第47話 写真 馬子にも衣装、リクでも聖女?
道中、リンナはカイからリクの写真を見せられる。
[あ、この人この人。あたしが会ったリクで間違いないよ〜。やっぱり綺麗な人だよね〜]
「あ〜……子どもの頃のねーちゃんを覚えてないのか? よくそんな感想が出てくるな……」
[そんなにすごかったっけ?]
「すごいというか、あの頃のねーちゃんは『男子』だったからな。ソラより男っぽかった気がする」
ソラはあたしを『起こした』人だよね、とリンナは記憶を手繰る。
「ところで前にねーちゃんに会った時のこと、どのくらい覚えてるんだ?」
[うーん『本気の思いには本気で返せ』って言われた場面だけ、かなぁ〜?]
「……へえ。見た目はともかく、中身は変わってないのか」
[知らないの?]
「ねーちゃんが村を出て以来、10年会ってない。馬鹿丁寧な文章で書かれた手紙のやり取りだけだな」
[ひょえー]
リンナに家族はいないが、家族と10年会っていないことが驚きに値することはわかる。なんとなく。
「5年前かな? この写真も無理矢理頼んで送ってもらったんだ。ムギが喜ぶと思ってな。リンナも見てるはずだけど覚えてないみたいだな」
[うーん、思い出せないや。村の人気者だったの?]
「いや逆だ。村を出てから人気者になった。今じゃ王国に知らない者のいない『聖女様』だからな」
[へえ〜! そんな凄い人なんだ〜!?]
「だから、よくリンナも会えたなーって感心してる。どうやって会ったんだ?」
[さあ?]
「……だよな」
予想していた返事が返ってきて、カイは肩をすくめる。
「で、この写真だが。なんでも教会の寄付金集めで、嫌がるねーちゃんをなんとか説得して撮影、売り出したらしいんだけどな? 即日完売、増刷に次ぐ増刷で一時期、国中の印刷所がパンク状態になったという噂もある逸品だ」
[綺麗な人だもんね〜]
写真に写された女性は20歳くらいだろうか。椅子に座り、少しぎこちない微笑みを浮かべる『聖女様』は、光を透かした薄い色合いの金髪に、穏やかさをたたえた大きな黒い目。髪にも負けないほどの透き通るような白い肌をしている。それは、子どもの頃のリクをよく知る者ならば思わず二度見して『……誰?』と言ってしまうほどの別人ぶりであった。
「……まぁ、身内から見ても綺麗になったとは思うけどな。それにしても、相当頑張ったんだろうな。村を出て最初の頃の手紙とか読み返せば『ヒールは水属性なのに私は実は火属性との相性が良かったようで、上級ヒールの修練で日々苦労しています』とか書いてるし。それが今や王国随一の治癒師だもんなぁ」
………
「着いたぞ」
夜の闇に浮かび出されるのは、見るからにオンボロな教会。とてもアイドル級の人気を誇る『聖女様』がいるとは思えない。
[ここで間違いないの?]
「そう聞いてはいるんだが……ごめんくださ〜い!」
リンナはふと、元いた世界でのノダの言葉を思い出す。
『もしも神様が願いを叶えてくれるとしたら、俺は凛菜が動くことを望むのかな? 動かない凛菜の延命を望むのかな?』
[両方じゃ駄目なの?] 喋れないリンナの疑問が届いたか、ノダは続ける。 『両方願うのは贅沢だろ、やっぱ』
この世界に来たことで、両方を叶えようとしたノダは神に逆らったことになるのだろうか?
ノダの魂は今、どこにあるのだろうか?
[この世界の神様って、どんな人なんだろう?] カイと神父が話し込んでいる間、口を挟まずにリンナは思った。
[どうだったの〜?]
「駄目だった。当分の間、王宮に泊まり込みで王様の看病をしているらしい。症状は大したことないそうだが、置き物でも一応王様だからな。手厚い看護をしているってアピールに利用されてるんだろう」
[大変なんだね〜]
「神父さんは悪い感じじゃなかったけどな。押しに弱そうだったから、厄介ごとを押し付けられるのは今回が初めてってわけでもなさそうだ」
「貧乏暇なしだねぇ」などと薄ら笑うカイは、果たして誰を思って言ったのか。
[じゃあ、明るくならない内に王都を離れるの? もう最前線の方に向かう?]
「そうだな……仲間のアテもないし、道中の出会いに期待しながら歩いていくとするか」
………
それに遭遇したのは、夜も更け、まさに王都の門を抜けようとした頃だった。
[……カイ! ものすごい速さで何かが近づいてくるっ!!]
「敵かっ!? なんて殺気だ……追手か魔物かわからんが先手必勝! いくぞリンナッ!!」
「ぅぅぅぉぉぉおおおおおっ!!!!!」
どうやら人間のようだ。槍を構えた衛兵が2人がかりで体当たりして動きを止めたところに、カイが両手のナイフを投げつける。
「飛びやがった!?」
夜空に映えるような軌道を描きバク宙を決める『敵』は、落下しつつ細身の剣を構えようとしている。
[やらせないっ!!]
落下地点に駆け出したリンナが、地上から右の拳を構えてカウンターを狙う。
「アタシの邪魔を、するなあああああああっ!!!!!」
『敵』……流線型の奇妙な軽鎧を着た女は、狂気じみた叫び声と共にリンナの拳に向けて剣の切っ先を突き出した。
「リンナッ!!」
……雲が晴れ、月が出た。
月明かりの下、照らし出されたのは。
右腕を切り落とされ首元に剣を突きつけられたリンナと、絶対的優位な立場にありながら、なぜか驚いたように目を見開いている女の姿だった。
「も、もしかして……|CHALLENGE DOLL社のR135ヘッドちゃん!?」
女……ユリ=カオルは「やっと会えたあああああ!!!!!」と叫ぶと、リンナに抱きついた。




