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糸目の衛士隊長はお人好し  作者: 新巻へもん


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84/104

第84話 派遣先での戦い

 ブランドは派遣先に到着すると現地騎士団の屯所に入る。

 これは騎士団業務を代行するので当然のことでありコロンナ侯爵から通知も届いていた。

 しかし、人の気持ちというのは単純なものではなく、留守居の老騎士の顔には歓迎の色は薄い。

 ブランドは滞在準備の指揮はノートンとフンボルトに頼み、自分は老騎士に礼を厚くしてこの地のモンスターについて教えを乞うた。

 辞を低くして助言を求める態度は老騎士の心をほぐす。

 もちろん、ブランドがそこそこの年齢であったことも無関係ではない。

 四角四面なだけの若者だったら反発の方が大きかっただろう。


 もう1方の調整先である地元の衛士団とのすり合わせはもっと楽だった。

 改めて騎士団と衛士団の役割分担について確認するだけで済む。

 ただ、地元出身で元気な若者を1名借り受けた。

 若者はトールハイムのやんちゃ坊主トマスがそのまま大きくなったような青年である。

 町周辺で遊んで育ったお陰で大人が知らないような抜け道や隠れる場所に詳しかった。


 入念に情報収集をすると、ブランドはノートン、フンボルト、第2隊の副隊長格の3人と作戦会議を開く。

「倒さなくてはならないモンスターは40ほどの強化オークだ。数はちと多いな。それと個体の強さも通常のオークに比べればかなり強いようだ」

 ブランドの説明にフンボルトが反応した。

「発生元を叩かなくていいのか?」

「研究熱心な魔法使いが生み出した強化オークだが、無尽蔵に生まれてくるわけではないそうだ。まあ、当の魔法使いが死んで50年、いつ尽きるかは分からんがな。まあ、魔法使いの拠点に20人で踏み込むのは自殺行為だろう」

 フンボルトは意外そうな顔をする。


「住民のために一肌脱ぐと言い出すかと思っていたんだがな」

「俺たちは余所者だ。この短期間では分からん事情もあるだろう。いずれにせよ、こちらに魔法使いが居ないのであれば危険すぎる。とりあえず拠点から溢れ出した連中を叩くのが第1だ」

「なるほどな。イライザがいれば別ということか」

 フンボルトはわざと名前を出してみた。

「そうだな。かなり心強くはなるな。しかし、私としては必要以上に団員を危険に晒すつもりはない。拠点を潰すのは本職がやるべきだ」


「それで具体的にはどういう作戦でいく? 話に聞くところによれば正面から強化オークの相手をするのもそれなりに危険だぞ」

「今は小さな集落を占拠してそこを拠点に勝手気ままに過ごしているようだ。そこの物資を食い尽くしたら、次の村に襲いかかってくるだろう。その途上を迎え撃つ」

「襲われる村で待ち受けないのか? その方が有利だぞ。即席のクロスボウ隊も防壁があった方が安心だ。何しろ再装填に時間がかかる」

 第1隊、第2隊といえども全員が戦闘のプロというわけではない。

 普段は町中で取り締まりや捜査をするのが衛士である。

 力が弱いもの、体つきの小さいもの10人を選び、騎士団の屯所で埃を被っていたクロスボウを借り受けて支援射撃隊を組織していた。


 その責任者はノートンである。

「扱いやすいものなのでオークの体のどこかには命中させられると思います。ただ、2撃目は間に合わないでしょうね。フンボルト隊長の言う通りで弦の巻き上げに時間がかかります」

「そうか。そこは課題だな。しかし、村に籠もるのはいいがそれでは全滅は難しい。アイツらは不利と悟ったらすぐ逃げ出すからな。それに籠もった村に寄りつかずに別のところに行かれても困るだろう」

「確実に殲滅するなら確かにこちらが籠もっていては難しい。しかし、数はこちらの方が少ないんだぞ。ブランド、その不利さをどうする?」


「そこは工夫がいるな。フンボルトならどうする?」

「俺に聞かれてもなあ。まあ、騎士のやり方なら分かるぞ。まとまって疾走し正面からぶつかって中央突破だ。基本はいつでもそれだから」

 単調な作戦行動を揶揄するように回答した。

「まあ、馬のない我々には関係のない話だ。戦い方は極言すれば突破か包囲に尽きる。ただ、少数で包囲しようというのは相当無理をすることになるぞ」

「ああ、少しでも差を埋めるために留守居の6名の騎士に応援を頼むことにしている。それで私の作戦だが……」

 

 作戦会議の3日後、ブランドたちは強化オークが占領している場所から最寄りの村への裏道の途中に隠れている。

 片側は川、片側は急峻な崖になっており、道は緩い坂道となっていた。

 ブランドたちは坂の上側にいる。

 川岸には丸太が倒されており、そこを伝うようにして坂道には水が流してあった。

 そのせいで道はかなりぬかるんでいる。

 坂の下側から強化オークがまとまってやってきた。


 泥濘に足を取られながら上ってくるモンスターたちが坂の途中に差しかかったところで隠れていた場所から躍り出た10人の射手がクロスボウを発射する。

 傷ついたものを押しのけるようにして残りの強化オークが走り出した。

 射手は手にしていたクロスボウを地面に置くと肩から紐で下げていた装填済みの別のクロスボウを発射する。

 2発目を撃つと射手は後ろを向いて逃げ出した。

 代わりにブランドとフンボルトを先頭に抜剣した衛士8人が前に躍り出る。


 仲間の半数近くを傷つけられ怒り狂った強化オークたちが殺到するが、ぬかるんだ坂道を上ったことで息を乱していた。

 ブランドとフンボルトは先頭の相手を斬り捨てると前に出る。

 6人の衛士は横一線に並んでブランドとフンボルトの後ろに回りこませないようにしつつ守りを固めた。

 ブランドは次の相手と剣で正面から打ち合う。

 力任せに押し込もうとする一際体の大きな強化オークの顔にドラマタが飛びついて所かまわず爪を立てた。

 オークは野太く吠えたけ、ドラマタはぴょんと逃れる。

 その瞬間に相手の剣を受け流したブランドが剣を滑らせて相手の首を深く切り裂いた。


 隊長2人は先頭で戦い続け、脂が巻いて剣の切れ味が悪くなると持っていたものを捨て腰に差した自前の剣を抜いて戦う。

 その頃には順次再装填が終わった射手が川の中に入り横合いからクロスボウを撃った。

 その辺りから逃亡を選択するモンスターが出始める。

 それに気付くと戦っている強化オークも浮き足立った。

 10体ほどが転びながら坂道の下へと走っていく。


 そこを今まで隠れていた残りの8名の衛士が4人ずつの列を作って待ち受けた。

 その隊形はハの字状になっておりモンスターは次々と横から剣を浴びせられる。

 逃げる強化オークはもはや戦うどころではなく唯一開いた脱出口に殺到した。

 5体ほどが傷つきながらも虎口を逃れることができたが、ほっとする間もなく馬蹄の音が響きわたる。

 あたふたと逃げ出すが次々に槍先にかけられて1体も逃れることはできなかった。


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