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糸目の衛士隊長はお人好し  作者: 新巻へもん


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第71話 不覚

「はあっ、はあっ」

「団長、大丈夫ですか?」

「大丈夫よ。これぐらい」

 ブランドに気遣われたベアトリスは平気さを装おうとしたが明らかに無理をしている。

 どこからどう見ても疲労困憊していた。

 今日はブランドとベアトリスでラブ・ポーションの捜査を行っている。

 ラブ・ポーションの発する特殊な魔力を探知しようというものだった。


 しかし、バッシュが心配したようにベアトリスは魔力検知はあまり得意ではない。

 そのため魔力の消費に無駄が多くなっている。

 ダブレオの屋敷で使ったように戸口や窓など特定の数カ所を指定して使うのであれば問題ないが、常に受け身で探査し続けるとなると体がもたなかった。

 ブランドがベアトリスの後ろに控えるフランセーヌに気付かれないようにチラリと視線を向ける。

 そっと首を横に振った。

 ここで従者も同意見だからというようなことを言ったりしないのがブランドである。

 あくまで確認のために行ったのであり、責任を分散するつもりはなかった。


「ああ、そうだ。団長、ちょっと寄り道していいですか? 孤児院が近いのでちょっと挨拶をしたいのですが。まあ、孤児院には探し物は無いと思いますが、そういうところは盲点になりがちですしな」

 ベアトリスが承諾し、3人で院長室を訪ねれば、色つきのお湯といった方がいいような薄いものとはいえ温かいお茶が出る。

 子供たちが掘った芋を練りこんで作った不格好なパンも添えられていた。

 決してご馳走とはいえないが、この饗応の品は小雨交じりの屋外で歩き続けていたベアトリスの体に染みる。

 ブランドは孤児院に寄る口実に使った話を孤児院長に語った。


「ダグラスに取られた運営経費ですが、まだ戦闘中であることを考えると今期の回収は難しいかと思います。お手数ですが欠損金処理をしていただく必要がありそうですな。それと私がミリーに貸したお金は院長から返してもらったことになっているのでよろしくお願いします」

 内気なミリーが見た目の厳しい院長にわざわざ確認するとは思えなかったし、示し合わせていなくても院長が適当に話を合わせるだろうが念を入れる。

「そうですか。分かりました。折角ですから子供たちの顔を見ていってください」

 そう勧められればベアトリスも仕事中ゆえと断りにくい。


 子供たちの部屋に行くとたちまちのうちに人だかりができる。

 ブランドを取り囲む輪を離れたところから眺めることになるとベアトリスは思っていたが意外なことに女児を中心に自分も取り囲まれることになった。

「ねえ、女神さまの巫女をやってた人でしょう? とっても綺麗だった」

「今日はかっこいいね」

「イライザお姉ちゃんとどっちが強いの?」


 決して小綺麗な格好をしていない子供に囲まれたら以前のベアトリスなら辟易としただろう。

 ただ、今は違った。

 トールハイムの住民が全て孤児たちを温かく見守っているわけではない。

 偏見もあるし、自分より下の存在と見てぞんざいな扱いをする者もいる。

 だから、孤児院の子たちは院の外ではこうして誰かに話しかけるということをしない。

 また、孤児院を訪問してきた人に対しても相手を選んで接していた。

 特に綺麗な格好をした人には側に寄らないということが徹底されている。


 実際、着任後にベアトリスがブランド抜きで立ち寄ったときは子供たちは遠巻きにしており、話しかけても短く答えるだけだった。

 ところが今日は違う。

 ブランドおじさんの連れてきた人は話しかけても大丈夫。

 孤児院の子が周囲に寄ってくるのはブランドの信用のお裾分けをしてもらっているのだということをベアトリスはひしひしと感じていた。

 少し身構える形にはなったが、子供たちの質問には丁寧に答える。

 孤児院を辞去したときはベアトリスは肩の荷が下りてほっとする気分になった。


 その後もブランドお勧めの魚を揚げたものを食べさせるスタンドなどで適宜休憩を挟んだのでなんとか1日の調査を終える。

 しかし、その範囲はトールハイムの町の10パーセントにすら到達していなかった。

 詰め所に戻るとベアトリスを更なる試練が待ち構えている。

「今日1日どこにいたの? ノートンに聞いても知らないって言うし。あれ?」

 ブランドの後ろからやってきたベアトリスに気付いたイライザが訝しげな声をあげた。


「団長と2人きりで何していたの? あ、こんなところでする話じゃないか。もう今日の仕事は終わりよね」

 イライザは手近な部屋にブランドを引っ張っていく。

「で、何をしていたの? 何か重大な案件なんでしょ? 今日で終わりって感じでもなさそうよね。私も手伝うわよ。団長ってば凄く疲弊していたじゃない」

「ああ、そうだな。ちょっと辛そうだった。でも、イライザは俺たちが不在の間、大変だっただろう? それで団長が今回は休ませてやろうと自ら志願したんだ」

「ということは魔法が使える必要があるわけね。じゃあ、やっぱり私の方がいいわよ。一般魔法ってもともと効率良くないし、連発するものじゃないから」


「なるほど、そういうものなのか。それは団長に悪いことをしたな」

「そうよ。だから私が代わるわ。もう十分休養したし」

「しかしなあ」

 ブランドは渋った。

「なによ。私の魔法使いとしての能力は知っているでしょ?」

「それはそうなんだがな。イライザの後に団長がやるというなら問題ないんだが、逆だと上司としての面子を潰すことになるだろう?」

「ああ、そういう意味ね。それなら分かるわ。確かにそれはプライド傷つけそうね。私が専業の魔法使いならまた別なんだろうけど」


 ブランドは腕組みをする。

「しかし、団長が限界なのも間違いないし、捜査を長引かせるわけにもいかないな。やはり、私から人を増やすことを進言しよう。私が持ち込んだ話だし、その方が聞き入れてもらいやすいだろうからな」

「私がブランドと話しているのは団長も見て知っているから同じようなものだけど、そういうなら任せるわね」

「大丈夫だ。そこは本職を入れるのをメインにする」


「本職って誰よ? こう言ったらなんだけど衛士団だと私が魔法を1番使えるわ」

「ああ、それは間違いない」

「え? それならどういうこと?」

「私が考えているのは騎士団の手を借りることさ。車の両輪のようにお互いに協力する体制になりつつあるからな。その先鞭をつけた団長もきっと諸手を挙げて賛成するに違いない。シャーリーさんなら人物も腕も確かだし」

「うん。まあそうね」


 イライザは複雑な気分だったが事実をねじ曲げてまでライバルを貶めるつもりはなかった。

「で、何を探しているの? それぐらいは先に聞いてもいいでしょ?」

 ブランドは少し考える。

「まあ、イライザにも助けてもらうのはほぼ確定しているようなものか。実はな、トールハイムにラブ・ポーションが持ち込まれている可能性がある」

「ラブ・ポーション?」

 聞き返すイライザの声は少し裏返っていた。

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