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糸目の衛士隊長はお人好し  作者: 新巻へもん


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第72話 作戦会議

 こうして、ベアトリス、イライザ、シャーリーの3人がラブ・ポーション探しに血眼になることになる。

 自分が使うかどうかについてとりあえずは別にして、他の2人の手に渡すわけにはいかなかった。

 特に貴族としての体面を気にする必要がないイライザは警戒されている。

 まあ、実際のところは見つけたところで使うのは難しい。

 ベアトリスが妄想したような感じで試してみようとしたところでブランドが一緒なら止めないはずがなかった。


 とはいえ、1人だけでこっそり探して見つけ出すことができれば話は別である。

 密かに保管しておいて何かに混ぜてブランドに飲ませればいいのだ。

 ただ、ラブ・ポーションは服用後最初に見た相手に対して効果を発揮する。

 間違って他人を見せないようにするためにはブランドと2人きりにならなければならない。

 これはこれで簡単なことではなかった。


 少し考えれば使い道は難しいということに気が付いたが、それでもブランドが持ち込んだ事件で活躍すれば何らかの感銘を与えることは間違いない。

 このため、3人はラブ・ポーション探しに全力で取り組んだ。

 しかし、ラブ・ポーションは見つからない。

 衛士団長の部屋に張られたトールハイムの地図の通りという通りに色が塗られても発見できていなかった。


 魔力検知の魔法にはもちろん射程距離がある。

 今回のラブ・ポーションの探索においては、ブランドが衛士団の記録から見つけた魔力のパターンを提供しているので通常よりは遠くまで探知できるはずだった。

 通りからという制約があるが、私有地内もある程度までは感じ取ることができるはずなのに見つからない。


 団長室にブランドとイライザを集めてベアトリスが今後の方針を話し合う。

 シャーリーはブランドが持ち込んだ離れたところと会話できる三角形をした金属の棒を介して参加していた。

「これだけ探しても見つからないというのは情報の提供元が間違えたという可能性はないか?」

 お疲れ気味のベアトリスが口火を切る。

 話を持ち込んだのはブランドであり、ガセネタを掴んだのじゃないのかというのは言いづらかったが立場上言わざるをえなかった。


「絶対に間違いではないとは言い切れませんが……、そうですな、こうなったら私がこの話が本当だと信じるに足る理由をお話するしかないでしょう。これから話すことは皆さんの胸のうちにしまっておいてください」

 ブランドの発言に2人は表情を引き締め、三角形の中の空間からシャーリーの承諾の返事が返ってくる。

「ラブ・ポーションの製法は秘密になっていますが、原材料として魔女の実を精製した薬が使われています。私が都からの帰り道に遭遇した事件では、その薬の密輸をしようとしていました。その犯人の一味が自白したというのであれば、本物である可能性は高いと考えます」


「ああ、そういうことなのですね。なるほど」

「そっか。あれを変性させることで作成しているのね。確かに理にかなっているわ。でも、ブランド。魔法使いでもないのにそんなこと、良く知っていたわね」

 2人の魔法使いの発言をベアトリスは表情を消して聞いていた。

 悔しいがなんのことだかさっぱり分からない。

「ああ。若いころに老魔法使いから聞いたことがあるんだ」

 ブランドは事情を説明する。


「では、本物だということにしておこう。それであれば魔力検知に引っ掛かるはず。なぜに見つからないんだ?」

 視線を向けられたブランドは困った顔をした。

「それは私も分かりません」

「それじゃ私がブランドさんの代わりに説明しますね。1つ考えられるのは隠されている敷地が広い場合です。道からでは距離がありすぎて射程範囲外になっている場所はあると思います」

「地下に置かれていればさらに把握しにくくなるしね」

「それと容器に別の魔法を付与して偽装している可能性もありますね」

「ただ、それだと別の注意を引くことにならない? 他のものを覆い隠すほどの強さになると魔法が使えなくても勘のいい人なら違和感を感じるでしょ」

「あくまで可能性を挙げただけです」


 シャーリーとイライザの会話に入れないことはベアトリスを刺激した。

 思わず唇を噛みしめる。

 これではいけないと気を取り直して会議の進行役に徹しようと自分に言い聞かせた。

「ということはまだ無いと判断するわけにはいかないということだな。しかし、これ以上の調査も難しいな」

 ベアトリスは壁の地図に目をやる。


「残っている場所は大きな屋敷ばかりだ。必然的に金持ちや有力者の家ということになる。事情を話さずに踏み込むことは難しい」

「方法が無いわけじゃありません。1人ではこの距離が限界ですが、複数人で同調させれば探査距離を伸ばすことができるでしょう」

 シャーリーの提案にイライザが賛意を示した。

「確かにその手はあるわね。だけど同調しようという人間が全員手を繋ぐ必要があるわ。私たちがそんなことをしていたら目立ち過ぎない?」


 その解決策をベアトリスが提案する。

「目立つという点は馬車に乗れば解決するな。ではそれで試してみるか?」

 すぐに賛同の声はあがらなかった。

 衛士2人と騎士1人という組み合わせである上にトールハイムで目を引く女性たちである。

 ずっと馬車に乗ったままというわけにはいかないだろうし、何をしているのかという興味を抱く者は多そうだった。


 それになんというかお互いに手を繋ぐことに抵抗感がある。

 ブランドを巡るライバルであるし、別に敵視しているというまでではないが、仲良くお手々繋いでというほど親しいわけでもない。

 ブランドなら大歓迎なんだけど。

 3人が3人とも抱いた感想であった。

 魔法使いたちの議論を黙って聞いていたブランドが口を開く。


「見つからない理由として、もう1つ可能性があります。ラブ・ポーションが移動しているのではないでしょうか? 皆さんが魔法を使えるというのは知られています。持ち主からするともっとも警戒すべき相手だ。その探査を逃れるために馬車にでも乗せて移動させるというのは十分に考えられると思います」

「ブランド、凄いわ。きっとそうよ。それなら辻褄が合うわ」

「さすがですね」

「いや、団長の発言でふと思いついただけだ」

 ブランドの言葉はベアトリスに面目を施した。

 大いに気を良くして声を弾ませる。

「そういうことなら作戦は簡単だ。こちらは良く燃える藁人形を用意すればいい。相手の注意ををそちらに引きつけている間に陰からそっと躍り出て確保してしまおう」

 それから詳細を詰めて一行は解散した。

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