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糸目の衛士隊長はお人好し  作者: 新巻へもん


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第54話 再度の移送

 ダグラスはトールハイムまでは何事もなく移送されてきたが、この先の行程が問題となる。

 脱走事件は引き起こしたものの、それで再度審理を受けられる権利が消えるわけではなく、都まで送り届けなければならなかった。

 ただ、1度やった以上は心理的な障壁は下がっていると考えられる。

 関係者が再度の脱走を企てる可能性があった。

 2度も脱走されては面目丸つぶれである。

 しかし、ニエワリの町から連れ去られたことについて、隣国から抗議の声が上がるなか、最前線のトールハイムの騎士団からさらに監視の人数を割くのは難しい。


 かといって衛士団が表立って助けるわけにもいかなかった。

 そもそも、ダグラスの確保についてフンボルトが休暇中に協力しているだけではない。

 その前段階でギークが集めてきた裏社会の情報が潜伏先を突き止めるのに役立っているがこれも衛士団の仲介によるものであった。

 騎士団ではギークを使いこなせなかっただろう。


 本来衛士団とは水と油の関係のギークが協力したというのも不思議な話ではあるがこれには本人しか知らない裏があった。

 実はギークには年の離れた弟がいる。

 自分のような係累がいては迷惑がかかると、人相風体が変わったことをいいことに本人には告げていないが秘かに見守っていた。

 以前ゴブリンに拐かされそうになったのはこのギークの弟である。

 その恐怖から家に引きこもるようになったのを励まして以前の生活が送れるようにしたのはブランドだった。

 ゴブリン退治をしたことももちろん感謝していたが弟の笑顔を取り戻してくれたことに深い恩義を感じている。


 今さら悪事から足を洗うことはできないが、ギークはいつか恩返しはしなくちゃなんねえと心に決めていた。

 ダグラスの確保に協力したのはブランドのことを深く逆恨みしていると聞いたからである。

 直接的にはフンボルトにとっ捕まり絞り上げられて仕方なくという体裁を取ったが内心はこれ幸いとダグラスに関する情報を集めた。


 ギークの思惑は当然表沙汰にはならなかったのでフンボルトの手柄となっているが、騎士団が衛士団に借りがある点では変わらない。

 そしてギルクスたちを送り込む隊商をあっという間に仕立てることができたのはブランドが頭を下げて回ったからだった。

「騎士団の尻拭いの手伝いをなんでわしらが手伝わなくてはならないんだ?」

 そう言って渋る商人に、最後はブランド隊長の顔を立てて協力しますよと言わせている。

 そして、ベアトリスはこの隊商の派遣が最終的に赤字になったときの補填を約束していた。


 というわけでオーギュストにしてみれば、ベアトリスを始めとする衛士団に借りを作り過ぎて胃が痛い。

 そんな状況であったが、ダグラスの都への移送について更なる支援の申し出がある。

 騎士団の屯所を訪問したベアトリスはにこやかに笑みを浮かべた。

「移送が完了すれば速やかにダグラスの審理が行われるでしょう。その際に万全を期すために証人と調書作成者を派遣しようと思いますの。どのみち都に行くのですから旅程は合わせた方が合理的ですわね」


 つまりはブランドとフンボルトを派遣するということである。

「それは……、衛士団の方が手薄になるのではありませんか?」

「大丈夫です。あの2人なら自分が不在の時でも部下が動けるようにきちんと普段から指導しているそうなので。ついでに私も久しぶりに里帰りしますわ。この意味はお分かりになります?」

「つまり、オラストン伯爵の激発を誘うと? ダグラスを奪い返すついでにこの騒ぎの発端となった3人に仕返しするチャンスだと思わせるのですか? それはあまりに危険すぎます」


「そうですけど、移送中の者を脱走させるようなお馬鹿さんです。いつまでも逆恨みされているんじゃ面倒でしょう? だったら時と場所をコントロールした方が楽です。今度は正面から奪いにくるしかありません。その場でオラストン伯爵が関与しているという証拠か証人を押さえてやりますわ」

「確かにそうなれば禍根は断てますが大丈夫なのですか? 父君の了承は?」

「そんなもの、もちろんありません」

 ベアトリスは軽やかに笑った。


「まあ、最終的にコロンナとオラストンの家同士の話になるかもしれません。でも今は無法者と衛士団の諍いよ」

「それではこちらの人員も腕利きに変更します」

「そんなことをしたら、前回失敗した騎士の不満が溜まります。雪辱の機会は与えませんと」

「ですが……。恥を忍んで白状しますが、あの3名は衛士団を目の敵にしています。相手に付け入る隙を与えかねません」


「だったらなおのこと人員はそのままにして頂かないと。私たちが同行するせいで外されたと知ったら恨まれます」

「しかしですな」

「オーギュスト殿の目から見て、その3人はこの状況下でも私情を優先するような方ですか?」

「分かりました。私の方から良く言い聞かせましょう」

「せっかくのお心遣いですが、あまり執拗には仰らないでください」


 ベアトリスが帰った後、オーギュストはすぐにギルクスたちを呼びつける。

 現れた3人に衛士団が同行することを告げた。

 不安に反して厳重な面持ちで話を聞く。

「分かりました。今度は任務を全うします」

 ギルクスたちはダグラスに恩を仇で返されたことにいたく立腹していた。

 衛士団やブランドに対して思うところがあるのは変わらないが、どちらの方がより気に入らないかといえばダグラスの方である。


 それにフンボルトに対しては素直に感謝の意を抱いていた。

 ニワエリの町に潜んでいるという情報が無ければ、未だに途方に暮れていたはずである。

 ダグラスを捕縛のときにも肩を並べて戦ってもいた。

 それになにより男爵家の出身である。


 このため、トールハイムを出てからギルクスたちと衛士団はフンボルトを通じて意思疎通を行うことができていた。

 ブランドもベアトリスが話しかけていることが多いので、ギルクスたちと話す機会はない。

 それに従者たちというのは主の立場とは別に独自のつながりを持っている。

 そのため、急ごしらえの混成チームであったが決定的な行き違いは起きなかった。


 かなりの腕前を持ち十分に武装した総勢11人というのは十分な戦力である。

 正面から攻撃してダグラスの身柄を奪うには最低でも30人は人数を揃える必要があった。

 そうなるとそう簡単に人を集めることは難しい。

 

 ただ、護送をしている側は知る由もなかったのだが、ダグラスの父はオラストン伯爵が家を継ぐ際に一役買っていた。

 もちろん、他人に漏らされては困る色々なことも知っている。

 そういう意味ではオラストン伯爵としても多少は危ない橋を渡ってでもダグラスの父を支援せざるを得ない。

 このため、ダグラスを奪還するための多数の人員が半ば強引に集められている。

 その集団が昼なお暗い森の中で移送のための馬車を待ち受けているのだった。

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