第27話 看板娘のお買い物
「リンナ、こないだアンタがぶっ壊した扉だけどね、弁償しろとは言わないよ。早く行けと言ったのはアタシだからね。ただ、なるべく安く直したいからさ、このメモに書いた材料を買ってきてくれないかい? 店の裏手に置いといてくれたらいいから」
あの日。
大盤振る舞いをした結果、調子に乗った常連客達が全員酔い潰れるまで飲んだため、アネゴの財布は緊急事態に陥っていたのだ。
そんなわけで経費削減のため、その並々ならぬパワーを買われて本日はお使いに出ているリンナである。
「あー! リンナだー!」
「え? あ、ホントだ! 珍しいなー、野良ゴーレムが1人で外歩いてる!」
『野良ゴーレムのリンナ』アネゴの店には来ないような大人達の陰口を耳にした子ども達は、悪気なくストレートにそう呼ぶ。それが自身を侮辱する言葉であることくらいはリンナも理解しているが、それでも自分に対してまっすぐに好意をぶつけてくる子ども達が好きだ。
[こんにちは! いい天気だね!]
「「じー……っ」」
[ド、ドウシタノカナ?]
「おい! リンナ! まだ俺らの名前を覚えられねーのかよー!?」
「ごまかすなー! きずつくんだよー?」
なぜだろう? 今まで何度か会っているのに、彼らの名前が正確に覚えられないのは。
[ミ、ミチとマサ?]
「全然違うよっ!?」
「あ、じゃあさ、覚えやすいニックネームを作るのは、どうかな?」
[ニックネーム?]
「そう、リンナがこれなら覚えられる! っていう、3人だけの秘密の名前!」
「秘密の名前か! それいい! それいいなっ!!」
これは自分が悪いというのに、子ども達はすぐに切り替えて秘密の名前を提案してくれる。リンナは胸が熱くなる。
───ここはかつて、僕らの秘密基地だったんだ。覚えてないかい? 君と××が住んでいたんだよ?
一瞬、何かが頭に浮かんだ気がする。それは何か、とても大切な「リンナッ?」
[ふぇっ!?]
「何ボーッとしてんだよ? 聞いてなかったのか?」
[ご、ごめんなさい……]
「しょーがねーなー。では改めて! 魔術の属性、風と水から取って、俺がウィン!」
「そして僕はウォート! ……どうかな?」
子ども達から期待のこもった眼差しを向けられたリンナは。
[うんっ! 格好いいと思うよっ!!]
それは本心だ。……覚えられるかどうかは別として。
「格好いいのは俺達もわかってるんだよー。ちゃんと覚えてくれよな?」
見抜かれていた。
子ども達と別れ、不慣れな『買い物』を済ませていく。ここに来て1年、1人で買い物をするのは初めてだ。
「真っ昼間からあんな目立つゴーレムに1人で買い物させるなんて、あの女も何考えてんだか……」
「おおかた、宣伝なんじゃねーの? 『ウチにくればこんなかわいいコが相手をしてくれますよ』ってさ。ケッ。かわいいのは認めるが、ありゃゴーレムじゃねえか。しかも得体の知れない新型って話だし」
「あーやだやだ。あのゴーレムが来て以来、客を取られてウチは売り上げガタ落ちだよ! こっちにくれば人間の女といいことできるってのに、なんでみんなお触り禁止のあっちにいくかねぇ」
「物珍しさじゃねーの? そのうち、客も店主も飽きて、また捨てられるだろ」
「そんときゃウチで拾ってやるのもいいな! あのゴーレムを狙ってる男は多いんだろ? 儲けすぎて困っちまうな!?」
「店が潰れたら、あの女も一緒に面倒見てやるかぁ〜?」
「「ゲヒャハハハハハッ!!」」
通りがかりに聞こえてくる悪口を無視して、リンナは歩く。特に何も思うところはない。ただ、アネゴと一緒の時にはだんまりを通していたあの2人が、今日はやけに喋るなーと思っただけだ。
[よいしょっと]
「おいおい、お嬢ちゃん、大丈夫なのかい?」
[ヘーキです。あたし、頭はよくないですけど、力だけはありますから!]
「ま、まぁそれならいいけどさ……毎度あり〜」
最後に買った、扉の材料となる木材を肩に担ぐと、えっちらおっちら歩き出す。
───リンナさん、すごく力持ちなんですね! これならあっという間に家が建ちそうですねっ!!
何かを思い出しかけた、ような……?
[おっとっとぉーっ!?]
いけない、いけない。いくら力持ちとはいえ、バランス感覚には気をつけないと。余分なお金は預かっていないのだ。木材を落とせばアネゴの雷も落ちてくる。えっちらおっちら、えっちらおっちら。
───そうして、リンナの『初めてのお買い物』は無事に完了した。




