。


 それであたしは……それであたしは……ああ、そうだ。その人に負けたんだ。


 その人に負けて、負けたから記憶を取られちゃったんだ。


 ……もう一度、あの人に会わなきゃ。


 会って、勝って、ノダさんを生き返らせる方法を聞かなきゃ。




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