*膝に乗れ
宴もたけなわといったところか。
ほぼほぼ、男性陣は飲み交わした缶ビールの本数分酔いが相当回っている。
由美子も強い方だが、昨日の今日で、少し控えめに飲んでいた。
「おいキティ」
「はい、お義祖父様」
「膝に座らんか?」
「「え?」」
享と灯は同時に声を上げる。
「おい、ジジイ、酔ってるからっていい加減にしろよ。灯は僕の妻なんだぞ!」
「メグは呼んだら、こういう席では一緒に飲んだり食べたりしたぞ」
「え?母さんが」
享は思わず達志の顔を見た。
「親父は何言っても言うこと聞かないし、まあメグは物おじしない性格だったからな。親父の相手するのも手慣れたもんだった」
「だからって、父さんまで灯に対してマネしないで欲しいんだけど」
「仕方ないじゃないか。あかりんはさ、僕の中ではまだ10歳なんだよ」
「は?」
「可愛い隣のうちの女の子のままなんだ」
享と達志父子が、そんなやりとりしている間に、灯は享より大柄なスチュワートの片膝にチョコンと腰かけた。
「お前、ちゃんと飯食ってんのか?軽すぎる」
「食べてますよ」
「それしても本当にちゃんと食ってんのか?ホントに子猫くらいの重さじゃないか?」
「まさか、そんなことないですって」
「そうか……じゃあ、まあこれを食ってみろ」
スチュワートから差し出されたフォークに刺さった大き目のサイコロ状のステーキ肉。
灯は一瞬、その大きさに躊躇するも思い切ってかぶりつき、一口でそれをほおばった。
「おぉ!キティ!食えるじゃないか」
もぐもぐと口だけ動かす灯。
『口の中に隙間もない……飲み込めるのか?どうなんだ灯?大丈夫か?』と自問自答を繰り返しながら、ずっともぐもぐを続ける。
「灯!頑張るな、口から出せ」
享がナフキンを持って近寄る。
それをスチュワートが制し、
「今、キティは俺との勝負に挑んでる最中なんだ。外野は黙っとけ」
「ジジイ!灯を窒息させる気か?」
灯も享に向かって手で大丈夫の様な仕草をした。
皆が注目する中、灯のもぐもぐが続くもようやく飲み込めた時、スチュワートは笑いながら大声を出す。
「よし!それでこそローレンスの嫁だ!よく食った!」
「美味しかったです!」
「そうかそうか、よしよし、じゃ、次はこれだな」
「え?」
次に差し出されたのは、既に用意されていたジョッキに入った缶2本分はあろうかという量のビール。
「これですか?」
「おお、そうだ。そういう付き合いもローレンス家の一員としては出来んとな」
享が口を挟む。
「ジジイいい加減にしろよ。灯はついこの間初めてお酒を飲んだばかりなんだ」
それを聞いた由美子も達志もバーバラも驚いてる。
達志がその疑問を口にした。
「22歳だったよな?飲み会とかって言うやつは行かなかったのかい?」
「はい、相棒で大学に通ってたので、飲み会に行かなかったわけではないんですが……飲んだことなかったんです」
「享、確信犯だな?」
「そういう席に本当は行かせたくなかったんでしょ?」
達志と由美子に言われちょっと焦る享。
「そんな付き合いまで邪魔するような器の小さい男じゃない」
「本当か?」
達志に笑われて思わず享は赤面した。
それを見てスチュワートは大笑いしながら
「それじゃあ、むしろキティがどのくらい飲めるのか確かめておかないとだな!メグは酒豪だったよな!バーバラ」
「誰に似たんだか、メグは本当に底なしだったわね」
おばあちゃんが笑っているのを見ると、灯はスイッチが入ったかのようにスチュワートの持っていたジョッキを取り上げ、いきなりビールを飲み始めた。
ほとんど一気飲みの勢いだ。
スチュワートは唖然としていたが、底が見えてきた時、ニンマリとした。
「灯!無理するな!」
と享が言うも、灯はジョッキ一杯飲み干した。
そして由美子がスチュワートに怒りながら
「もう!スチュワート!無理強いしないでよ。もしも灯に何かあったらどうするの?」
「キティ、もう一杯どうだ?」
由美子の話を無視して上機嫌のスチュワート。
「ちょっといい加減にしてくれよ!」
達志も止めに入るが、灯は真顔で
「はい、いけます!お義祖父様!!」
「おぉ、そうかそうか、よしよし。待ってろ、今注いでやるからな」
「はい!」
享は灯が何を考えているのか分からず、ただ、今スチュワートから引き離すのは、スチュワートの機嫌を損ねそうで、それが灯にとってマイナスになるのだけは避けたかった。
灯のジョッキにビールを注ぐスチュワート。
灯もスチュワートのジョッキにビールを注ぐ。
そしてお互いのジョッキをカチンと合わせてスチュワートは大声を上げた。
「ローレンス家の未来に栄あれ!」
灯はその声に合わせるようにニッコリ笑うと、スチュワートと同時にジョッキを傾けた。
スチュワートは灯の様子を伺いながらビールを飲んでいたが、灯はほとんど息もつかずにビールを飲んでいる。
先にジョッキを空けたスチュワートが感心したように呟いた。
「キティ、飲めるくちだな」
「お義祖父様ほどではないですよ」
「お前、可愛いやつだなぁ」
「あ、義祖父様」
「なんだ?
灯がテーブルの上のナフキンを取って言った。
「立派なおヒゲにビールの泡が……」
「ん?んん」
灯は持っていたナフキンでスチュワートの口ヒゲを丁寧に拭き始めた。
先ほどまでの勢いはどこに失せたのやら、少しドギマギしているスチュワートを見て、享は今だ!と言わんばかりに灯を抱きかかえると家の中に連れ去った。
「可愛いな、キティ……」
スチュワートの独り言に由美子も達志もバーバラも苦笑した。




