第29話 看板娘は告られる
───それは突然だった。
「り、りりりりり、リンナちゃんっ!!」
[タカさん、お水のおかわりですか〜?]
「あ、あ、明日は……休みだよねっ!?」
[そうですよ〜?]
リンナ以外のその場にいる全員が、その意味するところを察して固唾を飲む。
「お、俺とデートしてくださいっ!!」
[……へっ!?]
通常、ゴーレムに休日はない。そもそも必要ないからだ。しかしリンナには『自我』がある。アネゴはその点を踏まえ、人間と変わらない休日をリンナに設定している。
リンナの休日の過ごし方は主に、眠れるだけ眠って、ボーッとして、たまに子ども達と遊んで、またボーッとする……といったものだ。食事は不要なので食べ歩きはしないし、本を読まないので読書とも無縁である。そのため、これといった予定はないのだが……。
[デ、デデデデデ、デートってあのデートですかっ!?]
「そう、そのデートだっ!」
[デ、デザートが欲しい……とかじゃなくて?]
「デザートはいらないっ! 君が欲しいっ!!」
言ってしまってタカは『あっ』と思う。女の子をデートに誘うのなんて久々だから、つい余計なことを口走ってしまった。
「てめぇタカこの野郎ッ!」
「ぶっ殺す!!」
「越えちゃならねーライン考えろよてめぇ!?」
一気に殺気だった他の常連客達が立ち上がるが「待ちなっ!」
「……タカは真剣だ。邪魔すんじゃないよ」
アネゴの制止で渋々腰を降ろしていく。
[……アハハ〜。タカさん酔ってるんですね〜?]
「今日は一滴も飲んでない」
[あ、あたしゴーレムですよぉ〜? ほ、ほら! 他のお店には人間の女の子が働いてるって……]
「人間とかゴーレムとか関係ない。俺はリンナちゃんがいいんだ。誤魔化さないで答えてほしい」
[そ、そんなこと言われても……]
「い、嫌だったかな……?」
[嫌じゃ、ないですけど……]
隙あらばかわそうとする煮え切らないリンナの態度に、タカは腹を括って語り始める。
「……リンナちゃん。初めて会った日のこと、覚えてるかい?」
ー1年前ー
「アネゴォ〜! 久々にタカちゃんが来ましたよぉ〜っと!」
[い、いらっしゃいませっ!]
「んん〜っ? アネゴ、随分幼くなったなぁ〜? ややっ!? 髪が真っ黒だ! さては俺に対する当て付けだなぁ〜?」
[きゃっ!]
入店早々、新入りに抱きついた酔っ払いの目を覚まそうと、珍しくアネゴが駆け出したところで『ドスンッ!』と大きな音が店内に響き渡る。
「……ってーなー! アネゴ! いきなり何しやがる!?」
「せ、背負い投げだ……」
「知っているのかゲッコウ!?」
「タカ! 酔っ払い! アタシはこっちだよ! ……そのコは新入り。いきなり抱きつくなんて、あんたらしくないじゃないか。何かあったのかい?」
語りかけ、目を覚まさせる。……抱きついた先がアネゴであれば、もっと強引な方法をとっていただろうが。
「え? あれ? ……え? 俺、このコになんかしてなんかされたのっ!?」
「はぁ〜……。リンナ、タカに水くんできてやって」
[は、はいっ!]
「酔っ払ったアンタは新入り……リンナに抱きついた。そしたらリンナがアンタを投げ飛ばした。……怪我はないみたいだね?」
「あ、ああ……痛いのは痛いが、おかげで目が覚めた。悪かった、アネゴ」
「謝るならあのコに謝んな」
「そ、そうだな……」
[お、お水どうぞ……]
「あ、ああ。ありがとう」
[きゃっ!]
「ご、ごめんっ!」
テーブルに置かれた水を飲もうと、さっと伸ばしたタカの手と、まだ引っ込めていなかったリンナの手が触れる。
[い、いえ。大丈夫です……]
「あと、さっきはホンットーにごめんなさいっ! 初めて会う男に抱きつかれて嫌だったよね……反省してる……」
[気にしてませんから、もういいですよ]
微笑む彼女を見て『かわいい……』タカはそう思った。同時に、今頃気付いたがこの娘はゴーレムらしい。だからなんだという話だが。見た目はまったく違うが『同僚』にも何体かゴーレムがいる。それもあって、タカを始め鉱山で働く者達にはゴーレムに対する偏見がなかった。笑うゴーレムなど聞いた事がないが、それは些細なことだ。
「で? 何があったんだい?」
酔いが覚めれば語るのも恥ずかしい話だが、迷惑をかけた以上は話さなければなるまい。
「……フラれました」
「「「ぎゃははははははっ!!!」」」
娯楽に飢えている他の常連客達が下卑た笑い声をあげる。……多分、自分も逆の立場なら笑っていただろうから、腹は立たないが。
「……あいつとは、生まれた時からずっと一緒だったんですよ」
───場の空気を読んだか、もう笑い続ける者はいなかった。




