*Dadと灯
享は急に不安になり焦っていた。
『そう言えば灯は父さんのこと大好きだったからな。父さんも灯のこと可愛がってたし……コーヒードバーっの時も自分のシャツ汚してまで灯の洋服を庇ったくらいだし』
胸騒ぎがおさまらない。
『父さんは母さんが亡くなってから、ずっと独身を通してる。それだけ愛してたからこそ……とは、思うけど、本部でも、クワンティコでも、父さんに憧れてる女性捜査官は沢山いるし……それこそ、灯くらいの新人ですら、話をするだけでボンヤリするくらいだし』
享は午前10時頃にロサンゼルスを出て、夕方にボストンに着く便に乗った。
そこからはタクシーを使ってレキシントンまで急ぐも、夕方のラッシュに飲み込まれ空いていれば三十分のところ、小一時間かかっておばあちゃんの家に到着。
ドアをノックする。
反応がない。
ドアノブを回すと鍵が空いている。
日本では、最近鍵かけが当たり前になっていたので享は思う。
『なんて不用心なんだ!』
平屋建てのクリームイエローの板張りに、赤い屋根。これぞアメリカンという外観。
中はアーリーアメリカン調の内装品や家具が揃えられている。
享にとっては、何もかにもが懐かしい。
入ってすぐ横長の開放型のリビングになっておりテレビがついている。
手前のロッキングチェアでおばあちゃんは編み物をしていた。
そしてその先のリビングセットの三人掛けソファにもたれている達志。
達志の胸を枕にしてグッスリ子猫のように寝込んでいる灯の腰に彼は腕を回していた。
「おいおい!何で父さんが、ここにいるんだよ。しかも何で灯が寄りかかって寝てんだ!!」
「あれ、仕事じゃなかったのか?」
「勝手に灯の行き先変えたの父さんなんだってな?そんな事に国家権力使いやがって」
「享、落ち着け。あかりんは時差ボケもあって疲れてるんだ、分かるだろ?……おばあちゃんに挨拶はしたのか?」
『あ、忘れてた』
享はロッキングチェアに駆け寄り、おばあちゃんと目線が合う位置にしゃがむと頬にキスして、挨拶をした。
「おばあちゃん、ただいま」
おばあちゃんは享の顔を見てニコニコしながら
「お帰り。お仕事終わったの?早かったわね。お夕飯は食べて来たの?私達は終わってるけど、まだなら何か用意するわよ」
「有難う。でも飛行機の中で済ませて来たから大丈夫。灯とは話ししたよね?どう?」
「灯はいい子。あなた達お似合いだわ。だから、あんなに会いたがってたのね」
「そうなんだよ。だから色々頑張れたんだ」
「おじいちゃんにも会わせてあげたかったわね。灯の話は面白いから、すごく喜んだと思うの」
リビングの暖炉の上に飾られている写真を見上げた享とおばあちゃん。
「いつもより笑ってる気がするわ」
「そうだね。僕もそう思う……」
享はもう一度おばあちゃんにキスをした。
そして、
「ちょっと灯と話したいから……また後でね」
ソファに戻ると達志が
「起こすのか?可愛そうに」
「僕の妻だ、話があるんだ」
その声に反応した灯が寝ぼけ眼で、目をこすりながら
「あれ?Tall?夢か?」
「夢じゃないよ、灯」
「仕事は?」
「話したいことがあるから、こっちに来て」
灯は立ち上がると、達志の方を振り返って
「寄りかかって寝ちゃったんだ……ごめんなさい」
「何言ってんの?そんなの気にしなくて、いいよ」
「有難うパパ」
達志の頬にキスした。
「!!ちょっと!灯!」
享は『慣れ過ぎだろっ』と驚きを隠せなかった。
享は灯の腕を引っ張ると、自分の部屋に連れて行く。
灯をまずは部屋に押し込むと、後から自分も中に入り、鍵を閉めた。
「どうしたの?何で鍵なんて閉めてんの?」
「灯」
灯を抱きしめると、享はいきなり口づけをし、ベッドサイドに腰掛けた。
なかなか終わらない甘くて濃厚なキス。
途中で我に返った享が話し始めた。
「ロスに行ったけど、仕事は終わってた」
「え?そうなの……」
「実は父さんと同じ機関で働いてて、この離れ離れは、父さんの差金らしい」
「どう言う意味?」
「まあ、善意と受け取れば……僕の仕事が長引いた場合、灯が一人にならない様にって事だとは思う」
「パパが?考えてくれたってこと?」
「ただ今回は悪意を感じる……」
「何で?」
「わざと離れ離れにされた気が……」
「どうして?達志パパは、ちゃんとボストンの空港にお迎えに来てくれてたよ」
「父さんは、灯のこと気に入ってたから……だから、もしかしたら……」
「もしかしたら?」
「僕達の邪魔をしようとしたのかも」
灯はそれを聞いて大笑いする。
「そんな事ある?」
「笑い事じゃないよ。ロスに着いた時、僕のチームが空港で待ってた」
「え?」
「仕事は昨日のうちに終わって、次の仕事まで時間が空くだろうってことを本部の人間なら、すぐに確認出来る」
「まさか」
「……」
「どうして、そんな事を?」
「灯は父さんのお気に入りだから……僕がいないところで……独り占めしたかったのかもしれない」
「Tall?何言ってんの?そんなバカな話ないよ」
「あり得る」
享はまた灯にキスする。
そしてそのままベッドに押し倒した。
「ちょっと!何する気……何がどうしたか分からないけど、今ここでっておかしいよ。Tall」
「我慢できない」
「何言ってんの?」
「灯は僕の奥さんでしょ?なのに、何?さっき父さんの頬にキスなんてして……」
「挨拶じゃん……」
「挨拶なんかしなくていい」
享が灯の服の下から手を入れた。
「ちょっと!本当にやめないなら日本に帰るよ」
享の手が止まった。
灯はどう見ても怒っている。
「じゃ、夜ならいいの?」
「……皆んな、おやすみなさいの後なら……」
「本当だね?」
「本当だよ」
「本当に本当にホントですね?」
「本当に本当にホントです」
享はベッドサイドに座り直して、灯の身体を起こして抱きしめた。
「ごめん」
「何で、そんなに焦ってんの?いつもの余裕はどうしたの?」
「……灯が、僕にするのと同じことを父さんにしたりしてたから……」
「それは……ごめんなさい」
「え?」
「パパだから安心しちゃって甘えたかも」
「父さんだから?」
「十二年も会ってなかったと思えないほど、パパは相変わらず優しくて……空港にお迎えに来てくれた時も"本当の娘になってくれて有難う"って言ってくれて嬉しかったしTallと同じ香りがしたから……」
「だから安心して甘えちゃったって事?」
「多分」
「多分?」
「この答えに絶対が必要?」
享は考える。
『絶対はないけど……入籍前だし、父さんは灯の憧れの人だったから』
ただのヤキモチ妬きの享だった。




