*おばあちゃんと灯のとある一日
「おばあちゃん、おはよう」
「あぁ、灯、おはよう」
「今日の一面は何?」
「今日はね!とうとうワシントンの事件が解決したって」
「え?あの連続殺人事件?」
「えぇ、どうやらFBIのBSUが解決したらしいわ」
「BSU!」
「そうよ!BSU!享達の部署よね?」
「うん、そう!すごい!新聞に載るような事件を解決したんだね」
「さすが享だわ」
「ホントすごい!」
『Tallが解決した訳じゃないと思うけど』
灯は、おばあちゃんが嬉しそうなのが嬉しかった。
「今日はお買い物に行く日だけど、おばあちゃんも一緒に行くよね?」
「そうね、お天気もいいし、ちょっといつもと違うところに行きたいんだけど」
「どこに行きたいの?」
「道は行きすがら教えるから、ゆっくり車を走らせてもらえるかしら?」
「うん、分かった!あ、そうそう、朝ごはんできたから」
灯が一緒に住むようになってから早くも4ヶ月近くが経ち、二人はもう本当の祖母と孫のように会話ができるようになっていた。
そして、灯が運転する車で買い物に出かける。
街中にではなく、郊外に向かっているようだ。
「おばあちゃん、この道、どこに向かってるの?」
「これはね、おじいちゃんとよく行ってた農場なの」
「え?初めて聞いた。Tallも行ったことあるの?」
「あるわよ。おじいちゃんは享にいろいろなことを目で見て触って教える人だったから、自分達が、いろいろな人に助けられて美味しいお野菜やお肉を頂くことができるって肌で感じるようにって」
「Tallがまだ子供の頃の話なんだね」
「えぇ、もうそれは何でも見込みの早い子で、おじいちゃんの自慢の種だったの。だから、どこに行くにも連れまわして」
「いろんな経験させてもらったんだね。いいなぁ、Tall」
「今の時期だと、そうねぇ、レタスにほうれん草、ラディッシュ、アスパラガスも採らして貰ってたかしら……あ、そこを右ね」
「はい!」
スターリング農場と大きな看板がある通りを右折し、道の両側に広がる膨大な様々な畑の風景に、灯の運転する車は吸い込まれるように進んで行った。
「あっ、イチゴも採れ時期だわ!不揃いなのは安くしてくれるから、沢山買ってジャムにしましょう」
「イチゴ!!わー楽しみ」
農場の表玄関というものか、路肩販売の店もこんなに大きいとは恐れ入る。
ちょっと車で寄って、買い物をして会計はお客が計算して料金箱に勝手に入れていくというやり方だ。
もちろん街のスーパーなどや料理店などにも卸しているので、これは地元住民に対するお互い様精神の何もでもない。
おばあちゃんは車から降りると、いつもなら灯が用意する車椅子に乗り、何を買うのか一緒に見て回るのが常だったが、今日は違うらしい。
車椅子に乗ったおばあちゃんは、店の中にまずは声を掛けた。
「ビル?マーサ?いる?」
中から、いかにも気のよさそうな歳の頃は、達志くらいの夫婦が出てきた。
「おぉ、バーバラさん!待ってたよ!このお嬢さんが享のお嫁さんかい」
「そうなの、灯っていうのよ、マーサは?」
「あらあら、バーバラさんいらっしゃい!享のお嫁さん?」
「そうなの、ごめんなさい。ほら、あのことがあって、なかなか連れて来られなくて」
灯がおばあちゃんに話しかけた。
「あの……ご挨拶を」
「そうだったわね。こちらスターリング農場のご主人のウイリアム・スターリングさん。みんなビルって呼んでるの。ここでは代々新鮮なお野菜を作ってくれている農家さんよ。で、こちらが、そのお嫁さんのマーサ、とっても気さくで働きものの素敵な奥さんよ」
「初めまして、享の妻の灯と言います。こちらの農場のお話は今日初めておばあちゃんから聞いて、すみません。ご挨拶が遅くなりまして」
「いいのいいの、訳があってのことだから」
マーサもビルも笑う。
達志が、おばあちゃんの家にお世話になると決まった時に大体のご近所周りには同行してくれて、享よりも先に挨拶は済ませていた灯だったが、この享もお世話になったという農場のことは露ほども知らず、びっくりしていた。
「訳?」
「そうよ、でも、この日を心待ちにしてたの」
おばあちゃんがそう言ってビルに目配せするとビルは建物奥に向かって
「サリー!!」
と名前を呼んで口笛を吹いた。
すると店の裏手から、黒をベースに、目の上や足に茶色、胸元に白が入っているオーストラリアン・シェパードが出てきた。
後ろから、よちよちと子犬が5匹、まだはっきりとしてはいないが、黒、グレー、白、茶がマーブル状に混ざり合った複雑な色合いのブルーマールと呼ばれる色合いの仔が2匹、それに母親譲りの黒色の毛並みの仔が3匹、母犬の周りを動きまわっていた。
「え?仔犬?」
「そう、バーバラさんに頼まれててね。親離れする時期が来たら、君に一番に選ばせてやって欲しいって、でもそれまでは内緒でってね」
「おばあちゃん……」
「灯、わんちゃん飼いたいって享に話したんでしょ?」
「あぁ、でもそれは享が仕事でいない時、淋しいし不用心だからって、すごく先の話だよ」
「何言ってるの、今、私達も十分不用心よ」
「え?でも私、実は享に鍛えられてるから強いよ」
「「は?」」
ビルとマーサが驚いて声を上げた。
こんな小さな子供みたいななりの灯が自ら強いと言い放ったからだ。
「馬鹿言っちゃいけないよ。そんな小さななりして、こんな風につかまれたらどうすんだい?」
ビルがわざと灯の右腕をぎっちり掴む。
すると灯は掴まれた腕を引くことはなく、むしろビルの腕に引かれるままに身体を任せた。
「え?なんだ?」
「あらやだ、なんで、アンタ座り込んでんの?」
マーサが驚きの声を上げた。
「投げ技もありますけど……すみません、いきなり」
ビルが立ち上がると、灯が慌ててそのズボンについたほこりをはたく。
驚いた顔をしながらも、灯にいやいや作業着だからと笑いながら大丈夫というマーサ。
「いやいや驚いたな、これはなんだ?知らんうちに尻もちついてた」
「護身術なんです」
「へえ、享仕込みかい?」
「はい」
「おい、バーバラさんよ、本当に番犬必要か?」
目を丸くしてビルはおばあちゃんに尋ねた。




