*また会える日まで
日曜日。
それぞれがそれぞれの戻るべき場所に戻る日。
早朝、先にボストンの空港に急ぐローレンス夫婦を車で、達志が送っていくことになり互いに挨拶を交わす。
「それじゃあ、バーバラまた来るから元気でね」
「有難う、由美子。また会えるのを楽しみにしてるわ」
「バーバラ、跡取り問題は持ち越しだが、そろそろ諦めたらどうだ?こっちは二人だけじゃない、何人家族だろうと、もちろんお前さんも一緒にみんなで楽しく暮らせるほどの城を持ってるんだからな」
「あらあら、小さいながらも住み慣れた我が家って言葉を知らないのかしら?スチュワートは頭の中も筋肉なの?」
二人は口元に微笑みを浮かべ静かな口調ながら、お互いに牽制し合う。
由美子がやれやれと言うように、両手を広げて、灯と享に近寄った。
「灯、ホント、スチュワートがいろいろゴメンね。急に押しかけて新婚さんなのに邪魔して」
「いえ、早くお会い出来て嬉しかったですし、楽しかったです。こちらこそお土産も頂いて有難うございました。元々ご挨拶に行かせて頂きたいと思っていましたし、ね?享?」
「うん。演習中って聞いたから待ってたつもりだったのに、先に来てくれるとは思わなくて……また親族集めてのお披露目も別に考えてはいるから、その時には宜しくお願いします。で、お土産って?聞いてないけど」
由美子に挨拶しつつ、灯に聞く享。
「あ、お義祖父様にベッドの下に隠しておけって言われたから……」
特注品のサバイバルセットを貰ったことを享に伝え忘れていた。
「なんだって、新婚の夫婦にそれって、何だよ」
「スチュワートだからこそよ、ふふふ」
「灯が使いこなせる訳ないだろ」
「気持ちだから」
「まあ……そうだね有難う。じいさんも有難う」
「お!、灯はナイフ投げの筋がいいぞ。他の物もお前使い勝手は教えてやれよ」
「え?!……あぁ、分かった」
「おい、キティ」
「はい、お義祖父様、あ!」
スチュワートは声を掛けながら素早く近寄ると灯を抱き上げて頬にキスした。
そして耳元で囁く。
「お前さんは本当に可愛い!しかも何しろ豪快だ!享が選んだ娘だけのことはある。ちっさい尻が、ちょっと心配だが、子だくさんの大家族にしてくれよ。俺達、みんなで面倒は見るからな」
「あ……えっと、はい、有難うございます……お義祖父様……宜しくお願いします」
顔を真っ赤にして享の方を見る灯。
「まあ、しばらくは新婚生活を楽しめよ!」
スチュワートはウインクを享に向けてした。
達志が運転する享の愛車でローレンス一家は走り去った。
「嵐の後の静けさね」
バーバラが呟く。
「それを言うなら、嵐の前の静けさだから……」
「あら、そうだったわね、ふふふ。でも、あの人達が来ると何だか楽しいのに寂しくもなるわ」
「そうだね……部屋に戻ろう」
「そうね」
享がおばあちゃんに付き添って中に戻る。
灯は過ぎ去った車の方をいつまでも見送り続けた。
数時間後、達志が戻ると、次は享と達志が帰る番だ。
午前中に出ないと帰りが夜更けになってしまう。
享の車でワシントンまで達志を乗せて行くことになっていた。
二人なら途中休憩も取らずに、運転を交代できるというメリットもある。
リビングでどの経路で戻るのが渋滞などに巻きこまれそうにないかなど地図を広げて二人で相談している時だった。
「良かったな、享。親父たちが来てる間に呼び出しがなくて」
達志に言われて享も、
「本当に奇跡みたいだよ」
「灯が幸運の女神なのかもな」
「その物言い……このスケコマシめ、なにがメグ一筋だ。クワンティコにも本部の噂が流れてきてるよ。毎週、横溝捜査官は両方の手でも足りないほどの局内外の女性からお声がかかってるってさ」
「でも、その誘いに乗ったことはない」
「え?そうなの?」
「あぁ、その話はちょっと大げさだけどな」
「本当にママ一筋?」
「享、お前の母さん以上の女性がいるとしたら……」
「いるとしたら?」
「あかりんくらいだな!!」
「そういうとこが嫌なんだよ!なんでわざわざ、そんなこと言うんだ」
「ふっ、からかいたくなるんだよなぁ、お前、物心ついてから、あかりんに対しては全く態度が変わらないから。本当にまっすぐ灯だけを見続けて驚きだよ」
「え?変わってないと思ってた?」
「なんだ?違うのか?」
「子供の頃から好きなのは変わらない。でも18歳の灯と再会した時、僕は灯にまた恋をしたんだ」
「また恋した?」
「12歳で渡航した時、離れ離れは辛かった。次の年に会えなかったのも悲しかった。でも、父さんが時間をくれたけど日本に18で戻って、探しても見つからなかった2年の方がもっと辛くて、もうアメリカに戻ろうと思った矢先に、同じ大学に灯がいることが分かった時には衝撃だった」
「彼氏がいたんだもんな」
「あぁ、でも本当は灯も同じ気持ちだった」
「諦めかけてたんだよな」
「運命ってあると思った。再会した灯は、中身は変わってない優しい少女の気持ちを持ったまま大人になりかけたような子だった。だから、僕はそんな灯に、また恋をしたんだ」
「中身は変わらない少女のような大人か」
その時、灯がコーヒーを運んできた。
「パパもTallもブラックだよね」
「そういえばコーヒー飲む暇もなかったな。じいさん達に振り回されて」
「やっと一息ついたら、もう帰る時間だもんな」
「灯の分は?」
「私はダイニングでおばあちゃんと」
「それじゃ、僕らもそっちに行こう」
「え?もうお話終わったの?」
「大丈夫、道はつながってるから何とかなる、ちょっと時間短縮できないか考えただけだから」
「さあさあ、行こう」
『言ってるそばから、灯の腰に手回しやがって、このくそ親父』と思いながらも、平和な時間を嬉しく思う享だった。




